QJYつうしん52号 平成8年12月28日

相思樹を究JYする 冬でもツツジの咲く 安浦町稚児公園/豊田郡

 
身近なドライブコース

晴天の続く年末の一日。そうは言っても山間部は冷たい風が吹く。広島県は県北部にスキー場がたくさんあり、このところ厳冬が続いてスノーボードのブームもあり景気も良いことだろう。そして島しょ部では晴天が続き秋からの小春日和がそのまま真冬まで続く。

年末の準備で買い物に出かけなければならないが午前中はちょっとのんびりできる所へ出かけてみよう。

場所は安浦、グリーンピアへ行く途中の看板に従い左折、藤棚の前の駐車場に車を置く。おりしも正月用の素材集めだろうか松の枝を抱えた人が挨拶しながら出ていった。

ソウシジュって何だろう

海岸地に多いソウシジュ、南国生まれのマメ科の常緑高木だが県内にあるものはもともと植栽されたもの。ここにはこうしてドライブ気分で来るが春のアカシア風の黄色い花は大好きな花のひとつ。

学名“Acasia confusa”は別名タイワンアカシア、漢字で相思樹。好きな理由は他の植物に無いすっきりした葉の形状から。

マキ科のナギと見間違うが、葉脈を持たない葉はなかなか奇麗だ。しかしこれは葉では無いという。そして今回本気になって本当の葉を捜すこととした。

マメ科の木ならば本当はネムノキの様なマメの葉があるはず、しかしまだそれは見たことがない。「発芽したての若枝にだけ葉があり、すぐに落ちてしまう。」、と図鑑にある。

ではこの葉は何なの?

図鑑によると葉のように見えるのぺっとしたものは葉柄だそうだ。本当の葉はその先に出

るという。

海の見える丘を歩いているとソウシジュは目の高さにたくさんあった。アカマツとネズに混じってヤマモモ、ネジキ、アセビが多い。

そしてあったあった、ネムノキやオジギソウそっくりのマメの葉が。付け根の葉柄はか細く頼りない、これから葉が落ち葉柄が大きく変化するのだろう。

しかし結論から言うと本日この葉を確認で来たのは二箇所のみだった。

ひとつは幹から分枝した細い枝先、ひとつは実生と思われる地面からの若い幹。春に来ればもっとたくさん、いやこの辺り全体がそうかもしれない、植物の不思議を皆さんも発見してみて下さい。

ソウシジュ
花を探して

そもそも今回はもうすぐ始まる新聞の連載のため、花の写真(山で出合った三人娘)をいくらかでも準備できればと言う、いわばドロボウをつかまえてからナワを綯う状態で、焦りの取材ツアー。

この時期に花が咲いているとは思えないが、咲いているとしたらここ安浦の海岸くらいかと思ったからだ。

稚児公園の入り口はご存知の方も多いと思うが、ゴミ焼却場となっている。入り口の環境は最悪だが海を見下ろす岸壁の散歩道は私の大好きな場所のひとつ。もしも花があれば遅咲きと呼ぶのか早咲きと呼ぶのか、苦しい時期だが、ともあれ海を眺めての昼食だけでもリフレッシュすることが出来る。

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ノゲシが一輪咲いていた。かすかな期待としては秋のヤクシソウが今どうなっているか、暖かいから少しは残っていないか確かめたかった。

イタチハギやネジキが枯れた実をつけて立っている。おや、紫色のツツジの花が。それもあちこちにたくさん、点々と。しかしこれは狂い咲きにしてはしっかりと、そしてたくさん咲いている。ツツジの仲間は気温のちょっとした変化に反応しやすい。水が足りないとすぐ枯れるし小春日和が続くとすぐ花をつける。

ツツジはヒメヤマツツジのようだ。小型で淡い紫色の花が可愛らしい。

植栽されているヒラドツツジやサツキ、自生らしいコバノミツバツツジは全く咲いていない。散歩コース全体に狂い咲きとは言えない割合で咲いていた。嬉しい花だ。

汗ばむくらいの暖かさ

ネズに青い実が付いている。葉を噛むと洋酒ジンの香り、実を少々戴いてホワイトリカーに浸けてみようと思う。が、取るときに何と抵抗の激しいこと、指先が鋭い葉の先に当たって痛いのだ、ネズミの通り道に置いておくそうだから鋭いわけだ。

植栽か自生か分からないけれど、確か安浦町の木だったかヤマモモが多い。花の芽らしきものはあるが来年はどうだろう。

水面の高さに稚児明神があり、下まで降りると潮の香り、さらに瀬戸内海を見下ろす丘まで上がると陽射しを浴びて汗が出てくる。暖かさはむしろ春を過ぎたあたりの気温だ。

遠く風早の岬の前の島、大芝島か、橋が架かって今にも開通しそうだ。丘に腰掛けて昼食とする。鳥の騒がしい声がするので見るとメジロが飛んでいた。何を食べに来たんだろう。

海岸地に多いトベラ、植栽だろうウバメガシ、意外な無骨者(枯れ葉を残すので)コナラなどが目に付く、アセビは花芽をつけている。

残念ながらヤクシソウは姿が見えなかった。

山火事だ!

先程から安浦の町の方が消防車のサイレンで騒がしい。見通しの良いあたり(稚児明神の上の方)に来て双眼鏡で覗いて見る。

白い煙がもくもくと上がり、山全体を覆うほど。御津口の小学校の裏山近辺だ。墓の上の山から火が出ているではないか。

暖かくて風を感じなかったが、海からの風が吹いているようだ。海のそばとは言え乾燥しているのは確か、ここ何日も雨は降っていないし。

結局、夜のニュースでこの山火事が18時頃治まったことを伝えていた。タバコが原因だとしたら、不注意ひとつで山が泣く恐ろしさを皆さん知っていて欲しい。


<編集後記>

県の緑化センターにおられる渡邊泰邦先生から風景を撮った写真は無いか、と問い合わせがあった。指定された場所はどれも何度か出かけている場所だが、写真はすべて花ばかり。

マクロの目で見なければ見えないものがある。山全体でなくとも特定の植物を取り巻く周囲の環境を落ち着いて見る余裕も大事。

その花を育んだ自然を見ることが大事ということ。そう、自然観察の基本だった。