QJYつうしん 73号
休日は山にいます 発行 QJY通信社 平成9年8月31日
花の名山 イヨフウロの咲く
島根県大田市 三瓶山(1126m)
田中澄江著 花の百名山
NHKのTV放送で三瓶山は西中国地方唯一の「花の百名山」として放映された。そのシーンは三瓶自然館の佐藤仁志氏(現在は県庁に戻られた)の案内でイヨフウロの咲き乱れる三瓶の山道が紹介されたのを覚えている。
出雲市に住んでいた頃は車で一時間のこの山に数え切れないほどやって来た。
その頃はどんな山にも三瓶山にあるような花があるものと信じていた。オキナグサは草原に普通にあり、キイチゴやクルミの実を採っては食べたものだ。
今回は徹底的に花の名前を挙げてこの名山を紹介しよう。
前日まで山陰で仕事があり、日曜日の今日、三瓶経由で帰ることとした。
@西の原
大田市からのルートをとると西の原と北の原の別れに出合う。ここではツルボの優しい姿にいつも出合う。今は少し終りの時期。ツリガネニンジンやサワヒヨドリ、ヤマハギが咲き始めている。カワラナデシコ、オトギリソウ、ゲンノショウコ、オミナエシの咲き乱れる高原、三瓶の一番いい時期と言われる。
牧草地に座り込んでコンビニのサンドイッチを食べよう。辺りは帰化植物が多い、オオマツヨイグサ、アカツメクサ、セイヨウミヤコグサ、ヘラオオバコ。国産種のコマツナギやカナムグラ、アカネ、イヌホオズキに混じってヒナタイノコズチなどが実を付けたクマノミズキの幹に寄り添う。
いつもの場所のいつもの風景。
西の原の馬が客待ちしている。左に三瓶の山並みを見るが山頂はガスに隠れて見えない。暑いさなか今日に限って曇っている方がいいかもしれない。
A東の原
リフトは片道430円、座って見下ろす高原の花達も目に優しい。展望植物園だ。
シラヤマギク、ママコナ、アキノタムラソウ、イタドリが咲く。カワラナデシコは適当な間隔でピンクのドレスを風に揺らし、うす紫のマツムシソウが秋の到来を伝える。
リフトの終点に着いて、ホツツジが咲いているのに気づいた。ヤマハッカは濃い紫で秋を知らせてくれる。
母三瓶のTVアンテナに向かう山道はお花畑のプロローグ、キンミズヒキの黄色い穂とコナスビの愛らしさにメモを取っていると初秋の代表花、イヨフウロが見え始めた。大型で花びらの赤い脈筋が情熱的で燃えるようだ。
ヤマジノホトトギスの隣にフシグロの地味な花。優しい黄色のアキカラマツ、春から咲いているコウゾリナ、絶え間無く現れるホツツジのスマートな花にジガバチが飛び交う。タニウツギやミヤマガマズミの実がたくさんある。サワフタギやマユミはまだ色づいてはいない。
キュウシュウコゴメグサやマツムシソウに混じって地味なイヌヨモギがつぼみをつけて立っていた。一旦谷に下りユートピアと呼ばれる場所まで一気に進もう。
高山植物のホソバノヤマハハコが満開だ、水気の無い岩場でしっかりと咲く。春ならイワハタザオやダイセンクワガタを見る場所だ。
ヤマラッキョウはつぼみを付け、ササユリは実を付ける。
Bユートピア〜犬戻し
振り返ると「室の内」のにごり池。イヨフウロはこれでもかと咲き乱れる。フシグロセンノウもちらほら。ヤマボウシの青い実が熟す頃にも来なくては。
ツルニンジンがコマユミに絡まっている。
先程まで多かったシラヤマギクに代わって花びらがやや密なヤマシロギク(イナカギク)が出て来た。崖っプチには相変わらずヤマハハコ。
ゴトウヅル(ツルアジサイ)が樹木に絡む。ブナがあるぞ。キクバヤマボクチが青い花を地味に咲かせる。ドライフラワーみたいだ。
ネズミノブラジャーの実をつけたヌスビトハギと葉まで(浜で)きれいとダジャレで名がついたシオガマギクが交互に出て楽しい植生。
C山頂のお花畑
前回の伊吹山のミニ版、山頂のお花畑はロープが作られていた。昨年は無かったかな。
サラシナショウマ、シシウド、もちろん先程までの総集編、イヨフウロ、カワラナデシコ、キンミズヒキ、ヤマハッカ、コオニユリ、シオガマギク、ホソバノヤマハハコがススキの原に咲く。
ここでカメラを構えてしゃがみこんでいた出雲に住んでいた頃の知人、高橋さん夫婦とばったり出合う。昔は良く山の話をした仲だ。良く整備された山頂はもちろん一等三角点、快晴だと日本海がすぐ下に見える。
ガスが晴れ、陽射しはきつい。
このルートの登山は日陰があまり無い。ただしこれから下る北の原へのルートは完全な森の中、伊吹山には無い魅力だ。
D北の原への下山路
これから500メートル下ると三瓶自然館まで1時間くらいで着く。森林浴の山歩きだから、なるべく帽子を脱いで歩こうか。
クサアジサイとヤマアジサイ、コアジサイはもう終っているが特に多い山だ。登りは草原の草花、下りは樹木の花や実。
サワフタギやカマツカは実になっているが花期には相当咲いたみたい。
香りの良いカニコウモリが出て来た、よく似た花のモミジガサ。いずれもブナ林の下部を飾る草本。木本ではクロモジ、ホツツジ、ミヤマガマズミ、オオカメノキ、コアジサイ、アズキナシが必ずある。
キバナアキギリがもう咲き始めた。こうして登りでまったく見られなかった花が下りで咲く。
ツルリンドウ、ツルニンジン、アキチョウジ、ヤマジノホトトギスとハナイカダの葉の上の黒い実。サラシナショウマはここでは終りオオバショウマがこれから。
巨大な葉(20×30センチ)のカモメヅルの仲間らしき5弁のチョコレート色の小さな花、ガガイモ科のツルガシワか?
E北の原から東の原へ
三瓶自然館が近づくと夏休み最後の日曜日とあって子供たちの声が聞こえる。
自然館では1年ぶりに顔を合わせる園山さんが元気いっぱい子供たちに説明している。
国立三瓶青年の家の前のサイクリングロードをもう1時間かけて車を置いた東の原へ向かう。食べられる植物が豊富な場所でもある。クリ、サルナシ、ムカゴ、アケビ、ヤマボウシ、オニグルミと数え切れないほど。
フジカンゾウの咲く道を歩きはじめるといきなりキツリフネとカワミドリの群落に出くわす。出雲に住んでいた頃とちっとも変っていない。自転車道は整備されたが自然溢れる小道だ。
クサギやボタンヅルが咲き、ゴマギとノグルミの道も健在。クマシデのホップ(実)が垂れ下がっていた。ミズヒキの地味な花でやっと気が休まるくらい豪華に秋の花を見せてくれた三瓶の自然、エゴノキの実を集めてサポニン石鹸で手を洗いサルナシを口に入れてみたらまだまだ青かった。
もうすぐこの道にクロバナヒキオコシが咲く。
休み無く歩いた自転車道が終ると丁度車を置いた場所に戻った。
徹底して花の名前を並べてみました。