休日は山にいます 発行 QJY通信社 平成9年8月16日
全山お花畑のユートピア バスツアーで行く 伊吹山(1377m)
口直しの山へ
観察会のメンバーは山が好きで同時に花が好きという人が多いので、伊吹山には何度か登っている、という人もいる。先日ツアーで出かけた富士山も良かったのだが、なにしろガレ場登山だったので花の山歩き派の私にはちょっとストレスがたまったみたいだ。
丁度、満腹したけれどデザートが欲しいな、という感じ。
県内では道後山みたいに花いっぱいの散策コースのある山なら、「口直し」の山になる。
今回お盆の土曜日に出かけたツアーは観察会の会報発送作業を手伝いながらパンフレットを皆に見せると、結局7人が参加したいとの意向、2人は個人旅行で行くから現地で会おうと言うことになった。今年2回目という人までいて、人気のある山であることが分かる。
前日夜10時に広島駅集合。その日は普通に仕事を済ませ夜行バスに乗り込む。バスツアーも知ってる仲間と一緒だと集合時から楽しい。どの人も子供はほったらかしで遊びまわる不良中年といったところ。
バスも2台に増便され、添乗員は偶然先日の富士山の時と同じ人、昨日まで荒れ気味の天気も夜空には星が出て、あとは良く寝られるかどうかが問題。
ゴンドラで三合目へ
お盆の最中だったが、順調に高速道は流れていた。ぐっすり眠れた人とそうでない人、でも今日一日の山歩きが終わりあとは寝ていれば広島に連れて帰ってもらえる、バスツアーは気が楽。伊吹山は走行中にその姿を見せた、目のいい人ならお花畑も確認出来ると言う。関ヶ原のICを出ると伊吹山の登山口のゴンドラへ向かう。
お盆のさ中とあって途中目に入る墓地の様子はその土地独特の飾り付けが目立つ。ここは紅白の提灯が下げてあるのが印象的。
ケカチの湧(ゆ)という湧き水のそばをとおりゴンドラ乗車口まで歩くとハグロソウが咲いていた。伊吹山最初の花だ。
植林の無い山の唯一の杉林の林床。
ゴンドラの営業開始時刻まで少々待たされることになった。周囲を探ると黄色のマメ科の花イタチササゲが咲いている。そうしていると、三合目で落ち合うはずのご夫婦から携帯電話が鳴って、都合が悪くなって広島に帰ったとのこと。きっと三合目からの電話だと思った一同はずっこけた。
最高の天気なのにお気の毒。
三合目のお花畑
6人乗りのゴンドラは始業点検のテスト走行を済ませると、9時前やっと我々を乗せてくれた。
眼下に住友大阪セメントの日本で3番目に長いと言われるベルトコンベアが見える。この山は石灰岩の採れる山である。
ゴンドラを下りると伊吹高原ホテル、その前に広がるお花畑だけでも特筆もの。
キンミズヒキ、キバナノカワラマツバ、ハクサンフウロ、ツリガネニンジン、ワレモコウ、ツルボ、シュロソウなどが保護のためのロープ柵の中。登山道は予想通り石灰岩の混じる道。
一同、山頂のお花畑の素晴らしさを前知識として得ているので、山道は早く登ろう、と申し合わせる。
しかし、それは我々には無理な相談。誰もが立ち止まり遅れていく。うちのグループのみツアーから遅れ、先が思いやられる。
振り向けば琵琶湖
うす曇りの空が青空に変わり、下界がクリアに見え始めた。琵琶湖と竹生島、向こうに比叡山。先程の三合目の広場がだんだん小さくなる。まだまだ上は遠いぞ。
タカトウダイ、ヒヨクソウ、ダイコンソウやクルマバナも元気がいい。五合目までで十分楽しめる。アカソが大歓迎で咲いている。
灌木で道沿いに見えるのはマユミとコクサギ、ウツギ。もちろん実を付けている。コクサギの葉の匂いは慣れるとそう悪いものでもない。
1100メートルの標識まで来るとクサボタンが満開だ。ミツバベンケイソウやキリンソウに混じってミツバフウロの可愛い花が咲いていた。そしてここの呼び物イブキジャコウソウも少々残り、八合目の小屋あたりではルリトラノオ、クガイソウ、メタカラコウが出てきた。
あとは花の名前を並べるだけでつうしんが終わりそうだが、他の人たちと遅れても富士山の時から顔見知りの添乗員は下山の時刻と集合場所を守ってくれればいいです、と言ってくれている。
山頂遊歩道
快晴の空のもと、山頂は大勢の人たちで埋まり、少々高いが缶ビールで喉を潤したら遊歩道を回り始める。
登山道で見た花の総集編とも言うべき山頂の遊歩道はサラシナショウマやトリカブト、コオニユリ、テンニンソウ、アキノキリンソウ、シシウドやハナウドを交え、ウーンこれは噂に違わぬ超広大お花畑だ。
植物名などは先ほどの三合目のホテルや山頂の売店で本を売っているので、参考にしたほうが良い。
時間の遅れに、急ぎ足の我々だが、そう何度も来れないから、出来れば全ルートを歩きたいものだ。
これも一人だと添乗員にも迷惑がかかるが7人いたから出来る「わがまま」を通してもらい、駐車場のバスへのルートも別ルートをとる。
結局、迷惑をかけることなく間に合う。
足もくたびれたがバスにさえ乗り込めばあとは食事場所や観光地へ連れていってくれるからツアーも悪くない。
イヌワシのおまけまで
下山はゴンドラではなく山頂駐車場に待つバスでドライブウェイを走る。
ちょっと走ると望遠レンズのカメラの列が並んでいた。今まで忘れていたが会社の同僚が言っていた伊吹山のイヌワシのつがいを撮っている写真家の群れのようだ。
上空に高く一羽が舞う。
めったに見られないイヌワシの飛行だ。もっともバスの人達にこの幸運が分かっている人がただ一人いただけだったが。
そして反対車線の渋滞にはあきれてしまう。駐車場が空かない限り前に進む余地は無いのだが、これが何キロも続く。
昼食は関ヶ原に下りて、という予定。
毛利元就ブームよりもっとスケールの大きい、こちらは信長、秀吉、家康の戦国絵巻の合戦の舞台。ここで昼食をとって、あとは車内で寝るだけだ。
「来て良かったね。」の感想を交わしながら真昼のビールは最高にうまかった。
高速道路は大阪を過ぎるまでは渋滞の真っ只中。予定を約1時間遅れてしまう。しかしもう帰るだけなので問題無い。むしろ正面に見えた落日の美しさにほっとする。
吹田を過ぎるとあとはUターンのラッシュが反対に替わり、先程までのイライラがむしろ快感となって心地よい。悪い性格。
自分で運転することを思えば何と楽なことか。バスツアーも捨てたもんじゃないな。
サービスエリアにはビールは売っていないことに今更がっかりしてしまったが。