QJYつうしん 第57号

  平成9年3月28日

    

春告げ花を究JYする    中国地方のマンサク科の仲間

マンサクの名のルーツ

一般的には「まず咲く」がなまってマンサクとなった、と言われる。植物学者、牧野富太郎博士の説だ。

私はあまりこの説が好きではない。

好き嫌いの問題では無いのだが、まず咲くがどうしてまんさくになるんだ、という素朴な疑惑。それより東北地方での呼び名「シイナ」から来た「逆転の発想」説を支持したい。

ギャンブラーは「スルメ」と言うと、掛け金をスル目につながるから「当たり目」と呼ぶ。不吉な名は嫌うが、別名を付けるなら全く逆転の運の良い名にしてしまったのだ。

そういう意味では、魚の「シイラ」は農家に嫌われ買ってもらえなかった。シイナ、シイラは共に実らない米を指す不吉な呼び名だったのだ。だから別名を「マンサク」として逆転させた。

最近やっと認知され始めた説だが、あながち間違っているとも言えない、素人としては素直な解釈と思う。

では何故シイナと最初名付けられたか。

それはマンサクの花の様子が実っていない皮ばかりの作物(シイナ)を連想するから。当然名前が定着するとそれでは不吉である、と反感も生じる。

別名タニイソギと呼ばれるくらい早春の花だが、それゆえに農家にとって一刻も早くその年の米の出来具合を占いたかったのだ。

だから「シイナ米」では困る、「豊年満作」でなければ。

シナマンサク

東広島では植栽のシナマンサクがある。冬の間枯れ葉が残るから特徴的。日本古来のマンサクでは無く、中国からのお客様である。

なぜこれが植栽に多いのかは良く分からない。基本的には市町村がそれを発注するからか。

香りの良いことが好まれる理由でもある。

アテツマンサク

阿哲峡は岡山県の新見市近くの渓谷、ここで最初に発見されたので阿哲の名がついた。だからQJYつうしん第56号(前号)でお知らせした、庄原市の葦嶽山のマンサクはすべてアテツマンサク。

一本の花柄に三つの花が背中合わせにつく。このマンサクの花の付きかたを見ていると、春一番に咲いたもののとても寒くておしくらまんじゅうをしている花に見える。

花の特徴は「黄色」。え?マンサクは黄色だって?正確にはがくの色まで黄色ということ。四つの紙テープ状の花弁がやや縮れているようでもある。

広島県内のマンサクはほとんどアテツマンサクらしい。

マルバマンサク

米子への出張の場合は出来れば大山へ足を伸ばす事にしている。出かけたのは3月21日、この時期には珍しく大山道路の雪が解けていた。

取りあえず立ち寄るのは、本宮の泉。おいしい水でコーヒーを入れる。

地元の人が「この天気じゃどうしようも無いでしょう?」と、慰めの言葉、カメラに三脚の私の格好を見てのことだ。

「いえいえ、マンサクが咲いているはずですよ。」 雪山のマンサクは人を引き付けるものがある。

泉の周りには、アセビ、ウグイスカグラ、オオタチツボスミレが花を見せていた。

大山寺の周辺もゆっくり歩いてみたいが、まだ花は期待できない。ここは通過しよう。

「大山寺がけだらなよさ。」と、呪文を唱える。え?何のことかって?反対から読むと、「さよならだけが人生だ。」 寺山修司にちょっぴり傾倒していた頃の流行り言葉。

馬鹿なことを言っていないで桝水原に向かおう。

直前で横手道と呼ばれる雑木林がある。

ここのマンサクは葉の先が丸みを帯びたマルバマンサク。もっともこういう特徴は初心者には判断しにくい。まして花の時期には葉はまだ出ていないのでどうするか。

図鑑で調べると主に日本海側の山地に産する、とある。

横手道は雪で覆われていて長靴がずぼずぼと埋まり込む。キブシさえも冬の花芽のまま。これでマンサクは咲いているのだろうか。

疑念はすぐに確信に。あるある、春の黄色い吉兆花、マルバマンサクだ。

花柄の先からほとんど一つの花をつけている、多くてふたつ。アテツとはこの花の付きかたで区別する。また、がくの色は紅のはいったものがほとんど。

マルバノキ

ベニマンサクと言えば詳しい人も多いだろう。おおの自然観察の森の秋の呼び物。何故か花びらは5枚、二つの花が背中合わせに、そして秋に咲く。

ツヤツヤした米粒のような黒い実、見事な紅葉に秋を堪能できる。

コウヤミズキ

この花を指して「ミズキ」と略してはいけない。ミズキはミズキ科、コウヤミズキはマンサク科。

28日は南原峡に満開のコウヤミズキを見に出かけた。キブシはまだ早いようだったがアブラチャンやシキミの花が見事だった。

コウヤミズキは県内いたるところで見る事が出来る。江田島でも見るし、前回出かけた葦嶽山の灰原コースの登り口も多い。

で、南原峡のコウヤミズキはもちろん満開で、優しい黄色の花が暖かく出迎えてくれた。ジャケツイバラの大きな実が残り、冬の装いをいまだ残しているが、春を代表するマンサク科の黄色い穂はビールのホップにも似た房状の花を歩く道沿いに咲かせていた。

そして見つけたバイカオウレン、水に浸かりながらもこの春の妖精に惹かれてしまった。

早いものではチャルメルソウ、ミヤコアオイの花も。アセビやヤブツバキは当然咲いている。その他の春の花

バイカオウレンで気を良くしたのでこの時期に見られる花を訪ねてみた。
安佐北区の太田川沿いの斜面にはユキワリイチゲが、ダムに沈む総領町にはキバナノアマナ、ただしセツブンソウはすべて終っていた。三和町の山林に密かに咲くミスミソウ。

いずれも満開の状態。新聞に掲載している題材(三人娘)の確保である。

総領町ではミツマタの明るい黄色のボンボリが林床を照らしていた。頭上には満開のダンコウバイ、足元にはまだとうの立っていないフキノトウが。

灰塚ではウグイスカグラ(スイカズラ科の落葉低木)が咲いていた。それにしても良い名前だ。ウグイスが鳴くと咲く花でもある。

実も食べられるし、山の木の名前として覚えておくと途端に物知りみたいになれる。

で、神楽を舞うから付いた名前なんだろうか。そう解釈できれば嬉しくなるが。
ある説では、ウグイスガクレ(ウグイスカグラの古い名)から変化した名前、としている。

声はすれども姿は見えず、の定説のとおりウグイスは小枝の多い木に隠れて鳴く。

ウグイスカグラは格好の樹木なのだ。

ちなみに各場所にて、意外にもツボミのままだったもの、イチリンソウ、バイカイカリソウ、シュンラン、カタクリ、キブシなど。


<編集後記>

18世紀イギリスの哲学者フランシス・ベーコンは「人間の心の安らぎは公園の緑から得られる。」と説き、広大な公園の建設を提唱した。 
中国地方には自然公園がたくさんある。それを利用すること(休日の山歩き)が貴方の心の安らぎとなる。