QJYつうしん 47号

     休日は山にいます     発行 QJY通信社 平成8年10月27日

紅葉の隠れた名所 その2

 山県郡・戸河内町  砥石郷山 1177m〜恐羅漢山 1346m

 


山が好きになったきっかけに、初めて登った山が特別印象が良かったということがある。それは花であったり、鳥であったり、もちろん天候にも恵まれ良きや素晴らしき出会いがあったとか。

数多くの山歩きをしていて、こんな日には自分だけでなく、たくさんの人達を連れて来たかった、と思うことがある。ここもその一つ。

この日、紅葉の名山、砥石郷に同行して下さったのは指導員仲間の小方さん御夫婦、急遽同行して下さった西山さん、いずれも多くの山歩きを経験しておられる。特に小方さんは前日泊の連続山歩き、紅葉のベストシーズンの休日を有意義に過ごされている。

最高の天気・内黒峠(9:20)

戸河内からスキー場のある恐羅漢までは、年々道が整備され難所であった頃が昔日の感である。内黒峠を中心にスキー場までのこのルートは紅葉の錦織り成す最高のドライブウェーだ。

内黒峠で見る砥石郷山は朝日を浴びて「早くおいでよ」と、呼びかけてくれる。

小方夫妻を待たせている二軒小屋まで急がなければならないが、余りにも錦秋の素晴らしき風景に、車を停めることしばしば、ただただうっとりするのみであった。

落ち合い場所の二軒小屋ではトイレのそばのブッシュが刈り込まれナギナタコウジュが芳香を放って刈り倒されていた。ドライフラワーとして日本のハーブの代表だ。

せっかくだから持帰ることにしよう。

陽が昇るにつれ気温も上がってきた。朝は零下であったそうで霜が降りたという、この地の紅葉のシーズンはスキーシーズンの準備の頃でもある。


牛小屋高原の登り口(10:00)

車を置いて歩きはじめると足元の落ち葉がカサカサと心地よい音を立てる。ここは既に標高970メートルあたり、道は最初間違えたがここでは恐羅漢への案内標識に従う。

青空の紅葉とは言え、下を見て歩いても楽しめる。落ち葉の様々なバリエーションがこれほど楽しいとは。ナナカマドやミズナラ、黄色から赤までのウリハダカエデ。林の中の山道は木漏れ日を浴びて、おいしい空気とおいしい景色に一同感嘆の声。

前日は良く降ったらしく、所々ぬかるみもあったが全体的には乾いている。

いつものゆったりペースで歩いていると後ろからいくつもの小グループが私たちを追い抜いて行った。平日だとクマが心配になる所だが随分大勢の人がやってくる。

夏焼峠(11:00)

本来ならもっと早くここに着くはずだったが山歩きそのものを楽しんでいると早く歩くのはもったいない。丁度ここで中高年の28人の大グループが休んでいた、やはり砥石郷に向かうと言う。

この峠は左に恐羅漢、右に砥石郷と判りやすい標識があり、休憩するスペースもある。

ブナやカラマツの樹林の足元をチゴユリの黄色い葉とハスノハイチゴの大きな葉。

日当たりの良い坂道をアカモノの小さい葉が秋の陽光を受け、合間にリンドウが咲く。

最初のピークでは誰もが頂上かと思うがそんなはずは無い。それでもここから眺める十方山から内黒山にかけての紅葉に再度感嘆の声。遠く芸北町の町並みとそれを見守るように聳える鷹ノ巣山、手前の刈尾(臥龍山)と聖湖の青い青い水。

頂上のにぎわい(12:00)

せっかく登った最初のピークを下りて、再び山道を歩く。ロゼワインと誰かが表現した淡いピンクの葉も混じり、びっしり道を敷き詰めてどんな観光道路より素晴らしい。

きのこを探していたらナメタケが見つかった。きのこ刈りの人も多い。

頂上手前に小さな湿地がある。夏にどんな花が咲いているのか気になるところ。

今はアブラガヤが堂々と立つ。

周囲を木々に囲まれあまり見とおしの良くない頂上は28人グループに占領されていたので、ちょっと先の開けた場所で食事とした。

実際はここの方が展望がきいて良かった。

深入山が随分下に見える、形の良いことで知られるこの山を上から見るとちょっと山名が分からないのが不思議。

双眼鏡で頂上にいる多くの登山者を確認。

28人グループのひとりがハーモニカを演奏してくれた、「小さい秋みつけた」「里の秋」など、このまま寝転んでみたくなる。

再び夏焼峠へ

せっかくここまで来たのだから、県内最高峰「恐羅漢」へ登ることとした。尾根伝いにブナが立ち、道も広い。陽がすこしばかり傾いたような気がする。周囲の秋の模様も陽の加減で刻々と変化する。

青い空はそのまま、しかし普通は昼を過ぎると遠望がきかなくなるはずだが今日は違う。雲一つ無い空が紅葉のバックで絵葉書の様。下には赤い実のツルリンドウ。

リュックは軽くなりペースを上げたいが、ここから恐羅漢まではやや急登となる。すれ違う人は多くこの山の人気の高さを痛感する。

恐羅漢の頂上(15:00)

道は広く歩きやすいのだが頭の高さまでいろんな樹木が展望を遮る。それがコマユミだったりサワフタギだったり、いつもの年なら多くの実を見ながらの山歩きになったはずだが今年は残念ながら数えるほどの実の数。

時折大股でまたぐ倒木はどちらかというと山歩きのアクセントか。

尾根筋を歩いていることは確かで時折振り返ると先程の砥石郷の最初のピークがこれまた最高の色模様を見せてくれていた。

頂上は県内最高峰にしては隣の十方山ほど展望はきかないが、岩の上に立つとさすがに高い山にいる気がする。

いつもは霞む瀬戸内海方面に、8月に観察会を行った「野呂山」から見たのと同じ山容が確認された。

石鎚山だ、遠く雲の上に突き出た修験の峰が西陽を浴びて神々しく聳えている。

魅せられた山にお別れ

同行の小方さんの奥さんが山に丁寧なお別れの挨拶をする。下りはスキー場に沿って近道を急ぐ訳だ。急いでも後から追いつく人があった。リュックと手提げの袋にはたくさんのきのこ。さっそく自分たちの収穫物も検証していただく。「これはミズホ、皮をむいてスキヤキに入れるといいよ。」と調理まで教えて下さった。

捨てなさいと言われたきのこも。

後は、西山さんの無事を祈るばかり。


{編集後記}

  鉢植えにしていたワタに綿ができた。夏の終りに下向きに咲いた黄色い花が、純白の綿を実らせ、十円玉の大きさになってやっとはじけると、中には9個の種。

  種を取り除く作業も大変だろうと想像する。