QJYつうしん 休日は山にいます QJY56号

タニイソギとヤマナラシ 広島県庄原市/葦嶽山 815m

 平成9年3月14日

日本のピラミッド

昭和九年のことだった、拝殿と伝えられる隣の鬼叫山(800m)を調べおわった酒井勝軍はここが2万3千年前のウガヤ王朝の遺跡であると発表した。

神体である葦嶽山はピラミッドでありそれに向かってストーンサークルがドルメン(供物台)を形成している、と。

時の官憲は皇国日本の番犬であったため、天皇家より歴史のある王朝の存在を認める訳にはいかなかった。そして、当然の様に破壊され今に至る。それでも巨大な石柱群などは残り謎は深まるばかり。

大正初期には神武天皇の財宝が隠されている、と言ううわさが広まり相当掘り返されてしまった。遠大な古代史のロマンが広がる。

庄原市もここを観光スポットとして売り出したが、幸い?今の若い人には自然の中の山歩きは全然受けなかったようだ。

タニイソギ

登山口はこの時期なら絶対「野谷コース」を選ぶ。その訳は駐車場に至るまでの黄色い春告げ花、マンサクを見るためだ。

庄原から南下し帝釈街道から「ピラミッド」の標識に従い右折、角の無人市の名前も「ピラミッド市場」だ。

「野谷ピラミッドグループ農産物加工場」の白い集会所風の建物の場所で右カーブがある。そのまま行けば灰原コースへ向かう、右カーブの途中から左に細い道を入る、ガイドブックにある筈の案内図はなぜか見つからない。

トイレのある駐車場までの2〜300メートルくらいはマンサクの大歓迎を受けた。

期待どおりの満開のマンサクはこの地方に

多いアテツマンサク、マンサクの花のがくが赤みを帯びているのに対しアテツマンサクは黄色一色。またマンサクの別名をタニイソギ、春一番の黄色い花だ。

野谷ルート

トイレのある駐車場からさっそく登りはじめる。谷川のせせらぎの音が心地よい。山歩きの楽しさは清らかな水の流れで一層深まるといつも思う。

バイカツツジやコバノミツバが5月の出番待ちの状態だ。

もちろん山の風景は「春は名のみ」と言う感じだが、どんより曇った天気でもちっとも寒くは無い。二週間前は雪で大変だったろうが今日は落ち葉を踏みしめて気持ちよく登れる。

雑木林の中の道は両側に流れの音を聞いて上がる。そして左右の谷には黄色いタニイソギの花が春の歓びを歌い上げていた。

目が慣れると随分たくさん、樹木の下から見上げるこの優しい黄色い花は空の明るさに溶け込んで目立たない。むしろ遠めに見る、バックが樹林である場合にはいっそう引き立つ。

おや足元に黒い葉が落ちているぞ。

ヤマナラシ(ヤナギ科)

ミズナラ、コナラ、アベマキ、ブナなど茶色い枯れ葉の中にあってこの黒い葉は何だろう。拾いあげて見ると葉柄の形が特徴的だ。縦に平たいのだ。どこかで見たぞ、三瓶山の「室の内」だったか、そして付近の樹木の肌を見て納得、樹肌はソロバンの玉(ダイヤ模様)状の裂け目がたくさん並んだ覚え易いデザイン。ヤマナラシ(ヤナギ科)だ。

黒く変色した落ち葉は山頂まで多く見る。

谷川を左に渡るとナワシログミの木の下にシュンランが花芽を付けていた。急にコルクの木、アベマキも増える。シュンランに似た細い葉はカンスゲか、側面の細かいギザギザは手を傷つけそう。

大きな岩がゴロゴロしている。コタチツボスミレの葉、それを隠すホオノキの大きな葉。ウリハダカエデやクマノミズキらしい樹肌も。

クマザサの山道はところどころにピラミッドへの進行方向が示してあり、迷う事は無い。むしろ今は落葉のせいか道が道らしくないため気持ちいいくらいだ。

冬枯れの雑木林は一部枯れ葉を残したままの樹木がある。

代表的なのはコナラ、ヤマコウバシ。意外だったのはブナもちゃんとあること。常緑はアカマツ、ソヨゴ、アセビ。平成元年に近辺は緑地環境保全地域の指定を受けた。

1時間以内で鞍部の休憩所だ。急坂を登れば休憩所で東からの風が吹いていた。

ここまでくれば着いたも同然。右は葦嶽山まで100メートル、左は巨石群の鬼叫山まで50メートル。奥は灰原コースからのルート。

ベンチにはテンらしいフン、フンと言えばノウサギのものを多く見た。動物達の苦しい冬がやっと終った事だろう。雪の多いこの地方だが何処にも残雪は見られなかった。

map

 展望は良いはず?

ちょっと滑りやすく急な葦嶽山への道を登りきると狭い山頂はアカマツ林。

絵入りの看板で周囲の山の説明もある。

眼下に名所の烏帽子岩、別名観音岩、いや男性シンボル的な形で他の名前はつかなかったの?

三角形の頂点から四方の山々が見渡せる筈だったが今日の天気はやや残念。ミルク色の霧の中に中国道「本村パーキング」が見える。しかしマンサクの黄色い花はピラミッドの東斜面にも多く見られた。

ピラミッドをすべり下りて再び鞍部の休憩所に戻り鬼叫山へ向かう。アセビの多い山道は巨石群にすぐ到着。平成5年に建てられた鳥居が相当痛んでいる、なのに2万3千年前の中粒黒雲母花崗岩の遺跡は風化が進んでいるものの、私達にこうして太古の夢とロマンを与えてくれる。

この日、他の登山者には誰も逢わなかった、自然の素晴らしさは抜群なのに少々残念だが、だから好きになった場所でもある。流れの音を聞きながらの山歩きなのに、それ程足元に不安は無く、大きな落葉樹木に囲まれて楽しく登れる山だった。

何よりタニイソギ。春を待ってて良かった。

<編集後記>

この時期には是非立ち寄りたい場所がある。車ならピラミッドから20分、セツブンソウの総領町だ。

昭和61年春、上下自然愛好会の荒木克氏等により総領町にセツブンソウ(キンポウゲ科)の自生地があることが発表された。その後マスコミの力もあって今ではたくさんの人達が県内春一番の花を見にやってくる。

自生地は町内に何箇所かあり、この季節には旗が立っていて外来の者にも見つけられる様にしてある。

役場の西隣にあるリストアステーションを中心に「節分草まつり」が3月に入ると開かれる。町をあげてPRしているのだ。

亀谷、下領家、稲草、木屋が自生地として発表されている。また一部は灰塚ダムの建設で水没することが確認されている。