QJYつうしん 75号
休日は山にいます 発行 QJY通信社 平成9年10月4日
秋の花園へおいでよ
鳥取県日南町 多里大山(1224m)
人が行かない山が好き
道後山と言えば、山歩きの好きな人なら毎年一度は登るハイキング定番の山。頂上から見渡す中国山地の山容と岩樋山をめぐるお花畑の魅力に一度や二度、感激したことがあるはず。
春のダイセンキスミレ、山開き(6月第三日曜日)の頃のタニウツギ、9月のマツムシソウの頃。
どの時期もそれぞれ、訪れるハイカーを飽きさせない花達がこの山で待っていてくれる。
そして頂上からさらに北方を眺めるとあずま屋が一軒、奥隣の山に建てられているのに気づかれた方も多いと思う。
多里大山(たりだいせん)だ。ここまで予定に入れる人は少なく、ここから更に往復していては帰宅が遅くなるので諦めるのが普通だろう。
現に道後山登山者の百人に一人も、多里大山まで足を延ばした人はいないと思う。
秋の味覚が足をひっぱり
庄原を過ぎ、田園風景の広がるこの辺りまでやってくると必ず青空市に立ち寄ることとしている。理由は「安いから」。
今日は妻が同行していないので、指定買物メニューの「インゲン、ホウレンソウ、トマト」を探すがインゲンのみ手に入った。
「朝六時半からお客さんが待っているもので。」と言われ、ほとんど売り切れ状態の棚を見てがっかり。そこで間食用の柏餅を買った、山を歩きながら食べるのは幸せなんだなあ。
一応自称「晴れ男」として山歩きをしてきたが、空はどんより曇り、ガスがかかって遠くが見えない。
いつも寄るアイスクリーム店も素通りして先を急ぐこととする。
車を置くのはもちろん月見が丘。
遠くが見えないから道路端の花が目に付いた。車が入れない場所にウメバチソウが群落を作っているのだ。
季節を間違えた、いや待っていてくれたネジバナも一輪。霧の中のお花畑だ。
途中で見つけたシバグリを拾い、白のヤマシロギクと黄色のアキノキリンソウに魅せられて、なかなか先へ進めない。アキチョウジも残り、ツリバナの赤い実が写真の題材になる。
雨も無く、うっすらと霧の中の赤いコマユミや青いサワフタギが安野光雅氏のイラストの世界となってシャッターを押す。
このままではどんどん時間が経つぞ、と思いながらも栗拾いをやめようとしないのはシバグリのおいしさを知っているから。
おおきなヤマボウシの実も本当においしく、沢にそってゴマナが明るく咲く。
サルナシはほどよく実りこれまた最高。
イチイの木まで赤く熟した実を食べさせてくれる。中の青い種は有毒だから気を付けること。
紅葉が素晴らしいので何だろうと触ってみるとうす茶色の実が。「ヌルデかな、食べてみるかな。」と、思っていたら「ゲッ、ツタウルシ。」、一番かぶれやすい木だ。
リョウブは実がなり、カラマツは色を変えようとしている。ヤマシロギクは咲き誇り、黒い実はクロモジとタンナサワフタギ。柏餅もうまい!
岩樋山から大池
すでに紅葉が始まっていてウリハダカエデは一番に色を変える。
今日は先を急ぐので岩樋山は迂回しようかと思ったが、なんと8月8日から土砂崩れで迂回路が通行止め。
本当は大好きな岩樋山なのでもともと登る積もりだが、下山時には迂回路を使いたかったのに。
眺望が開けると昨年のQJYつうしん第6号のとおり岩樋山はリンドウロードとなっている。風があるので昼食場所を選ぶ。ちょっと立ち止まれば寒く感じるが動けば暑い。
シラタマノキ(通称シロモノ)がたくさん白い実を付けているぞ。昨年はこれ程見なかったように思う。
大池方面は満開のヤマラッキョウやヤマシロギク、残花のイヨフウロやアキノキリンソウで嬉しさ百倍。つうしん6号で見つけたサルナシは少なかったがちゃんと大きな実を付けていた。
天気が悪いとこれほど人が少ないのか、誰一人大池ルートでは出合わない。もう2時をまわり普通は下山の頃。ここで、うす日がさして明るくなってきた。霧が晴れてきたぞ。
足元にはセンブリやツルリンドウ、ウメバチソウが咲き、残花のカワラナデシコ、ホソバノヤマハハコ、タムラソウが頑張る。それにしてもサワフタギの実はきれい。イヨフウロの紅葉も見逃せない。
多里大山へ
道後山への直登ルートをやり過ごし、一路多里大山に向かおう。看板は持丸・小奴可方面。
急に山道がブッシュとなるのは仕方の無いこと。イヌツゲの黒い実や終ったホツツジを横目に歩いているとクロバナヒキオコシの実らしいものが目に付く。ミヤマタニソバが咲きアキノキリンソウで時間が取られてしまう。
ふと足元を見ると、「ああ、やられた。」キンミズヒキのひっつきむしが毛糸のソックスにびっしり。
おやこの辺にもシロモノの実が。
イチヤクソウの葉、イワカガミの葉がある。
あずま屋まで来ると遠くの景色もばっちり見える。
実は霧の中では多里大山には行かない方が良いと思っていた。ヤブコギは必須で迷う可能性があるからだ。霧が晴れた今、急いで向かうこととする。
行程0.5キロと書かれているが、この0.5キロがクセモノ。早く感じることもあれば、すごく遠く感じることもある「いいかげんな距離」なのだ。山の標識はあまり信用してはいけない。
道は陽があたってリンドウも花を開き、カワラナデシコ、イヨフウロ、アキノキリンソウ、マツムシソウ、ウメバチソウ、ゴマナ、ヤマシロギク、ホソバノヤマハハコが適当な間隔で現れる。遅れたホツツジもあり、実になったコウリンカやシラヤマギク、がススキの原にある。
途中胸まであるヤブコギをクリアーすればあとはササ原の歩きやすい牧場の山。
意外とあっさり到着する頂上は、おじぞうさんが岩の中にあって山の安全を守って下さる。
振り返るとアンテナのある岩樋山、誰もいない道後山。空は青空と早い雲。
頂上は足の踏み場に困るほどのリンドウの花。恐らく登山者の少なさが山道を消してしまったのだろう。広島のりんどう会の札があったのは、タイミングの良いことだ。
見下ろす谷の色づきはじめた木々はウリハダカエデやヤマボウシ、コハウチワカエデなどか。
今まで通った道のポイントに赤いテープが巻いてあったのを注意して見ておけば安心だ。迷うのは下山が多い。早足になるのと、不注意による。パーティーでは先導者がヤブコギに苦労し注意をそらして道を誤るケースもあり、後続者の冷静な判断やおせっかいな一言も重要だ。
また、先導者は自信が無くなったらすぐに態度で示すこと、「エイヤッ」では皆が迷惑する。
さて、時間を食って遅くなったがここまで来て良かったと思えたのはやはり今年最後の花達の歓迎ぶりだ。さあ、引き上げよう。
秋の陽はつるべ落とし。「ここでも時間を食ってしまった。」と、反省しながらクリ林を過ぎる。と、雨が降ってきた。あやうく駆け込んだ駐車場には他に一台も車が無かった。