QJYつうしん68号 平成9年7月6日

  クモキリソウ(ラン科)
縦走路を利用した夏山歩きクモキリソウの咲く 山県郡芸北町/高岳 (1054m)

 


仲間に促がされて、高岳に

前号はQJYつうしん第1号の冠山を再び特集した。で、第2号はヤマボウシ、ササユリの咲く芸北町「高岳」だった。イチヤクソウに魅せられて次の年にも訪れ、第30号で報告している。テーマは同時期に登って花の咲き具合の違いを確かめる事。

そして、今年は特に決めていなかったのだが観察会のR氏から昨年同様7月6日に登るんでしょ、と催促の言葉が掛かった。

ほとんど公言しないうちに10名の参加者が集まり、集合場所の道の駅「来夢とごうち」を朝9時に出発となった。

戸河内町役場の前で一旦停車し、一度知ったら気になってしょうがない、第46号で紹介した名物「おっぱい山」を仰ぎ見る。雨模様だからきっと雲のブラジャーをしているに違いない、と言うR氏の予想もはずれ、おっぱい山はこのところだんだん形が良くなったようだ。

芸北町までの「とごうち花街道」は今が旬のアジサイ日和。

紫からピンクのアジサイがR191を彩る。

天候は今のところ小雨模様、雲の動きから天気が変わり易そうなのが小さな期待だ。

登山口前の空き地に駐車し歩き始める。

高岳山頂までのゆっくりペース

山への取りつきは沢沿いの気持ちの良いハイキングコースだ。杉林に沿ってオカトラノオやヤマアジサイが目を楽しませてくれる。

いきなり葉の大きくなったコバノミツバツツジとダイセンミツバツツジが並んでいて、観察会の興味をそそる。

ノハナショウブやクサレダマが咲き、傘になりそうな巨大なオタカラコウの葉、行く手をふさぐ大きなヒキガエル。杉林でも見るものが多い。


ゆっくりペースで水場に到着、一昨年多かったイチヤクソウの姿が今年もこの辺りで見られなかったのが残念。樹林の中が幸いして、時折降る雨もたいして気にならない。

ソヨゴの実がなっている、今年はたくさん花が咲いたのだろう。昨年とは確かに違うようだ。クロモジも実になっている。山道でやっと花期の終ったイチヤクソウが出てきた。そうかもう遅いんだ。もっと登るとちょうどの見頃。

ヤマボウシが終わりかけだが見事に咲いている、昨年はまったく咲かなかった。

早い人は1時間ちょっとで登るところを2時間かけて山頂が見えてきた。ネジキはまだ花が咲いているぞ。振り返ると聖湖が真下に見える、路上に置いてきた車も。

何度登ってもここの見晴らしは最高。

湖を抱くように刈尾(臥龍山)の勇姿、遠く大佐山や鷹ノ巣山。特に聖湖は箱庭の様。

ノアザミ、ヒヨドリバナ、オカトラノオ、ここの山頂の定番。そして春の遅かった昨年でさえ終りかけていたササユリは今年も甘い香りを残して「今日が最後よ」と終りかけていた。

周囲にはその甘い香り。

丁度晴れてきて浜田方面は双眼鏡で日本海を行く貨物船まで良く見える。驚いたのは萩の見島まで確認できたこと、ウグイスがすぐそばで鳴いていた。これは毎年のこと。

時刻は丁度昼食時、そこに30名の大グループが聖山からの縦走路を登ってきた。

聖山から2時間かかったと言う。

そうだ、帰りは縦走路を使おう、とR氏に目で合図。合図を無視したので、決行とする。

聖山への縦走路

ササユリは花が終ると笹の葉に紛れて姿の確認が出来なくなる、葉だけはたくさんあるぞ。遠く晴れ渡った青い海を眺めながら最高の気分で山を下りる。登って来た道の反対側だ。サルナシの若い実がたくさんぶら下がる。

大きくなったウドの葉を揉むとセロリの青臭さが強烈だ。

笹原と雑木林の縦走路は良く整備されハイキングコースだ。山の雑誌「ゆうゆう」によるとこれは地元の八幡青年団にて草刈りが近年行われたことによる。

先程のグループの話どおりアップダウンの繰り返す道を進むこととなる。クマの多い場所でもあり、なにしろ捕獲されたクマの放獣区域とされている場所なので単独行は避けたい。

そういう意味では今日は是非利用したい道だ。きっといいことがあるさ。

ネ、Rさん。

map

  その1番はさっそくやってきた、ミヤマシグレの花。2番はクモキリソウの三人娘。ラン科の身元不明娘も何種類か。特にこのクモキリソウは満開状態で適当な間隔で姿を見せる。3番手にはここの定番イチヤクソウも咲いている。

つぼみのジンバイソウもこれから咲くだろう。

クモキリソウとジンバイソウの違いは主として茎の途中から出る小さな葉、後者はこれがある。

縦走路の所々で湖が見える場所があるが概して展望は良くない。逆に高岳は見事に聳えたつ。双眼鏡で山頂の看板を確認。

聖山がなかなか近づかないことにちょっぴりイライラがつのる。以下はそのイライラを慰めてくれた鳥達。姿、声の確認は参加者の野鳥の会の面々。

エナガ、ホトトギス、ウグイス、カケス、イカル、ヒヨドリ、ホオジロ、イワツバメなど。ヤブサメもいたそうだ、馬に乗って弓を引く鳥かも知れないから気を付けろ、とはR氏。

歩けば楽しい車道

右に行けば聖山、左に下山路のT字路に出た。確かに高岳から2時間の行程だ。ここで聖山まで登っていたら予定時間が過ぎて行く。今回はそれはあきらめて下山しよう。

やはり今までと同じような林間のササ原を下る。ギョウジャノミズが小さな実を付けていた。

所々に咲くクモキリソウの花。

今日の主役になってしまった。

林道まで下りると湿原が待っていた。ノハナショウブやヒヨドリバナ、クサレダマが咲いている。

この林道の位置まで車が入れないことは無いが基本的には進入禁止、ただバイクが現れていささか失望。

湖畔の舗装路までの気の遠くなる林道をおしゃべりしながらの下山も楽しい。

「最後尾をゆっくりついてくる」と言っていたR氏も遅れることなく無事下山。聖山は意外にも懐の深さを見せてくれた。シモツケソウが咲き始め、マタタビも満開。

水も多く、じっくり歩けば珍しい花に逢える道だろう。林道下山の終点は聖山への出発点でもある。ダムの駐車場に近い。

ガードレールまで出て、皆が歓声をあげた。ミニ湿原だ。今まで車で通過するものだから気が付かなかった。

クサレダマ、カキラン、オオバギボウシ、ノリウツギ、オカトラノオなど何でもありの場所が身近にあったのだ。それから車を置いた場所までコバノトンボソウなども見る。

山歩きでも登山口の取りつきのあたりのほうが植生にバラエティがあり楽しめる。先日の男鹿山でもそうだったが、車はなるべく遠い所に置くほうが、いいことがあるぞ。

{編集後記}

小学生の頃だった、父親に連れられて見た映画の題名は「沈黙の世界」。洋画でも字幕を追いかける必要も無く、見ているだけで深海の素晴らしい世界に引き込まれた。当時の冒険好きの子供たちはこのフランスの海洋探検家クストーに育てられた。

先日87歳で更なる沈黙の世界へと旅立つ。