QJY65号 平成9年5月30日

     休日は山にいます     発行 QJY通信社

  散策コースの箱入り娘スズランの咲く 世羅郡甲山町/男鹿山634m

 


甲山町の夫婦(めおと)

男鹿山は平坦な吉備高原面上(通称世羅台地)に分散して突出している第四化の火山のひとつである。昭和51年に山全体(43.71ヘクタール)が県の自然環境保全地域に指定された。近隣の久井や矢野の岩海を形成する玄武岩の岩山は、植林林業を推し進める行政に無言の抵抗を示したため、お陰で溢れる自然がそのまま公園として残ったのではないかと考えられる。

岩の洞窟はコウモリの棲家となり、ブルドーザの入れなかった山には山野草が咲いて私達を楽しませてくれる。

ふるさとの山歩き(中国新聞社)では東隣の女鹿山とあわせた散歩コースを紹介してありスズランの自生南限地としてまさにこの時期に登れば良いように言っている。

午後からは天気が悪くなると言う予報。実は早く(5時)目が覚めたため、早く出かけて雨を避けようと思った。

妻の寝ている内に出かける。

男鹿山の山歩き

初めてなら恐らく何度か道に迷うことになる。救いは「すずらん荘」の前にさえ着けば大きな案内看板が出ていること。その前に目指す男鹿山が向かって左に見えるから、自分の位置を確信して進む。

さらに円福寺らしき建物が見えると同じ看板がある。この看板どおり左の細い道へ車を進め、男鹿山のふところへ入っていくわけだ。細いので不安になるが舗装されたちゃんとした道だ。

最初に東登山口の看板に気づく、ここは車が置きにくいため、約1キロ先の北登山口を利用しよう。先程の看板にはPの表示があっ                                     たが、行けども行けども駐車場は見当たらない。仕方なく道路上の空き地を利用する、登山口の前だ。但し、このスズランの時期の土日には置く場所が無い可能性がある。

案内図が二つあるが、保健保安林の表示のある案内図は現在位置が間違っているので要注意。

北登山口コース

コアジサイが花を咲かせ始めたようだ。それより道路上を覆うエゴノキの花。斜面にはヤマツツジ、登山口から木に掛けた植物名を教える札も多く親切だ。

ホトトギスの鳴き声を聞きながら上がっていくと、足元にも植物のホトトギス。

フタリシズカの多い山だ。トリカブトやキバナアキギリがめぐる季節の順を待つ。

今年はヤマボウシの花が素晴らしい。

下も見なければいけない、チゴユリ、ナルコユリ、ギンリョウソウも多い。ウグイスカグラの実がぶら下がるが、枝や実に毛が多いミヤマウグイスカグラのようだ。

何やら不思議な感じがしてきた。山頂にあるはずのスズランを見に来たのだが、いろんな山野草がある。山歩きで意外にも花が多いのは登山口までの車道であった、ということがある。そうだ、下りは東登山道としよう、車まで戻るのに歩けばもっと、花が見られるぞ。

実は先程通過しながらマメの仲間の紫色の花が気になっていた、葉が大きいのだ。

30分もあれば山頂だ。

いきなり目に入るのは金網で囲ったスズランの保護域。箱入り娘だ。ここまでするか、と思うが、やはり盗掘があるのだろう。現実のつまらない世界に戻された感じ。

肝心のスズランの花は金網越しに可愛い白い釣鐘をぶらさげて咲いていた。花屋で見るドイツスズランと違って花が葉の下に隠れるように咲く。従って地味な感じがする。しかし甘い香りが一面に漂っていた、ドイツスズランではこれほど匂わない。

周囲には網からはみ出たスズランもある。各種の山野草も立て札付きで囲ってあった。ちょっとやり過ぎでうんざりする。山頂北側の展望のきく斜面である。今日はいつ降り出してもおかしくない天気なので、遠くの山は見えないが、山容を示した大型の案内看板では遠く三瓶山も見えるらしい。

山頂は思ったより広い。レンゲツツジが終り、エイザンスミレの葉が確認される。

東登山口コース

山頂東側にヤブコウジが群生していた。ちょうど若葉が出て、一面柔らかい萌黄色で覆われていた。映像的にはきれいで不思議な感じ。そばには咲きおわったチゴユリの群落、とても大型で元気がいい。

南側に「山頂一周路入口」と書いた看板がある、約15分の周回コースを歩く。

  ハナイカダの木が多い、その足元にはヤマハタザオのスリムなボディー。ゴンズイの木、コウヤボウキなど。南側の展望もちらっとだけ見える。見えるのは竜王山か大峰山か。

左回りに一周路を廻り終ると予定通り東登山道を下る。こちらも北登山道に負けないくらい面白い。山全体が町の天然記念物だけあって、見るべき個所も多いのだ。

「角礫岩層に貫入した玄武岩脈の露頭」と書いてある。なるほど、しかし全然意味不明。「昇竜岩」、その他「壁岩」、カヤとケヤキの大木の根が抱く「玉岩」などここが火山の爆発で出来た山であることが伺える。

ササユリは花の時期にはまだ早いが多い、特に最初に想像した通り東登山道入り口から北登山道までの車道を歩けば人が通らない分自然が残る。紫色の花はナンテンハギ(別名フタバハギ)だった。エビガラ(ウラジロ)イチゴ、シライトソウ、コアジサイ、ウバユリ、アオテンナンショウ、ヤマツツジ、カノコソウ、キツネノボタンなどなど、どれも豊富な腐葉土で形が大きいような気がする。

アスファルトの道沿いとは思えない。

その道の上はエゴノキの愛らしい花が降り積もっている。ツバキが散るように花びらにオシベをつけたまま潔く散るものだ。


  車を置いた北登山口にまもなく到着。

四季の里

昼食を近くのあやめ寺として名高い「安福寺」近辺でとることとしよう。さすがに朝早かったのでまだまだ午前中だ。

あやめ寺のある矢野の里にはすぐ到着する。女鹿山を左に見て良く整備された道を北上すれば矢野温泉が見えてくる。あやめ寺は近々の開園日を迎え準備に忙しい。もうカキツバタの仲間は咲いている、ただし、まだ全体の2割程度。これからの花だ。

庭先のベニバナのエゴノキも満開だ。

昼食はその先、矢野の岩海のある「四季の里」まで車を走らせる。ヤマボウシとエゴノキが公園化した岩海内を白く飾る。

シソバタツナミソウが群落を作っていた。ガンピやソヨゴの花はこれから。

気持ちのいい公園だ。時折キツツキの音も耳にする。平日なので人も少ない。

気持ちいいから眠くなる。早く帰ろう。

箱入り娘「スズラン」の男鹿山はスズラン以外のシーズンが案外面白いのでは?


{編集後記}

QJYつうしんを読んで実際にその場所に行ってみた、という話をよく聞く。だから場所と植物名はなるべく正確に書くつもり。

ただ不特定多数の人に教えるつもりは無いので皆さんも気を使って欲しい。