QJYつうしん 第3号

休日は山にいます
平成7年9月2日

幻のヒオウギを求めて  高野町/猿政山

ヒオウギ(アヤメ科)という花は今や、花屋さんか庭の園芸種しか見られないのかと思っていたら、中国新聞発行、花のアルバムでは比婆郡高野町に8月下旬見られたという。著者は友谷敏雄氏、一度比婆山へ御一緒した事があるが、私と同じ、花の写真が好きで山歩きをしている、大先輩だ。

 

氏は、文中、場所の特定を曖昧にし被写体の保護を考慮した、自然を愛する心意気のにじみでる、好感の持てる方でもある。このヒオウギに関してのみならず、氏は良く猿政山へ出かけられる。登山口はますどんな本にも書いてない。島根県の地方出版のもので、それは可部屋集成館という昔の豪農屋敷の復元された私製博物館のそばから登山と書いてあるが、普通にはわかりにくい。わかりにくくしている理由の一つに、熊の出現による登頂者の極端な少なさがある。

 

氏から教えて貰っている登山ルートは、高野町の下湯川から入る林道ルートだ。まず普通の車なら底を擦るか、対向車のことを憂慮し、入道を躊躇する。それだけにいったん入り込むと、誰一人出合う事の無い、それこそ「あら熊さん…すたこらさっさ一さのさ一」の世界で、ちょっとした物音に一生の不覚を感じ取り、余り単独での行動は慎みたい、熊さんに出合うのは、もう少し人生を楽しんでからにしたいと思う。

 

さて、ヒオウギだが、「ヒメヒオウギスイセン」を思い出す人が多いと思う。出雲に住んでいたころ、新聞に載る山野草の記事で名前を知って覚えた花だ。蛇足ながら、それを書いていた人がこの度お邪魔する、三瓶山の自然館におられる佐藤仁志 県指導課長である。7月にもみのきに来られたときその話をしたら、佐藤さんはあの頃の記事をまとめて本にされるつもりらしく、「整理しなければならないのです。」と、多忙を極める毎日で手が付けられないことを残念がっておられた。

 

出かけたのは、8月26日(土)。

さすがに広島の暑さに比べると涼しいところだ。いっもは目のいい家内が珍しい花を見つけると、車を止めるよう声を掛けてくれるが、今日は私が走っていて林床の中のミヤマウズラを発見、秋を感じる。とにかく猿政山のルートに向い林道を走る。

キクイモばかりが目につく。と、思っていたが、どうやらこれはオオハンゴンソウだ。キクイモもあって当然かも知れないが、大型の頭花と中心の舌状花でない部分の盛り上がり、葉の形状からするとキクィモではない。オオハンゴンソウも外来の種であるから急速に広がっているのだろうか。在来の種を駆逐して、キクイモやオオアレチノギク、ヒマワリなどが増えている。不本意だ。あ、だから大反魂草。

その、根元にカワラナデシコが遠慮がちに咲く。割と乾いているようなところであるのに、フシグロセンノウが顔をのぞかせていた。

この林道は5月の連休で来た時と全く様子が違う。「くさかんむりに早い」そう「草」のこと。草丈が伸びただけで、又その時枯れ枝だった木が緑に覆われているだけで、景色が全く変わるものだ。余談だが、横浜の弁護士一家を埋めたとされる北越の山中は、埋めたオウムの連中も季節が変わると思い出せないのではないか。5月の連休では、ヤマシャクヤクのつぼみとあの大山が南限とされるサンカヨウの群落を見た。また緑の葉が付きはじめた渓流沿いの大木も、その時は何の木か分からなかったけれど、実を付けた今では同定可能だ。ちなみに、オオバアサガラ、サワグルミが3ヶ月の疑問を解いてくれた。

渓流の音がやや淋しい。水量がこのところの日照りで減っているのだろう。

林道の周囲はヒノキの植林である。オオハンゴンソウに代わってアキチョウジがもう、と思ったら、どうやら少し違うぞ。

カリガネソウの大群落だ。フシグロセンノウ、キツリフネも相当な群落を作っている。野呂山で、1〜2本の花しか見ていないので、これだけの群落は見応えがある。車を止める余裕がこの道にはあまり無いが向こうから来る車もまず無いから、しばらくここで撮影に入る。クマバチが楽しそうにカリガネソウの花を次々に訪れる。

カリガネソウはその度に深く頭を垂れてお礼を言う。いえいえこれはカリガネソウの特殊構造の為せる技。上部にある花粉の入った細い管の先を、ハチの重みで垂れ下がった花の動きに併せて瞬間的にハチのおしりに花粉を付けているのだ。基本的にはキバナアキギリのそれと同じ仕組みか。なお、この花粉の袋を「葯」やく、と言う。花だっていろいろ考えているのだ。

 

風の無い辺りをじっと眺めていると、あちこちで花の一つ一つがぴょんぴょんと頭を垂れる。クマバチ専用の花なのか、他の虫はやってこない。なおクマバチを見ると、逃げる人が多いが、クマバチは決して人を襲っては来ない、攻撃に対して反撃する事は有るかも知れないが。ススメバチ類は要注意、1匹だけいる筈の無いハチ類はともかく刺激しないこと。

 

それにしても花の周囲の香りの悪いこと、カリガネソウはシソの仲間だと思って珍しく悪臭のする花だと思っていたら、どうやら思い違いで、個牲派の多いクマツヅラ科であった。ムラサキシキブなどもそうだ。シソ科からちょっとはずれた異端児といえば、ゴマノハグサ科、キツネノマゴ科、学者でないので分類のポイントは知らないけれど、これらの仲間はなかなか味のある花を見せてくれる。

 

群落を見ることの無いキツリフネが思いがけず集合していた。三瓶山で多く見たが、ここではそれ以上だ。クマバチよりやや小さ目のハチが来る。クマバチも来る。黄色い花の中に真っ黒のお尻を外に出し忙しそうに吸蜜している。それにしてもハチはどうしてこうも忙しいのだろう、ハチに限らずアリもアゲハも。私も忙しいけれど、これほど一心不乱に働かない、必ず休日がある、そう、休日はどんなに忙しくとも山にいます。

 

さて、登山道に向かうと ヒノキの植林がまだ小さいところでは、サワヒヨドリ、オトコエシなどが今を盛りに咲いている。滝のある山道ではツルボ、アキチョウジなども。

ミツバウツギの面白い実が興味をそそる。翼果であるがカエデでは無い、花の時期に見損なったので、来年もういちど咲く頃見に来なければ、こうして実がなる頃に来年の課題を与えられてしまう。ナベナ(マツムシソウ科)の珍しい花も歓迎してくれた。ミスタマソウらしき花か、特定が出来なかったけれどこれもめったに見ない。そしてなによりマタタビの実が鈴なりになって、待っていてくれた。森林インストラクター、竹田隆一さんの『自然と遊ぼう」、前の日の中国新聞記事で、虫こぶのできた実が薬効あり、と書いてあったが、これはマタタビノアブラムシという虫の産卵によるもの、われわれもそのこぶこぶになったマタタビの実を摘んで酒の材料にする。こういうことは漢方なのか民間薬なのか知らないけれど、よくある話で、イボタノキにつくイボタロウムシの話は母も良く話してくれるが有名である。昔は庭によく植えたらしい、どこから聞きつけたか薬にしたいので分けてくれ、と人が尋ねて来た、と言う。これは樹皮についたイボタロウムシのせいで水蝋(イボタロウ)ができる、とされるが、詳細は知らない。

ネズミモチに似ているので気がつかないけれど、結構庭木にこの仲間が植えられている。

? 幻のヒオウギはどうなったかって?

それは、またのお楽しみ。


 
<<写真撮影ワンポイントアドバイス>>

白い花の撮り方について

自い花をアップで撮ると、花の中が真っ白に写るためディテールが飛んでしまい味気ないのっぺらぼうの写真が出来上がります。自動カメラではどうしようもないのですが、露出の調節が出来るカメラでしたら、半絞り〜1絞りアンダーで撮るか、花びらに露出を合わせて下さい。もらろん、ネガよりスライドの方をお奨めします。

その訳は、ネガのDPEでサービスサイズに焼き付けるのには自動で機械がやっているため、撮影時の自動と同じ理屈で、全体の露光を決めてしまうため。