QJYつうしん74号



     休日は山にいます     発行 QJY通信社 平成9年9月28日

蔓珠沙華とタデ科の花の季節     豊田郡本郷町 女王滝・瀑雪の滝

落ち鮎の簗(やな)

福富町の鷹ノ巣山に端を発す沼田川(ぬたがわ)白竜湖の椋梨川、竹林寺の入野川を集めて三原市に下る。意外と濁っているのは前日の雨のせいか、それとも町を通って流れる川の宿命か。

しかし、川に沿って県道を走ると落ち鮎の梁があちこちに仕掛けてあり、普段はきれいな川なんだと思ってしまう。いや思いたい。

梁のひとつを覗いて見ることとした。増水しているせいか水のほとんどが石組みを溢れて、せっかくの仕掛けには魚が来ないようでまったく姿が見えない。

5月にはキシツツジが咲くという川辺にはコマツナギが終りヤナギ類に混じってヒガンバナが咲く。

カナムグラの群落のそばで異様なものが干してあった。イノシシの皮だ。この近所で捕獲されたのだろうか。

ここで周囲の山容を確認すると、とてつもなく大きな岩が山々の間にあり、登山欲をそそるものの山道は準備されていないようだ。

下流には高山城、新高山城など小早川隆景の居城が山城として聳え立っている、もちろん戦国の世の話。その頃でも沼田川には鮎が泳いでいたのだろう。

瀑雪の滝

ばくせつのたきと読む。この近辺を船木峡と言い、流れの中の岩が点々としてJR山陽本線の車窓からの眺めも抜群だ。

車を置くスペースも十分用意してありトイレや食事の場所もある。

目指す滝はここから東へ150メートル。林間の渓流に沿って歩けばすぐに出合える。

柿が色づき足元にはアキノタムラソウが咲く。  ヤブマオの地味な花も。廃屋のそばを通るの                                       は少々寂しいが、少し歩けば場違いな鯉のぼりが5〜6匹泳がせてあって水しぶきのすごさが轟音とともに降りかかってきた。

キセキレイが人に驚き飛び立つ。

頭上にはゴンズイの赤い豆のような実。

滝はほぼ垂直に落ちる珍しい構造。高さ30メートル、巾20メートル以上の一枚岩を激しく落ちる。

山道はそうとう荒れていて手作りの木橋はあるものの、訪れる人の少なさがうかがえるようだ。

見上げる山は岩山でアカマツが頂上の岩にへばりつく。ここより更に45分歩けば「棲真寺」と看板に書かれているが相当登ることとなりそうだ。地図では北にある。

季節の花マンジュシャゲ

田んぼは丁度稲刈りの季節、その畦には季節の花「ヒガンバナ」が今を盛りに咲いていた。   昔はマンジュシャゲと呼んでいたと子供心に覚えている。法華経では天上赤花と言い、およそ日本の花らしからぬエキゾチックな姿からちょっと毛嫌いされた経緯を持つ。

実際毒性もあり、アルカロイド系の毒素を持つためそれに関わる別名も多い。

ミミクサリ、メクサリバナ、ソウシキバナなどはいい方でオヤコロシ、シビトバナ、ジゴクバナ、となると救いようが無い。根がいかにも食べられそうなので、呼び名で注意したのであろう。

しかしこの毒素も水によくさらしてデンプンのみ利用すれば飢饉の時の緊急食料として利用された。父の田舎の四国ではそうであったそうな。救荒植物と呼ばれる。

また3倍体(染色体)品種のため、これの実になったものは見ることがほとんど無いが、広島では大田川の河川敷で毎年実をつけているのを見ているので再確認しなければ。

田んぼのヒガンバナを撮っていると近所の方がもっとたくさん咲いているよ、と花の多い場所をわざわざ教えに出てきてくれた。

さらに上流の橋を渡ると確かに豪華に群生している。田んぼの実った稲の黄金色とヒガンバナの鮮やかな朱色に圧倒される。

女王滝

NHKの大河ドラマ「毛利元就」のタイトルバックに映し出される滝としてこのところ名をあげたのがこの女王滝。

これまで聞いたことがない滝だが、さすがに地元の人の話では、こちらでは有名で昔から知っていたそうである。駐車場に車を置き、沼田川にかかる青い橋を渡り少し上流に進む。

快晴の陽に照らされたヒガンバナの咲く畦道を、「それでも汗をかくことは無くなったな。」と思いながら歩く。涼しい風が心地よい。

イボクサ、タカサブロウ、イヌコウジュなどがエノコログサやアキノノゲシに混じって咲く。普段から目を向けてやればその可愛らしさに驚くぞ。アメリカセンダングサさえ美しい。

さらに嬉しかったのがタデ科の仲間たち。

ミゾソバの花のきれいなこと。並んで咲くアキノウナギツカミは地味だ。アカマンマのイヌタデ、オオイヌタデ、ボントクタデが一斉に咲いたようだ。ハナタデもいいぞ。

タデ食う虫も好き好きか、キチョウが舞う。

山道に入りしばらく歩くと「女王滝800m」の案内があった。そう言えば入り口に杖が何本か置いてあった。革靴で来た人にはちょっと難しい距離。


 

夏なら木陰が続くなかなか味のある山道だ。ツルアリドオシやヤブムラサキ、コバノミツバツツジの木がある。「ツツジを折らないで」の注意書きを見る。

注意書きと言えば「ヘビに注意」の場所にはちゃんと一匹待っていてくれたから、注意は守った方が良さそうだ。渓流の音が聞こえ始め、足元がだんだん悪くなる。

あと400m地点では革靴どころか登山靴でも滑りやすくなってきた。濡れた岩の上を歩かなければならない。その上コケが生えている。

山道も急峻で休みたくなるがベンチひとつ設置していない。やはりこのルートは山歩きの好きな人専用だろう、一般の観光客は空港の中央森林公園第6駐車場からの道がオススメだ。出合った人の話では10分で滝まで出るそうだ。

30分かけてやっと着いた女王滝は大河ドラマのタイトルバックではその上の滝の絵と合成されているのだろう、もっと高い落差を想像していたから、それ程でもないな、と感じる。ただ左側の巨大な岸壁のスケールは相当なもの。

鮎の梁を見た時に周囲の山々の岩の多さは驚いたがこうして谷に入ってみると、あらためてその大きさに圧倒される。

滝の前には森林公園からの人達が次々とやってくる。子供たちや年配の人まで。

周囲はヤブツバキが多く、切り立った大岩の景観、「紅葉の時期はいいですよ。」と地元の人が言う。カエデ類の多さで時期を変えるともっと素晴らしい場所になることが分かる。

コシアブラ、タカノツメ、ツルアジサイなども見る。

昨年の夏は随分滝めぐりをしたものだが、今年はこんなに涼しくなってから。やはりちょっと淋しい感じもするが、ついでにもっと遅らせて隠れた紅葉名所を見つけるのも一興だろう。


{編集後記}

前号、三瓶山の特集で、三瓶自然館の星野由美子さんに見てもらったところ、カニコウモリはオオカニコウモリが正解、母三瓶は女三瓶が正しいとのご指摘を受けました。なお山頂にはシオガマギクの他にトモエシオガマらしき花が2〜3株あるとのこと、来年は楽しみだね。

なお、ヤマシロギクは花びらが密、という表現は舌状花と言う専門用語を避けた結果です。なお、その2週間後はクロバナヒキオコシが満開でした。