QJYつうしん 60号
平成9年4月27日カタクリロードの山歩き
山口県錦町/寂地山(1337m)
山歩きが好きになった訳
今までこうしてQJYつうしんで山歩きの楽しさを伝えて60号を数えている。その理由はただひとつ、皆さんに素晴らしく咲いた花に出逢って大いに喜んで欲しいこと。
花の山歩きで知った船通山、三瓶山、大万木山、吾妻山、いずれも島根県の名峰である。もちろん鳥取県の大山や吉和の冠山などもいずれ劣らぬ花の名山といえる。そして山口を代表する寂地山はどの季節に来ても花に逢える、心身共にリフレッシュする山だ。
中でも山頂のカタクリは船通山と並んで感激もの、人には内緒にしたいし、教えてあげたいし。
と言う訳で今回参加者を募集して登ることとした。集まったのは二十数名。数がはっきりしないのはルートを変えて登った仲間がいて人数把握が出来なかった。でも山歩きはそれでいい。もともと大勢の山登りは大嫌い、最悪は登山ツアーを組む旅行社、山頂の集合写真を撮るため登りさえすればよいと思っている人達も多い。
山歩きはもっとゆったりとこのシーズンなら新緑を堪能しながら歩いて欲しい。
頂上に着かなくても時間が来れば下山すればいいわけで、登頂だけが目的の「お遍路さん」は急いで上がればいい。
寂地峡
滝の多い寂地峡は「QJYつうしん36号」で紹介した。今回のルートも西側にある右谷山と寂地山との間の太鼓谷から尾根沿いに歩く予定だ。
延齢水と呼ばれる湧き水のそばを通りいくつもの滝が続く。最後はまっ暗闇の「木馬トンネル」を抜けると普段なら極端に人が少なくなる。でも今回はトンネルの中ですれ違うくらいの人の多さ。内緒にしても皆カタクリの山であることを知っているのだ。
太鼓谷まで
ウリカエデ、クロモジの花などを見ながらの山歩きはこの季節ならではの新緑のハイキングだ。ここまでが滝沿いのきつい階段だったがしばらくは山道の草花を楽しみながら歩く事が出来る。
途中数十名の団体が何組も追い抜いていった。私達はこれはと思う花の前で立ち止まるので彼らには迷惑だったかもしれない。それでもこのルートは人が少ない方だろう。
タチカメバソウ、エイザンスミレ、ミヤマキケマン、エンレイソウなど春の花がどうしても足を引っ張りたがる。うす紫の清楚な美人ヤマエンゴサクが参加者の人気を集める。学名をコリダリス・リニアリロバ(流線形の葉を持つケマンの仲間)だが、ここのエンゴサクは丸い葉ばかりだ。
ブナの実生の双葉が時折姿を見せる。チゴユリももう咲いている。
山道は太鼓谷からの沢沿い、夏は避暑に絶好の広葉樹林になる。
ニシノヤマタイミンガサのひょうきんなやぶれ傘が目を楽しませてくれた。ワサビが花をつけて一本だけ立っている。ところどころ石垣が組んであったがワサビ田の跡なのだろう。
ウスギヨウラクの花が目の高さで見られた。
すれ違った人が「カタクリが上に沢山咲いていますよ。」と、親切に教えてくれた。その尾根筋は登り切るまでは一本のカタクリも見せてくれない。だから素晴らしいのかも知れないと思う。
尾根筋のカタクリロード
一昨年の自然観察会でここを訪れる機会があった。雨の翌日で足元の悪さに苦労したものだ。団体で来て山道の端を歩こうとするものだから、すぐに道が広くなっていく。どろどろになっても道の中央を歩くのが団体山歩きの原則、道沿いに咲く花がどんどんやられていくからだ。私たちは是非そうしたい。
前回登られなかった方が今日は沢山来られている。向原のカタクリしか見たことが無いという人も。それならいっそのこと最高のカタクリツアーとなるこの「尾根筋ルート」を紹介しようと思った。本当は秘密にしたかったが。
つぼみを重そうにつけたユキザサが「カタクリさえ終れば私の世界」と言わんばかりに待機していた。
約3時間で登り切った峠には先着の大勢のハイカー達が感嘆の声を上げていた。ここのカタクリはちょっと小さめに思えるようだが、先日まで雪に覆われていた山頂ではそれほど大きく咲くはずも無い。
ここから長い間、足元に咲く、まさにカタクリロード、好天で満開状態だ。
寂地山
昼食もカタクリの咲く山道の途中でとる。すれ違う大グループにどこから来たのか聞いてみた。「九州からです。」と返事。おそろいのシャツには「頂倶楽部」のネーム入り。
座り込んでのビールがうまい。
お菓子にクロモジの楊枝が用意され、飛田師範のお茶もはいった、「今日はスローペースだから疲れないわ。」と、相変わらず可愛くないのでビールを一本飲ませたが手元に狂いは無いようで、私の方は確実に眠たくなっていく。柔らかい陽射しが心地よい。
このまま昼寝できたらどんなに幸せだろう。
山頂前の広場では白いカタクリが一本皆の注目を浴びていた。花茎まで白い、花びらの模様も見られない。
そして随分時間をかけて目的地の寂地山頂へ。当然、帰りは急いで林道の道を下る。
犬戻し
林道を最後まで車で来れば帰りが楽だ。一昨年はそうしたが駐車スペースで苦労したのを思い出す。ただここの林道に沿っての山歩きも相当面白い。
下山は約2キロだが1時間かかる。途中でニリンソウ、ワチガイソウなどを見て、水場での一服、ミヤマカタバミの花、夏には見られるハスノハイチゴやミカエリソウの葉を確認しながらすいすいと下山だ。
林道最奥部の駐車場にはもう車の数も少なくなり下山者の姿も減ってきた。
ここから犬戻しを経てキャンプ場に下る。山歩きの楽しさはこうして車を使わず歩いた部分での発見だ。
イワカガミ、ナガバモミジイチゴ、ウグイスカグラやイヌシデの花が満開だ。
林道から谷越えに見る山の姿がいかにも春らしい、うす緑の若葉色。
時間が経つのが早すぎてもう帰る時刻になってしまった。
{編集後記}
6年過ごした庭付きの家を引っ越してマンション住まいとすることとした。息子が大学生となり出て行ったため、広い家に住む理由が、いや資金繰りが苦しくなったため。
これまで引越しと言えば小さい家から大きな家への転居だった。しかし今回はその逆。
応接セットや洋ダンスが、置けないどころか入り口を入らない。断腸の思いで持ち物を廃棄する。ぼやぼやしていると自分もゴミになる恐れも少しあった。衛星放送のアンテナ取付など頭脳的労働は妻の評価が低いことを知らされる。
マンションへの引越し、それは「棄てることの美学」を実践すること。