QJYつうしん 58号
平成9年4月4日サツマイナモリの白い花飾り 山口県・錦町/雙津峡〜深谷渓谷
コブシ咲く、ああ、北国の春よ
桜満開の春の休日、天気予報は終日「雨」。山口県地方に限り「曇りのち昼から雨」となっていた。それならば、と中国道を西へ向かう。
目指すは六日市IC。錦川の清流沿いから深谷大橋にまわり、小五郎山でも登ろうか、と思う。広島は朝から曇天で小雨もぱらつく。
戸河内を過ぎたあたりから車窓から眺める山腹に純白の花の樹木が点々と目に付き始めた。特に吉和近辺では最高潮、緑の中にコントラストが映える。千昌夫の「北国の春」そのままのコブシの花だ。
実際にはタムシバが多いはずだが、高木でもあり一本一本確認出来る訳ではない。一応、俗に呼ぶ「コブシ」と決めておこう。
咲き始めたヤマザクラに混じって一段と華やかだ。
吉和のサービスエリアではガスがかかって冠山が見えない。がっかりして周囲を見ると植栽の樹木の中にマンサクがあった、花の盛りの時期を終えた感じがある。
さらに六日市ICを下りてもコブシの白い歓迎が続く。このままコブシ街道をドライブするのも悪くは無い。少しルートを変えて錦町方面に向かってみよう。
雙津峡の散策
R434沿いに第51号で案内した雙津峡(そうずきょう)がある。一度は寄ってみたかったので、またまた予定を変更することにした。なにしろガスがかかって1162mの小五郎山に登っても展望がきかないだろう、というのが本心。
初めての場所は心ときめくものがある。珍しい花や本年初めての花が見られるかも知れないからだ。
温泉の前に車を置いて、全長2キロと言われる渓流沿いの道を辿ってみる。
前日の雨のあとと言うのに川の流れの清らかなこと。
目の高さにいきなり入って来たのは曇り空に花びらを閉ざした清々しいミヤマカタバミ。
スズシロソウは白い花弁をぱっと開いて嬉しそう。良く見ると、小さな虫達も活動を始めている。
ツルカノコソウはこれからなのだろう、小さな蕾をつけていた。
そして圧巻はアカネ科「サツマイナモリ」。
サツマイモナリ(薩摩芋なり)じゃないよ。
内側を白く細かい、暖かそうな毛で覆われた花びらを開き、数個の蕾も従えて散策路を飾っている。クリスマスの飾り付けのような白い漏斗状の花、これほどの群落を見ようとは。
小さな橋を渡ると「愛宕山遊歩道」と書いてあった、さあここにはどんな花が…。
橋の途中にタラノキがおいしそうな芽を出していた。手を伸ばせば丁度手に入る位置。
お!その前に目に入ったのはコバノミツバツツジの薄紫の花、それも満開ではないか。
ヤブツバキの真赤な花が道に落ちている。あっと言う間に小山を登り切ると「三輪神社」と書かれた祠があった。耳に入るのは「ツツピー、ツツピー」のシジュウカラ。雨がまだ降らないので、下りてもう少し足を延ばそう。
左に屏風ヶ嶽と書いてある、見上げると丁度霧がかかって山水画の世界だ。あちこちから水の湧き出る場所でもある。ここも相変わらずサツマイナモリが白い花を咲かせ、コチャルメルソウのユニークな花も面白い。大きいほうのチャルメルソウもある。
山中の赤い実はアオキだ。夏にはユキノシタやダイモンジソウも見られそう。
深谷渓谷
深谷大橋は前回来た時に塗装工事をしていた、塗り替えられた橋は相変わらず足のすくむ高さで中国道にかかる方の橋と建造美を競う。
トイレが無いな、と思っていたら、ちょっと先の駐車場に新しく建てられていた。ここから下の河原まで道のり300メートル下る。深谷渓谷への道だ。
やっとコブシの木のもとに寄ることが出来そうだ。道にはコタチツボスミレの可憐な花が咲いている。ズボンにトゲがひっかかる白い花はナガバモミジイチゴ、西日本代表の夏のキイチゴだ。ジャムにするとおいしい。
足元にはホオノキの実、クリのイガ。
150メートル地点でシキミがたくさん花をつけていた。コブシは近づくと逆に空の灰色に溶け込んで見えなくなる。双眼鏡で見る限り、花に一枚葉が付いていないのでやはりタムシバのようだ。
ここで昼食とする。ソクシンランのドライフラワーが一本、忘れないでね、と立っていた。
谷底に下りるとネコヤナギとミツマタがお待ちかね。水量は多く、立ち木にかかった小枝やゴミを見る限り、すごい高さまで増水することが想像される。MAP
長瀬峡への山道
長瀬峡は未だ行った事が無かった。トラック等が行き交うところを見ると、安蔵寺山の麓への近道は通じているのだろうか、地図では行き止まりだが。長瀬峡は錦川の支流宇佐川のそのまた支流深谷川に沿って7キロの所にある。
入り口から1キロの地点で斜面にひょろっとした白い花が咲いていた。あわてて車を停め確認すると、これがシロバナショウジョウバカマ、これほどの群生を見たのは初めてだ。
シロバナ…は単にアルピノ化した物ではないようだ。花茎が細く長い。もっと先でピンクの通常のショウジョウバカマを見たが確かにシロバナ…は女性的だ。
サラシナショウマの若い葉が見えるぞ。
途中ミツマタの群落があって目を楽しませてくれたが午後2時を過ぎ本格的に雨が降り始めてしまった。
長瀬峡はシャクナゲの頃がいい筈なので出直すことにしよう。所々で車を停めると足元にタチツボスミレが一斉に咲き始めていた。
ここから見上げる小五郎山は半分から上がガスで見えない。やはり登らなくて正解だったのか、ちょっと山に対して「済まない」気もする。「雨だから登らなかったんじゃ無いよ、せっかくなら展望の良い天気の日に、と思って。」
羅漢温泉
本降りの雨の中、帰路の楽しみはいつも寄る羅漢温泉(¥350)の暖かいお湯。以前は300円だったが、消費税の便乗値上げをしたようだぞ。それでもスパ羅漢よりここの方が落ち着ける。
この時期の羅漢渓谷はコウヤミズキ、アブラチャンの花でドライブだけでも特筆もの。
気ままな一人旅なので脇道に停めては花を確認する。前日からの雨で相当増水しているのだが、全然濁っていないところが自然の渓流の素晴らしさだ。
うどん屋小瀬川温泉の名物の桜並木はまだあと10日くらいか。
<編集後記>
ドイツの作家 ミヒャエル・エンデ の物語「モモ」は、時間泥棒に盗まれた時間を人間に取り返してくれる不思議な女の子の物語。多忙な毎日を送る貴方には休日の山歩きが「モモ」の代わりをしてくれる。
盗まれた貴方の時間を取り返す為に。