QJYつうしん第67号 平成9年6月20日

白雪姫(オオヤマレンゲ)とシンデレラ(ササユリ)   香りの対決 佐伯郡吉和村/冠山 1339m

 


夏山が呼んでいる

中国新聞社「ふるさとの山歩き」のトップページを飾る山、泣く子も更にわめく?吉和冠山、何しろ広島県の山屋さん達の間でここを知らないと言ったら仲間に入れてもらえない。

私、花屋さんとしても年に一回は訪れているかな。春先のタイミンガサの傘のお化けや可愛いカタクリなどシーズンの始まりから豪華メンバーがたっぷりと訪れる人を魅了する。

そうそう我がQJYつうしん、記念すべき第1号も冠山の特集だった。

今日は台風7号の到来と重なったためその動向次第ではあきらめる筈だったが幸い東に外れたため雨上がりのすっきり晴れを期待して登る事とした。

潮原温泉奥の行き止まりまで車を入れる。

土日なら混雑するが今日はガラガラ。行き止まり、つまり光井さんのワサビ畑の前にもうキツリフネが咲いていた。ミツバウツギの実やマタタビの蕾が鈴なり。靴を履き替えて赤いニワトコの実の写真を撮っているともう一台暇そうな車がやってきた。

山野草の山歩き

最初に目に付いたのがミヤマホウソ(ミヤマハハソ)、地味な花を付けている。ホウソとは何か?と調べてみると漢字で「柞」(ははそ、ほうそ)とある。そう言えば広島に柞木(ほうそぎ)という地名があったぞ。

さらに国語辞典で意味を調べるとコナラ、クヌギなどの総称とある。つまり雑木のこと。

沢に沿ってオオバアサガラが満開だった。白く豊かな房を垂らして優雅に咲く。大きな葉と言えばカエデドコロ、ニシノヤマタイミンガサが目立つ。そして余り目立たない濃い紫色の花を付けたツクシガシワ、図鑑ではフナバラソ                                     ウのようだが花枝が長いことで分ける。

杉林を進むと国体コースと書かれた道が左にある、木製の橋を渡るようになっているが、これは帰りに利用しよう、今は直進。

ウリノキに蕾が多い、木によっては一輪咲いているものもある。

最後に川を渡り山道になる。

秋咲きのミカエリソウ(オオマルバノテンニンソウが正式名だと思うが)の大きな葉はいつ見ても虫食い状態、余程おいしいのだろう。

オオバアサガラが絶え間無く続く、こんなに多かったのか。足元にもたくさん落ちている。エゴノキの花も落ちている。

ニシノヤマタイミンガサはすっと花芽を立てて梅雨明け頃には咲くつもりらしい。

キハダの木肌の黄肌を見た

木肌を覚えられる樹木は意外と多い。

ウリハダカエデやアベマキ、リョウブやナツツバキ、いずれもここ冠山では普通に見られるぞ。今回覚えて欲しいのは「キハダ」。

吉和村の名産でもある、青空市でも良く出ている。ややコルク質の表皮をナイフで剥ぐと鮮やかな黄色い内皮が目に入る、で黄肌と呼ぶ。吉野の陀羅尼助はこれのこと。

これを口にも入れてみた。ニガキやセンブリほどではないが口に広がる苦みがある。

「良薬、口に苦し」か。

漢方で黄柏、整腸の薬だ、民間では練って打撲傷にと広大薬草園の神田博史先生は著書で説明されている。

ちなみに幼木はヤマウルシと良く似ている。ヤマウルシやヌルデの枝が互生なのにたいしキハダは対生、ミカン科だから葉に香りがある。いずれもここにはあるから見比べが出来る。

あたりの木にはツルアジサイが花を付けて巻き付いていた。足元にはヨツバムグラの可愛い花。イボタノキの蕾やサワフタギの花が歓迎してくれた。バラの花のようなハスノハイチゴも咲き、地味な白い実もぶら下がる。

おや、歩いている足元にホウチャクソウだと思って無視していたユリ科ふうの植物をじっくり観察すると花が変だぞ。これはヒメナベワリ(ビャクブ科)だ。QJYで公募して登った寂地山で見たのはカタクリの頃だから随分息の長い花ではないか。

一度見つかるとつぎつぎと結構見つかる。今まで何度もこの時期来ているが初めて見る花もこうしてある訳だ。

 

山頂の白雪姫

しばらく足元に気を取られながら歩いているとクルマバソウなど地味な花も確認できる。アマチャヅルまである。

本日の恋人、香りでは最高クラスのオオヤマレンゲは咲いていてくれるだろうか。アオダモは実になり、はっとするのは巨大なチャイムをぶら下げたオオナルコユリ。

山頂に辿り着いた。鳥の声が絶え間無い。

ここでちょっとがっかり、それは昨年咲いてくれなかったサラサドウダンが今年も殆ど見られないこと。全然咲いてない木もある。

山頂はガスがかかり小雨も時折降る、台風一過の澄んだ空など期待出来ない。三角点の東側で昼食を済ませ本日のメインエベント、寂地方面の縦走路に向かう。

山道に沿ってタニギキョウが咲く、あとから来られたご婦人に地面に立つ親指大の実は何かと尋ねられた。これはカタクリ、葉もかすかに残る。それでは、と持って帰られた。

花が咲くには7〜8年かかりますよ。

コバノフユイチゴはひっそりと咲く。

何やらいい香り。あったあった、オオヤマレンゲが満開だ。

生クリームたっぷりのケーキの香り。

つぼみも多い、日曜あたりでも最高の状態だろう。ほんわり白い花びらで香りを包んだ風情はまさに森の白雪姫、じつは夕刊に出している三人娘も本日はオオヤマレンゲの日。

ツリバナやマユミも歓迎してくれる。カマツカはもう終っているが実もおいしいぞ。

久しぶりにドンピシャの時期に来た。サラサドウダンで落ち込んだ気分も盛り上がる。

あとは帰路のササユリだね。

シンデレラの口紅

帰路は国体コースを辿る。

登り道なので通らない人が多いが、植生は豊か、本日の二番目のやま場、登りの杉林にあるクロフネサイシンだ。ここでは良く似た葉のスミレサイシンが共に生えるので面白い。大きな違いはクロフネサイシン(ウマノスズクサ科)の葉は葉柄部分がえぐれている事、葉のつやも違う。図鑑を見てね。

花が残っているものもあって両サイシンの葉が確かに並んでいる場所。

晴れていれば冠の山頂が臨める小高い丘にヤマツツジが「曇っててごめんなさい。」と咲いていた。

さらにヤマボウシの花が満開の尾根筋を進む、そして楽しみのササユリも並び大きな花をたくさんつけて大歓迎してくれた。

オオヤマレンゲに負けないいい香り。

高級輸入香水と言ったところか。ちょっときつさがあるので白雪姫に対してこちらはシンデレラと格付けしたい。ユリの仲間の花粉には注意しないと、シャツに付くと取れないからね。そうシンデレラの口紅に要注意。

あとは小雨がぱらつく中、国体コースのきつい帰路を降りた。

イチヤクソウとコアジサイが「この次は私のために来てね。」と、咲いていた。