QJYつうしん 28号

     休日は山にいます

危急種 黄色いスミレの合唱隊     ダイセンキスミレの春の歌

 比和町/吾妻山〜西城町/比婆山烏帽子

 平成8年5月11日


朝のドラム

 朝のドラマと言えばNHKだが、朝のドラムと言えばいったい何?正しく言えばドラミング。

 実はこのところ我が家の近くで、朝早くから高い音で心地よいドラミングが聞こえる。ドラミングとはキツツキの木をつつく時の小太鼓を連打するような音のこと。

 それにしても甲高い金属音なので双眼鏡を持って探してみた。音の主は容易く見つかった、コゲラだ。それもテレビのアンテナを一生懸命つついている。

 無駄だよ、と教えてやりたいが、それにしても1時間以上続けている。それも毎朝。

 よほど気に入っているのか、健気さが可愛らしい。


花暦−例年なら連休の気候

 今年の春はやや遅い。この時期なら例年の連休の頃ではないか、と思われる。

 その考えで行くと、中国山地はやっと春を迎えたところか。4月中は肌寒い日も多かったが、5月も半ばになると風が暖かい。

 今日は雨の心配も無く絶好のハイキング日和だ。朝のラジオで休暇村吾妻山の様子が報じられていた。ここまで条件が揃えば出掛けない訳にはいかない。

スミレ撮影用の三脚

 1年を通じて良く出掛ける山は花が咲いてなくとも、花芽のつきかたで何の木か当てることが出来るようになった。ずいぶん通ったものだと思う、それだけ吾妻山は素晴らしい所だ。たとえばレンゲツツジやタニウツギは覚えてしまって、葉が出ていなくても木を特定することが出きる。そしてこの時期、間違いなくここで待っていてくれる花がある。

 キスミレだ。戸籍上の本名はダイセンキスミレ、国立公園大山の名を冠する黄色いスミレ。この春、ヤマケイから出版された日本のスミレ(いがりまさし著)でいきなり登場するのがキスミレ類。著者が黄色いスミレがある事を知って驚いた、と書き出している。私もまったく同感。付け加えるなら、それ以降、キスミレに魅せられてしまった、と言いたい。

 スミレ類を撮るには地面に這いつくばる必要がある。三脚は当然低アングル可能でファインダーは上から覗けるもの。

比和川沿いのサクラ

 庄原を過ぎると西城川が一瞬反対に流れている錯覚に陥る。吾妻山に向かっているのに並行している川の流れと同方向なのだ。そしてしばらくすると比和川を溯る道となる。比和町近辺はヤマブキ、イチリンソウが道沿いを飾る。

比和川の流れが見られる場所に車を停めた、白いブラシ状の花が咲いた木がある。このあたりにはイヌザクラ(比和町ではネズミザクラと呼ぶ)もあるが、枝先に花を付ける特徴からウワミズザクラだ。

 イヌザクラでは枝の途中から花の穂が出る。

 新潟では若い実を塩漬けしたものを杏仁吾(あんにんご)と呼び貴重な保存食となる。

 あたりにはワサビ、コゴミがおいしそうに生えている。

休暇村吾妻山

 ここでは登山の後、入浴も出来るので着替えも用意して、思い切り汗をかいてみたい。

 朝のラジオでは池に咲いているミズバショウについて報じていた。

 確かに咲いてはいるが、もう遅い感じ。それよりミツガシワが残念、まだ早かった。ここのミツガシワは信州のものらしいが、赤名湿原で見る群落に感激したことを思い出させる。

 レンゲツツジの花芽の状態を確認しながら歩いていて、ダイセンキスミレがたくさんあるのに気がついた。そよ風に小刻みに揺れて、一面のキスミレが合唱隊を組織しているみたい。

 これはいい。動画としての花の素晴らしさ、スチールカメラで残念だったが目カメラで記憶しておこう。ダイセンキスミレは県の指定危急種。

予定の変更

 これだけ可愛いキスミレならば今日は徹底してキスミレ観察にしよう。

 ゴマギのつぼみを横目に南の原に向かう。キャンプ場近辺はオオタチツボスミレが多い。南の原はまたキスミレの合唱隊。これでは吾妻山登山はやめて大膳原経由の烏帽子登山に切り替える。直射の当たらない木陰ではミヤマカタバミの純白の花びらが美しい。

 ブナの林の中にもっと白いムシカリ(オオカメノキ)の装飾花が咲いていた。そして山道の斜面にサンインスミレサイシンの独特の葉がのびて春の花の季節を謳歌しているようだ。もちろん飽きさせない間隔でキスミレの合唱隊が春のコーラスを聞かせてくれる。

大膳原のキジ

 吾妻山と比婆山の間に大好きな高原が広がる。春のショウジョウバカマ、夏のレンゲツツジ、秋のリンドウがここを訪れる花好きのファンの期待を裏切らない。

 キスミレがここにもたくさん、これほどあるとは思わなかった。出雲側からのハイカーとすれ違

った。「キスミレがきれいですね。」と、その人から声がかかる。

 何しろ他の花が目に入らないほどだ。

 うっとりとして景色を見ていると、割と近くからキジの声がした。春の陽を浴びて、キジも嬉しいのだろう。ケーンケーンと必ず2回鳴く。

この際、比婆山連峰へ

 ダイセンキスミレ、サンインスミレサイシン、オオタチツボスミレと見たのでシハイスミレも見なければならない。

 烏帽子(1225m)への登山道ではシハイスミレの鮮やかな赤紫が新鮮だ。もちろんキスミレの「忘れちゃいやよ」の合唱隊は頂上の群落まで続く。

 頂上では県民の森からのたくさんの人。双眼鏡で見る吾妻、比婆の山かげには僅かながらの残雪が今年の春の遅れを物語る。

 帰路は先程すれ違った人達と又の再開を願う挨拶とキジの声で大膳原をあとにした。

 ケーンケーン、また来にゃいけーん。


【県の代表】その4 岡山県の巻

県木アカマツ(マツ科)

山口県と同じく県木であるが、公害にも弱く山陽側ではどこもマツクイムシの被害に泣く。

県花モモ(バラ科)

桃太郎の国だけあって県の重要な産業でもある。品種も多く、春は県内すべてがモモ畑。

県鳥ホトトギス(ホトトギス科)

初夏の代表鳥。あんなに懸命に鳴かなくてもいいのに、と思うほど周囲に響き渡る声。

最近テレビなどでカッコウやホトトギスの習性である「托卵」が取り上げられ、ひな鳥までもが悪魔の申し子などとイメージが悪いため、県鳥とするのを取り下げようという動きがある。


記事の訂正とお詫び

前号(第27号)のネコノメソウかと思ったのはノウルシではなくトウダイグサの間違いでした。

記事の補足説明

 第24号の植物のことわざの「トットに籾まき」のトットとは「ホホッ、ホホッ」と春から鳴くツツドリのことか、と前後の文章から想像しています。