QJYつうしん 第2号

休日は山にいます
平成7年7月20日

林床の妖精 イチヤクソウ 芸北町/高岳(1054m)

7月8日はイチウクソウが咲いているという芸北町高岳(1054.3m)に登ってきた。

山田迪孝著広島百山(さくら印刷出版)で紹介されている、なかなか景色のいい山だ。

この本は随想的山旅案内記と銘打ってあるだけに、氏の半世紀にわたる県内の山歩きの記録に留まらず、登山心得や草花への愛情に至るきめ細かな情報を分かりやすく著わした名著であると私は思っている。また氏は日本現代詩人会会員であられ、文章の流れの良さは全くお手本としたいところだ。例えば天上山(湯来町)について引用した文章を衆岳会の機関誌第23号の報告より、と注釈はあるものの「天上山は深い山だ」と書いて終わらせるところなど詩人の心意気を感じさせる読みやすさもある。

なぜここの部分に目が行ったかと言うと、「天上山は深い山だ」と機関誌で表現したのは私と同じ会社で毎日顔を合わせている山の先輩「弓場章弘」さんで、この人は中国新聞社の本『ふるさとの山歩き」にも「窓が山」の項で執筆している人なのだ。

思いがけずこの山田さんにお会いずることが出来た。

今日アステールプラザで開かれた、日本自然保護協会の主催ずる会合の席であったが、75オになられるがお元気な姿を見せて下さった。

 

さて、イチヤクソウが咲いている時期は広島市近郊で有ればもう2週間は前の筈。現に熊野町のあるポイントでは6月14日に確認した。また7月2日にはその株が実を付けたことも。だが、ここ芸北町ではこの日あたりが丁度良いことになる。

高岳は聖湖を挟んで向こうに刈尾山(臥龍山・1223m)を見ることのできる景色の良さでは一級品の山だ。その割にあまり最近登る人が多くないのは、そう、クマの出没。隣の聖山(1113m)の近くでは目撃が相次ぎこの両山の縦走路は利用ずる人が極端に少なくなった。

山への入り口は国道191を聖湖へ入り、樽床ダム(三ツ滝へのルート)を過ぎてしばらく車を走らせると大きな看板が目につくので迷うことは無い。

歩き始めてしばらくは杉の植林が続き流れに沿っての一本道だ。雨が最近降っていないので一箇所ある川の渡りは楽だった。トレッキングシュースをやめて長靴にしたが、とにかく渡れる所で渡った方が良さそうだ。水場の案内のある場所(沢沿いで水場の案内があるのも不思議)近辺から足元に目指ずイチヤクソウが見られるようになった。

大群落とは言えないが、秋のウメパチソウに似た、可愛いらしい白い花。

 

イチヤクソウ

イチヤクソウ科の多年草で梅の花に似た5弁の自い花をうつむきかげんに咲かせる林床の妖精。独特の葉の模様で、山を歩いていると花が無くても確認できる。ドクダミが十薬(ジュウヤフク)と呼ばれるがこららはその姿に似て控えめな一薬草。

花というのは不思議なもので1本見つかり目が憤れて来ると、あたりにこれほどあったのかとびっくりするほど見つかる。そんな中で仲間のウメガサソウの小さな花を3株見つけられたのも嬉しかった。イチヤクソウの弟分で丈は10センチ足らずと兄貴分の半分以下、茎の頂点に1個だけ梅笠の白い花を、やはりうつ向き加減につける。葉はどららかと言えぱミヤマウズラ風。

光の届きにくい林床の片隅に集まっていた。

この花が目的でなけれぱ目を向けることも無かったであろう、道からはずれた部分。

イチヤクソウ

人に見てもらうよりもクマに見てもらうほうが多いのではないか。おっと、ここはクマの出没することで有名な山だった。

今回の登山も、なにしろ、クマだけが悩みのタネ。イチヤクソウだけ撮って、頂上まではやめておこう、と、思ってはいたが、頂上からの眺望は余りにも捨て難い。QJY−休日は山にいますの会はなにしろ妻と二人での行動が多いので、クマの出没する山は少々苦手である・おそらく5人以上の団体さんはクマとばったり出くわしても心配は無いと思う(何も根拠はありません)。

すると、若い人達の声がする。6人の登山グループが後ろからやってきた、これはラッキー、急に元気が出てきたので、ともかくついて上がることとしよう。

山道を辿りながら眼下に聖湖、向こうに刈尾山、聖山を見る最高の眺めだ。緑の中にヤマボウシの純白の鮮やかな花がところどころで存在感を示している。「ああ、来て良かった。」、いつもの言葉が自然に出て来る。

ネジキのスズランのような見事な花、フクラシ(ソヨゴ)、ソクシンラン、ヤマアジサイ、ササユリ、などなど植生豊かな山だ。先ほどまでのスギ林は水場の手前で姿を消し、ミズナラやそれに絡まるイワガラミが目に付きはじめる。フクラシは花をいっぱい付けて蜂が嬉しそうに飛び回っている。5月に見学させてもらった養蜂家の徳田さんも今はおおいそがしの事だろう・・良質のハチミツが採れるというフクラシ。ところでフクラシの語源は、火を当てると膨らむから、とか。誰か試してみて下さい。

頂上は爽やかな風が吹き、ササユリやヒヨドリバナが揺れていた。お隣の芸北町はこのササユリが町の花、平地では出合うことの無くなった大型美人である。


雲の流れの早い少々荒れたお天気に、6人グループは昼食の用意をはじめた。こららも「夏」の定番缶ビールを「プシュッ」。夏山の良さは頂上の「プシュッ」。少々なら雨が降ってくれた方が涼しいのだが。山で降られる雨はあたりまえと思わなければならない。そう思うと雨降りは何とも無くなるから不思議だ。青空が出ると強い日差しが照りつける。しかし1000m級の山の良いところは平地にない涼しさだ。

他にはノギラン、オカトラノオ、ウツギ、リョウプ、ヒサカキ。

ノリウツギがそろそろ自分の番だぞ、とつぼみを付けている。そういえばクロモジはもう実をつけているし、夏の盛りはこれから、と思ってもすぐ秋が近付いているのだろうか。

帰路は同じ道を下る。上りで気づかなかった花が必ず有るのが不思議だ。

夏の1日、疲れの残らない登山であった。

八幡湿原はこのすぐ近く。帰りに長者原のモリアオガエルの卵の様子を見に行く。トキソウ、バイケイソウ、ノハナショウブが今はさかり、やや早いがクサレダマも咲きそうだ。

芸北は今が山の春。

 


 

<<写真撮影ワンポイントアドパイス>>

どんなカメラがいいの?

 

いわゆるバカチョンカメラ、全自動時代のコンパクトカメラは旅行に持って行くにはコンパクトで便利なカメラだ。ただしこれで部屋に飾るような花の写真を撮るには少々無理がある。花の場合、対象が小さいため、ある程度の近接撮影が出来なければ鑑賞に堪えない。もちろん一眼レフのレンズ交換式のカメラに越した事はないが、コンパクトカメラでもクロースアップ機能の付いた物も出回っている。ただし、露出がフルオートだと背景がはっきり入ってしまうため、絞りを開放に固定できるタイプがお奨め。カタログでその辺を詳しく調ぺるか、専門の店員に目的を説明して、山ほどある機種の中から、希望の一台を選んで貰おう。