QJYつうしん 66号

平成9年6月13日

毛だらけでも毛無山 滝めぐりの 比婆郡比和町/福田頭 1253m

 脚光を浴びる山

最近話題になる山がある、昨年の「山と渓谷」10月号で紹介された広島県の山、「福田頭(ふくだのかしら) 別名を比和毛無山と呼ぶ。山口の山の情報誌「ゆうゆう」でも何度か紹介され、又比和町が昨年登山大会を開いたため一躍脚光を浴びることとなった。

登山道も昨年開拓され、標識なども整備したため初めての人でも迷わない、何ら問題の無いハイキングコースが出来上がっている。

このところの県内の山ブームの盛り上がりは凄まじく、リビングなどの登山ツアーでもガイドブックに無い様な山が人気の的になっている。

2週間前はマツダの登山ツアーでここが選ばれたと言うし、中国登山講座でも8月の予定に入っている。たまには長めの縦走登山をしてみたかったので登ってみることとした。

広島を出発したのが8時過ぎなので高速を利用しても登山口までは2時間後の10時過ぎとなる。

吾妻山方面へ進み比和町の誇る総合運動公園「カサベルデ」が第一の目標となる。その先すぐにある福田上区集会所に車を置き、標識どおり歩き始める。本日は10キロ以上の行程となるはず。天気は上々、例によって田舎の道の楽しさで時間ばかり食ってしまう。

登りの楽しさ

「以西谷橋」を渡り道筋の草花をメモする。コウゾリナ、ヒメジョオン、アカツメクサ、イヌトウバナ、ウツギやクワの赤い実をメモしながら歩いていると、農作業の地元の人に声を掛けられた。「何勉強しながら歩いてるの?」。

前方には目的地「福田頭」の山容をしっかり見据え、これから始まる花ツアーにわくわくしてしまう。

ネムノキの花はまだまだ。涼しいこの地ではウツギが今を盛りに咲いている。

タイトゴメやコメツブツメクサがあぜ道に咲く。濃い黄色はミヤコグサ。

15分も歩けば右の川を渡り大きく迂回する。サラシナショウマ、オオバショウマがこれからだ。フタリシズカが終っている。ミツバウツギの印象的な袋果に気づく頃、道は車道と一緒になりコウゾ、クワなどの植生が目に付く。

この山への案内標識はそれ程多くないが、赤テープを時々確認しておけば怖くない。車道は轍(わだち)が残る程度であまり頻繁に車が入っていないことは確か。

杉林が続き、周囲のコゴメウツギの花、ウグイスカグラの実が楽しい。轍の中央にミツバやヤマハタザオがある。そろそろ山道にさしかかる頃、林の左に目をやるとサイハイランがすっくと伸びて咲いていた。ユキザサは実を付けトチバニンジンはこれから花を咲かせる。

頂上はまだか

この近辺には毛無山と呼ばれる山が多い。共通点は放牧のために山を丸坊主にしたため、その姿からついた名前。ちなみにここを比和毛無山と呼ぶ、但し地元の案内でもすべて表示は福田頭となっている。

コアジサイが花を咲かせ始めたようだ。

再び木の看板で「福田頭登山口」とあり、ミツバウツギが多い場所に出る。いよいよ山登り。極端なケースではここまで車が入るから時間の無い時はピストン登山が出来る。

初めての山は赤テープが友達だ。約1時間をすでに使っている。明るい杉林の道はこれから咲くササユリが多いぞ、そして珍しくハナイカダを多く見る。

map

鳥の声、セミの声、夏になったのだ。

12時丁度だがやっと一の滝、これから頂上まで予定では2時間かかる。

しばらくは流れに沿っての好きな山歩きだ。一の滝に初夏の陽が射して美しい。二の滝、三の滝と続き涼しい山歩きはとても楽しい。ミヤマハハソ、ウリハダカエデ、チドリノキが渓谷を飾る。道は一本で迷うことはない。

大柄なヤブデマリ、小柄なコゴメウツギ、とイボタノキの香り。ヒトリシズカも咲いたあと。

おいしい水で喉を潤し、三の滝の上部に出るとそこはもう実になっていたがルイヨウボタンの群生地だ。ラショウモンカズラやエンレイソウ、ネコノメソウなど花の時期なら時間ばかり食って前に進まなくなっていただろう。

ふと目に入った赤ペンキの文字でちょっとがっくり来てしまった、「四合目」と書いてある。まだ四合目?

足元にエゴノキ風の白い花、見上げるとハクウンボクだ。柔らかい葉はトイレットペーパーの代用として名高い。

「大波峠(おおはのとうげ)」に辿り着くのが13時過ぎ、腹減ったヨー。といってもせっかくなら頂上で食べたいものだ。これからブナの森、ヤブデマリとガマズミの花がこれでもかと咲き誇る。

あと森林浴の山歩きを1時間続ける。夏でも直射を避けられるのがいい。

峠から左の笹尾根を頑張って登ろう。

そして14時過ぎにタニウツギとヤマツツジの咲く頂上に辿り着いた。

狭いが二等三角点の福田頭から見る中国山地は北に左から猿政山、吾妻山、東城の猫山などが並ぶ。今は時期的に霞んでしまって遠望がきかないが。

一気に昼食を済ませ、しばらくはボーっとして山頂の風を楽しんだ。脱いだシャツが乾いたのが15時、さあ下山開始。

乗せてくれえー

林道まで1時間の下り坂道。涼しいブナの道を気持ち良く下る。ヤマボウシが至る所で咲いている。兎舞台頭と呼ばれるピークを左折し急坂はちょっと膝にきついが捉まる樹木が助けてくれる。遊ばせて貰い帰りまでこうして坂下りを助けてくれる、山の木々に感謝。

もう少しでアスファルトの林道に出る頃、「昇竜の滝」だ。ここで一服。水がおいしい。

見上げると5本株立ちのサワグルミの大木だ。サワグルミの木は姿が美しい。

地面に落ちていた若い枝にじゅずつなぎの実もついていた。

日本に自生するクルミの仲間は実を食べるオニグルミ、我が家の近所にさえあるノグルミと三種類。いずれも実の形が違う。

あとは沢沿いに10分歩くと林道に出る。

ここに自転車を置いて再び車に乗り登山口に戻ると言う人の話を聞いた。なるほどと思う。今日の私はひたすら歩く。

林道で作業していた工事の人が声を掛けてくれた、さほど登山者の多い山では無いのだろう。登山バスツアーの場合はここに迎えが来ると言う。林道は広域農道で車が通らないくせにやけに広い新しい道だ。

タニウツギとイタチハギを交互に見ながら約1時間かけて車を置いた集会所までテクテク歩こう。あれ、さっきの人が車で手を振りながら通りすぎて行った。「乗せてくれえー。」

10時半に歩き始めて17時半に戻った、車で出かけるとピストンの山歩きが殆どだから、こうした周回コースは久しぶり。
体力を試された「大山登山クラス」の山歩きでした。


{編集後記} 家を出る時点では目的地を決めてなかったので妻には行き先を告げずに出かけてしまっている。一人で登山すること自体あまり薦められる行為では無い。クマも出るかもしれないし皆さんには仲間同志の登山をお願いしたい。