QJYつうしん 44号
休日は山にいます 発行 QJY通信社 平成8年10月11日
二つの山の登り口が並ぶ 芸北町 一兵山家(いっぽんぎ)山(952m)〜天狗石山(1192m)
一本気な山にあこがれて
とにかく変な名前の山だ。島根県の旭町との県境、来尾峠に車を置くと左右に登山口の案内がある。
人気のある天狗石山に登った人は「一兵山家山」と書いてイッポンギとフリガナを打った案内板の山を見たことがあるだろう。中野冠山(カブリ山)〜ノベリ山〜イッポンギは縦走の人気コースでもある。
昔は一本木が立っていたのかも知れない、一兵山家山にしても変な名前、ちょっと早めに広島を出て本日の目的地「天狗石」に登る前に寄ってみたく思った。
1.4キロと書いた案内板で少し甘く見てしまった。それといつものクセ、登り口から花ばかり見ているからちっともペースが上がらない。県境に沿って土塁を築いた様な尾根筋を頂上はまだか、まだかと登って行く。
チゴユリの葉が一人前に黄葉しようとしている。イワカガミやアカモノは絶え間無く姿を見せてくれるから、来年の花の頃は是非歩いてみたいものだ。
案外歩きやすい道を登り、約一時間で草原状の広場に出る。リンドウが紫色の容姿を見せてウメバチソウも僅かだが咲いていた。がっかりなのは植林の山となった今は狭いながら林道がすぐ近くまで取り付けてあること。
一時間以内で着くと思った頂上に30分遅れで到着すると、快晴の空の下、西に雲月山の草原、東に天狗石山の随分高い頂上が見える。
「ゴーという音」岩国からの米軍機が飛んで行った。昔ここでファントムがミサイルを落としてしまって、大捜査が始まり天狗石山の名を
広めたのを思い出した。
昭和62年の春のこと。結局ミサイルは大朝の山中で見つかった。
目的の山へ
こうして一度向かい側からこれから登る山の全容を眺めるのも一興ではないだろうか。天狗石山はいかついその名に似合わず、途中に草原のある素晴らしい山だ。今その頂上を眺めるとわずかに紅葉の始まったことを実感する。今日のような青い空にナナカマドの赤い葉があれば山歩きの清涼剤となる。
一度下へ降りると時刻は11時半、これから登る天狗石はイッポンギより240メートルも高い。特に取りつきの急登は濡れていると危ない。先程までの足慣らしはこんな時役立つ。
45分かけて草原まで着けばあとはそれほどでもない普通の山だ。
樹林の中をシュンラン、アカモノ、チゴユリと確認しふーふー言いながら登った。
ススキの原の秋の花
草原に着くと秋を実感する、オミナエシはもう終りかけていたがマツムシソウが薄紫のやわらかな色彩で咲いていた。風がまったく無いのでむしろ暑いくらいの小春日和。
アキチョウジが残り、ヤマラッキョウ、アキノキリンソウ、ウメバチソウはイッポンギと同じ。
向こうに見えるのは天狗石の山頂、周囲は紅葉が思ったより進んでいる。
濃い紫のリンドウが点々と咲き、クロマツが雪で押さえられるのだろうハイマツ状態で立っている。
ホクチアザミも可愛らしい。葉の裏を見ると白い綿毛を確認する、先日のネコヤマヒゴタイと姿形はそっくりだが葉の裏が全然違う。ホクチは「北地」では無い、「火口」と書く。火打ち石の火をうつすのに使われた。ヤマボクチも同様、葉を干して揉む、と文献にある。
ヨモギでモグサを作る要領。
うーん、QJYつうしんは勉強になるね!
草原を進むと高杉山(1149m)との別れに来る、立派な木製標識だ。乳母御前神社のある「ホン峠」経由の山道だ。
天狗石に登るのに高杉との間の谷を経由する道がある。観察会で一度歩いたことがあるが、何しろクマの足跡や熊棚、クリの木についた爪跡を見ているから、今日のような人のいない日は来尾峠ルートに限る。
日本海と瀬戸内海の両方の船が見えた?
さすがに腹が鳴ってきた、13時を過ぎると辛いから、先を急ぐ。もういちど樹林帯に入り赤いツタウルシに見惚れながら、立派な展望台のある頂上が近づく。
人の声がするぞ。
老夫婦が一組展望台で待っていてくれた。待っていた、と言うのは「もう帰ろうとしたけれどリュックの鈴の音を聞いて、誰か来ると分かって、待っていた。」とのこと、すんませんね。
老夫婦は地元の方だった。良くここまで来られましたね、と聞くと、すぐ下まで車で来られるよ、と余り聞きたくない有り難い御教示。狭いが林道がNTTやKDD(めんどくさいのかDDTとも言われた)の施設の維持のためにあるのだそうだ。
イッポンギに登ったと言うとちょっとあきれておられたが、昔はここで民宿を経営されていたこと、後継者のない今のこと、「あれが浜田道の橋だよ」など周囲の説明もしていただいた。驚いたのは昔良くここへ登って、天気がいいと瀬戸内海を走る船と日本海を走る船が同時に見られたことを話して下さった。
クマは出ますか?の質問には「あんなもの夜しか出んよ。」と一笑に付されてしまった。
ビビッているのは都会の人間だけか。
15分位で帰られたので何とか倒れる前に弁当にありついた、がもっとお話は聞いてみたかったと思う。
地図を広げると県境の両側で水系が別れることを知る。江の川と太田川だ。
展望台から見回すとこの山が相当高いことに気づく。隣の高杉山は50メートル低いだけなのに随分低く見えるものだ。イッポンギなどははるか下方。山焼きのある雲月山の草原も見下ろす。
草尾根というのはこの山の様な草原を呼ぶのだろう。ススキの原が光って見える。
アマチュア無線のメッカでもある展望台の周りはノリウツギ、コマユミ、そして良く分からない木。だからまた季節を変えて来なければならない。
遠く大佐山、中野冠山(御夫婦はカブリ山と呼ばれた)、特に浜田、益田方面が良く見える。津和野の青野山だろうか形の良い山。また、いつか休日に登りたい山々。
[編集後記]
今年は庭のキンモクセイが一斉に咲いた。うちの木は家側より外に対してたくさん咲くので蕾がある事も知らなかったが、この香りに気が付かない筈はない。
花の少なかった春から夏の木だが、シリブカガシやキンモクセイなど秋の木の花はたくさん咲いてる様子。
花に誘われてメジロが2羽飛んできた。