QJYつうしん 59号

平成9年4月11日

ウリカエデの花の赤い襟  山口県美和町/白滝山(459)〜大師山(473)

周遊できるハイキングコース

桜が散り始め、紫色のツツジの咲く頃、さあ山歩きのシーズンの始まりだ。

展望360度の白滝山は変化に富んだ素晴らしい観察コースを歩く事が出来る。

二年前に来た時はザイフリボクが咲いていたのを思い出す。ツツジの名所でもある、くどいくらいの案内の印、登山者用の駐車スペースの確保など初めての人には嬉しい山だ。

美和町岸根の集会所は看板に「白滝山登山者休憩所」とあり、きれいなトイレと案内パンフまで用意した至れり尽くせりの駐車場。

登山の対象としての「白滝山」は竹原市をはじめ広島県には三箇所以上あり、山口県でも複数存在する。全国的にも各地に白滝姫伝説にちなんで、良くある山の名前でもある。

ただここは西側の大きな岩壁を流れ落ちる水が白い滝に見えるから、と言う名前の由来もあり、小瀬川をはさんだ東側には黒く見える黒滝山がある。また山口県の玖珂郡誌によると「筑紫大炊頭」と名乗る城主のいた白滝城のあった記録があり、興味は尽きない。

集会所の周囲にスミレ(という名のスミレ)が群落を作って咲いていた。キランソウ、イヌナズナ、カキドオシやムラサキサギゴケが満開。

花崗岩の道

親切な案内で道は分かり易い。レンゲ畑を通るとこの地方に多いクリ林がある。岸根栗として名高い。その明るい林床にはシハイスミレ、コタチツボスミレがたくさん。ゼンマイ、ワラビも採ってくれと言わんばかり。

コバノミツバツツジが紫色の花を見事に咲かせている。ヤマツツジのシーズンまで様々なツツジ科の仲間が咲く場所でもある。

足元にはシュンランの花、ツルリンドウの若い芽、そしてクリのイガ。

ナメラ滝の上にウリカエデの可愛い花がほんのり赤い襟をつけて咲いていた。キブシ風にぶら下がった花の付け根が襟のよう。

山道は花崗岩でざらついているので滑りやすい。ウリカエデの花の写真を撮っていると男性が一人追いついてきた、この人の足元は普通の運動靴なので下りがやや心配だ。でも杖を持っているのでいくらかマシだろう。

杖は下りでその役目を果たす。

すいすい歩けば30分で尾根筋に出る。

東側を見下ろせばR186に沿った小瀬川の流れ、正面は広島県側、黒滝山のほれぼれするような岩峰だ。 map

ジャンダルムに守られた白滝山の頂上

白滝山はとても人気のある山でもある。その理由のひとつが「入道岩」。山頂前のジャンダルム(前衛)だ。

登山者をひとりひとり検問するかのごとく門前に立ちはばかる。許可を得た者のみ通過を許される、みたいだ。

あたりの植生はアセビ、アカマツ、ソヨゴ、ネズの常緑樹帯。なにより嬉しいのは足元を飽きさせないシハイスミレの花娘達。

丁度新聞に連載している三人娘がいたるところで出迎えてくれる。

ヒメヤシャブシの花穂(雄花)が長く垂れ下がり、その付け根に2〜3個付いた雌花が小さく可愛らしい。

旗立て岩を過ぎすぐに山頂がやってくる。

ゴミ一つ無いこの山は地元の人の絶え間無い気配りで清掃されていることが容易にうかがえる。

頂上へは岩の間を縫うように登って辿り着く。キアゲハを気の荒いタテハ(蝶の仲間)が追っかけていた、三角点の周りでのこと。

ここで先程の男性が待っていてくれた。

柳井からバイクで来た、と言う。ここが初めて、ということで二度目の私がこの先のルートを説明してあげた。元気のいい人だ、シャッターを押して記念写真のお手伝い。

日本庭園

千人崩れ、雨乞岩で弥栄峡を見下ろし昼食とする。360度の展望を柳井の人は「今までで最高の山です。」と評価していた。

奨めたのはもとの道を引き返さず先の谷に下りて大師山に登るコース。周遊できるのだ。

途中、白滝城址、鏡池(オタマジャクシがたくさん)のある白滝水神社に寄る。その後「日本庭園」と名付けられた場所があって、「それはちょっと言い過ぎ」と思うが、黒滝山方面は南画の世界と言ってもオーバーではない。

この山は植生の面白さと登山の楽しさの両方で山歩きを堪能させてくれる。

大師山

予定通り大師山に登ろう。

ここも登山欲をそそる岩山だ。下から見るとまるで象の背中を思わせる大岩が呼んでいる。タムシバや相変わらずのコバノミツバツツジ、夏が楽しみなササユリの若葉があった。

タカノツメが青い葉を出す寸前だ。

谷から20分あれば頂上に辿り着く。

タテハの舞う頂上は狭いが西に羅漢山を見、北に三倉岳を見る。素晴らしい展望。

暑いくらいの陽射しで眠りたくなる。

間違いなく心からリフレッシュする山。

圧巻、谷筋の山道

下りは谷までの道を引き返すのが正解。

谷川に沿った山道は登り道とは一味違う素晴らしい散策路だ。

ゆっくり時間をかけて植物観察をしてみよう。ウリカエデの花は今しか見られないぞ。

ヤブツバキは名残の赤い花を咲かせ、その足元にはトンボソウ、ミヤマウズラの若葉も。イチヤクソウの葉が群れていた。

ヤマザクラがはらはらと花びらを散らせる。

きれいな沢の水で手を洗えば目の前にニシキゴロモの花が。

ニワウメが満開の人家のある麓まで下りるとセキショウ、ショウジョウバカマ、キツネノボタンが当たり前のように姿を見せる。

もう一度振り返ると左に岩峰大師山、右に白滝の大岩壁がどーんと座っている。

年中素晴らしい山に違いない。登り口の集会所には登山者用のノートが置いてあった。めくってみると先ほどの男性の一言は印象的だ。「今までで一番素晴らしい山でした、仲間を連れて又来ます。」

錦龍の滝

帰路、大竹で気になる看板があった。

「錦龍公園いこいの森」

亀居公園の奥2キロの山中だ。大膳川の渓流に沿って散策路が作ってある。ちょっとした時間の余裕で寄ってみることとした。

小さな橋の手前で車を停めざるを得ない。ここで見られたのがミヤマニガイチゴ、普通のニガイチゴはどこでも見られるがミヤマ…は珍しい、いやその前に刺のあるイチゴの花にはあまり人は目を向けないようだ。

沢に沿って咲いていたのがシロモジ。この時期クスノキ科の樹木を見極めるのは、落ち葉をじっくり観察すること。独特のカエルの手の葉が身辺調査に役立つ。

気の早いシマヘビが冷たい川に逃げて行った。