QJYつうしん 第11号
平成7年11月11日
赤い貝殻の黒真珠 ゴンズイ 東区/松笠山(375m)
前号でうちの裏山「牛田山」の話をした。
今日はその牛田山から東に見えるもう一つの裏山、裏山の裏山だから表山。
なんて、馬鹿なことを言ってないで、すばらしきご近所さんを紹介しよう。
ここ松笠山に登る人達の多くは中腹にある「松笠観音寺」への参拝者だ。寺のある山は一般的には神聖な修行場であると思えば間違いない。よく山に登って、散らかったごみ箱や展望台の落書きにがっかりする事がある。その点、寺のある山はそんないやな思いをすることは少ない事を知っておくと便利だ。まあ、保証はしないがそういう傾向はある。
松笠山は結論から言えばゴミひとつ落ちていない美しい山なのである。
この日はわが家を10時半に出ているからQJYとしては普通の「思いつき」の山歩き、昼食のお弁当さえ用意されていない。そこで戸坂のザ・ビッグで昼食を買い込んでついでに車も置かせて戴いた。ビッグから真っ直ぐ山に向かって歩くとそこはJR芸備線戸坂駅に着く。もちろん向かっている山が目的地、松笠山だ。無人駅の戸坂駅を渡り、実が鈴なりの柿の木を見ながら最初の鳥居をくぐる。戸坂墓苑のすぐ右隣に石段があり、登り口はたやすく見つかるはずだ。
石段を登りつめると鐘つき堂のある「竜泉寺観音」がある。お堂の中に観音さまが奉ってあるので、登山の無事と何らかの収穫(?)を祈る。右手の道へ入るとすっかり花の散ったハギの山道だ。
少し歩けば、大きな岩に囲まれた小滝と小さい祠のある場所に出る、琴比羅神社だ。広島市内であることをすでに忘れてしまっていた、或いはタイムスリップしてしまったのだろうか。
水の音だけが聞こえる。深山霊谷だ。
ヅバキやクリの樹林を歩く。
ヒヨドリのうるさい声も時折耳に入る。
アベマキ、ナクシログミとくればやはりここは海岸に近い広島の山であることに気づく。
フユイチゴの小道を歩いていてふと顔を上げるとスギが植林されているのに気がついた。
ネムノキ、ヤヅデ、ビワ、と変わった植生は都心の近さを示すものだろうか。
ヒヨドリジョウゴやヘクソカズラが巻きついている。カクレミノにたくさん実がついていた、ヤマツツジの木だろうか紅葉している。しかし一番綺麗なのはヤマハゼ、真っ赤な秋の色だ。
このヤマハゼの紅葉が広島のような沿岸地で見られることは、貴重な植生であると恩うのは私だけだろうか。まだ1時間経っていないが、鳥居が現れた。それも幾つも立っている。これから行くのは確か寺のはず。「龍水山松笠観音寺」と書いてあった。神仏混合の複雑な時代背景があったのだろう。
境内には昭和51年3月に市指定天然記念物となった「松笠観音の巨樹群」がある。
ズギが4本、ヒノキ、イヌマキ、アベマキ、モッコク、が各1本。確かに大木だ。モッコクは赤い実がびっしりと枝を飾っている。辺りを見回すとサザンカ、イチョウどれも大きい。クサギが実を付け青空に映える。丁度昼になるので、左の道を進み「八畳岩の展望台」へ向かおう。コシアブラ、タカノツメ、リョウブに混じりガマズミの赤い実が美しい。
大きな岩が高速道路の広島ICを見下ろす様に山から出ている。昼食には丁度良い見晴らしだ。日向ぼっこでもしながら、ここでうつらうつらするのもいいだろうな。などと思っていると寝ていられないぞ!まわりにある木はネズだ。…つまり「寝ず」。
武田山、火山、経済大学の光景は牛田山からと同じだ、ただここのほうが100メートル以上高い、ナツハゼ、ソヨゴなど実の付いた木がたくさん、特にクロキの青黒い実は見事としか言いようが無い。
それにしても今年の木ノ実の多いこと、一説に昨年の猛暑が挙げられるが、たぶんその様だ。過酷な夏を過ごした樹木は世紀末(ハルマゲドン)を感じとってしまったのか、肥料をやりすぎると花が咲かないと言うから、花が良く咲いたのは樹木にとって安閑として
いられない状況だったことは確かだ。そこで、この春、夏は是が非でも咲かなくては・・
、と、思ったのでしょう。植物のひとつの生きる道を示したこの夏だった。
さて、頂上にはあと40分。尾根に沿っての歩き易い山道だ。NTTの塔がある、東側の視界が開けると向こうはニヶ城山、右手は温品の方向だ。
アブラチャン、ヒメヤシャブシ、オオバヤシャブシ、ケヤマハンノキが実を見せてくれる。さあ、あと少しだ。NTTの施設への林道と平行して山道がある。「菰口憩いの森」への降り口が看板になって立ててあった、この表示の「東浄団地」方向に向かうと目的地の山頂だ、おや何か落ちているぞ。ミヅバアケビの赤紫だなこの色は、大きさはSサイズ、みかん、しかし葉が5枚だぞ、しかも口が開いてない。
ムベの実だ。見上げると絡み付かれた木が可哀相なくらいたくさん実って
いる。口に入れるとアケビよりふくよかな昧、大きな種で食べやすい。タロモジやカマツカがある。そして山頂には中電の反射板の施設が。
遠く厳島が隣の牛田山の向こうに見える。
ムラサキシキブやヤマハゼの秋を彩る樹木が、と、ひょろっとした木が目についた。
真っ赤な豆の殻から黒い種をのぞかせて、異様な鮮やかさで目に付く木だ。葉は対生、細かい鋸歯 ゴンズイだ。ミツバウツギ科というやや珍しい類。赤い豆のさやからこぼれる黒い実はスタンダールの赤と黒、鮮やかにコントラストをつけている。
ゴンズイ
黒い種はまさに黒真珠、ならば赤い殻は真珠貝の貝殻か。その内の1本は高さ8メートルはあろうか、この仲間では大きい。こんな木が歓迎してくれるなんて、これだから山登りはやめられない。
「晩秋はイが無くなる代わりにこうして木の名前をえるヤンスでもる
実に特徴のあるゴンズイは意昧不明なその名とともに覚え易い木なのだ。
帰路は八畳岩の展望台には行かず、松笠観音寺への近遺を使う。護摩遣場を通って先ほどの巨木の靖内へ戻り、来た道を引き返すことにする。
植生の豊かさではうちの裏山は松笠山にリードされてしまった。たかが100メートルでこれほどのバラエティが揃うのか。四季を通じて観察を続ければとても良い山だと恩う。
JR戸坂駅から登山口が始まるのも交通の便から言って、最高の環境ではないだろうか。
植生、跳め、安全性、経済性、来年の観察会にはこの山を候補地に入れて見よう。