QJYつうしん第63号 平成9年5月9日
休日は山にいます 発行 QJY通信社
女王サクラスミレ と 横綱アケボノスミレ
ツツジの名所
先日、牛田山のヒメヤマツツジに大いに喜んだので、この時期ツツジと言えば、と言う訳で芸北の大潰山(おおづえやま)に登ることとした。
広島市内と2週間以上は遅いと言われる県北地方の花のシーズン、スキー場だらけの芸北町の春は大潰山のツツジのお花見で始まる。なにしろヤエザクラやハナズオウがまだ庭先に咲いているのだから。
登り口はR186を馬原川沿いに1.5キロさかのぼった東側の登り口を利用する。オススメは大佐スキー場の駐車場(傍路峠)に車を置き、この登り口まで30分歩いて周回するコースを選ぶ、が、今回はどうしても大朝町のテングシデを見たかったので、登り口に駐車し往復(ピストン)してみることとした。
オススメどおり国道から歩けば右手の民家の大きな犬が檻の中から「いらっしゃい」と吠えてくれる。
昨日までの台風並みの大雨は何処へやら、朝から涼しく、すかっと晴れた五月晴れだ。近辺の山々が雨上がりの晴天でとても近く見える。空気がおいしい。
スミレの女王 サクラスミレ
登り口近辺はきれいな流れで心が休まる、が東側の山は植林が予定されているのか、丸坊主にされていた。
それでも流れの近くにはイカリソウが咲きキブシは青い実をぶら下げる。
そして愛らしいウスギヨウラクとクロモジが競って咲いていた。
ウマノアシガタや小さな花のキジムシロが黄色い花を見せる。県北は今が春、道すがら
至る所でアオダモの花が多いのに気がつく。
登り口は通る車も無く、駐車スペースは十分だ。平日にも拘わらず後からもう一台やって来て、この山がベストシーズンを迎えていることを感じる。
私自身も以前ここへ来たのは同じ時期、アケボノスミレの何とも言えない淡紅色が印象にあって、今日はどうしても再び逢ってみたかった。
入り口から道は水を含んで今日はスパッツが必須か。靴がどろどろになるのを覚悟で歩き始める。
背中に朝日を浴びるが、ひんやりとした空気が気持ちいい。
最初に出合ったのがユウシュンラン、植物学者工藤祐舜の名を残す、ギンランに似て小型のラン。意外と道端で見るのだがやはり貴重な種だ。
その前方に可愛い黄花をつけたメギの木があった。別名コトリトマラズ(枝の鋭い刺による、このような名前は是非正式名にして欲しい。)は花が下を向くのが少々残念だが花の色、形は絶品の感がする。
そばに咲くオトコヨウゾメは更に珍しい、ガマズミが白一色の花なら、これはつぼみはピンク、花の中央は赤く化粧している。オトコのくせに、と言っては訳がわからなくなるが、名の意味は良く知らない。
ここのガマズミはミヤマガマズミのようだ、その他つぼみまで入れると書ききれないくらい木の花が多い。
上ばかり見ていてもいけないので足元を見る。知らぬ間に道も乾いていて歩き易い。チゴユリが咲き、タチツボスミレや白く小さいツボスミレもたくさん。
そしてびっくり、紫の優雅なスミレ、毛が多く長い葉の形で普段目にしない種類と分かる。あわてて図鑑を取り出す、サクラスミレだ。
スミレの女王と呼ばれる完成された優雅さ、そして何より珍しさで足が止められてしまった。後続の登山者に簡単に抜かれてしまうのはあたりまえ、ツツジの山だからと言って頂上に急ぐのはもったいないのになあ。
クロモジは葉をつけたまま花をさかせている、葉の大きさもやや大き目、ウスゲクロモジと思われる。ブナ林には比較的多い種だ。
ササユリの葉やナツトウダイの花を見ながら山頂が近づく。
スミレの横綱 アケボノスミレ
この山の展望の良さは好天気でさらに良くなる。北は浜田市、双眼鏡で日本海を走る漁船が確認できた。
ロシアのタンカーではないようだ。
1時間もあれば頂上へ辿り着く。その間コバノミツバツツジ(やや毛が少ない感じがするが。)が満開あり、つぼみあり、咲き終りありと登山者を楽しませてくれた。
カシワの新芽が雄花であろう花の房をつけてたくさんある。
コシアブラはもう葉を広げていた。葉は普通5枚のはずだが、6枚葉もある。おや、芽がもぎ取られた跡があるぞ。タラより美味と言われるくらい人気が高い山菜なのだ。
1000メートル級の山頂はカラマツの緑が美しい。地図を広げて方位を確認する、ひんやりした今日の風が北風だったことを知った。
まだ花を見せないヤマボウシの木、それに絡むツルアジサイかイワガラミ。ミツバアケビは見事な濃い紫の花を付けていた。
そして日当たりの良い斜面を足元に注意しながら下る。其の訳は本日のタイトル、アケボノスミレに逢うためだ。「横綱」というのは相撲の曙のことでただのシャレだが、このスミレは花の色合いが大好きだ。スミレサイシンの仲間なのだろう花の時期に葉がくるっと巻いていて出そろっていない。
前回と同じ、この斜面に限りたくさん見ることが出来た。思わず名付けた「横綱」の名に恥じない落ち着いた淡紅色、花の色を曙の空の色にたとえたと言われる。
決してタチツボの様に固まって群生しない。しかし大きな範囲で一本づつ花茎を伸ばし枯れ草の中に花を出す。葉がほとんど目に入らないから感心の無い人には気づかれないのだろう。
女性グループ3人がつぼみをつけたサワフタギのそばを賑やかに傍路峠方面に通りすぎて行った。
大潰山は山歩きには適当な山、頂上のツツジ咲く風景、展望など、登山者を満足させてくれるに十分な山である。
テングシデの森
下山は元の道を返すのではなく、大朝町にある県の天然記念物「テングシデ」を見て帰ろう。
田原温泉5000年風呂の前を通り、「テングシデ」の標識に従うと、運悪く工事中通行止め。それを無視して土を盛った道路を進むと、問題無く通してくれた。感謝。
イヌシデの変種と言われるテングシデは穂状の雄花をもう散らせてしまっていたが、相変わらずの堂々たる容姿をどの木も見せ、ちょっとした公園を形作っていた。
周囲の薮の中にラショウモンカズラやコケイランが咲き、フキやワラビまでたくさん生えて訪れる人の少なさを感じる。
ここから登る熊城山(998m)はいずれ皆さんに紹介したい。マンサクの道、カバノキの道など案内図にあった。