QJYつうしん 76号

     休日は山にいます     発行 QJY通信社 平成9年10月15日

紅葉の山歩き その1 愛媛県面河村 面河渓と瓶ガ森(1897m)

 

フェリーの旅と面河渓へのドライブ

呉松山フェリーは阿賀と堀江を結ぶ1時間50分ののんびり航路、いつ乗っても春の海を行くようなのどかな船旅だ。

朝8:30発の「あが丸」はトラックをいれてたった5台の車。好天の瀬戸内海を松山へと向かう。前日はヒョウが降って愛媛県内にいよかん2000トンの被害をもたらしたとTVのニュースで報道していた。

松山市内で交通が混雑するが、ほぼ予定通りの行程で郊外の焼き物の産地「砥部」を通過する。ここを過ぎるとR33は驚くほど高地の土佐街道を登り目的地面河(おもご)へと向かう。

街道沿いにはマイカー客目当ての売店が並ぶ。早生の温州みかんや農産物、海産物がありひとまず宇和島産のじゃこ天を買う。

10枚入って550円、魚の味のする天ぷらを久しぶりに食べた。

この土佐街道は土佐の人にとっては伊予街道となり、中国地方の陰陽を結ぶR54に相当する。

標高700メートルの峠越えだが周囲はまだまだ紅葉しているとは言えない。

R33を御三戸(みみど)左折し川がとても美しい事に気づく。おや、それもその筈、ここの地名は美川村。土佐街道(久万街道)は実際はこの延長R494を経由する。「焼きもろこし」と看板の売店がならぶ面河村を更に進めば道路の両側に植え込みのイロハモミジが紅葉して美しい。

ほどなく国民宿舎のある面河渓と石鎚スカイラインの入り口に着く。石鎚山登山口のある土小屋の国民宿舎に予約を入れた時、「17時を過ぎると通れなくなるから気を付けて下さい。」と言われたのを思い出した。

国民宿舎の前の五色河原で多くの人が昼食をとっている。


松山市内で仕入れたほっかほか弁当を我々もここでいただく事としよう。

きれいな水の前でやっと落ち着いた気分。

付近は大木の並ぶ遊歩道もある。

ウリハダカエデを見る限りあまり紅葉は進んでいないようだ。シロモジが多いのに驚く。

石鎚スカイライン

大げさな無人ゲートのあるスカイラインに入った。昔は確か有料だったと思う。時刻は1時半、予定は瓶ガ森登山だから先を急ぐ。

ドライブウェーは上に上がるに連れて秋の山の色が濃くなっていく。車を停められる場所では決まって三脚を立て、紅葉を撮影しているカメラマンがいる。

今日が平日であることを忘れてしまうくらい人が多いのだ。

 

そして開けた場所で非常に高い山が現れた。最初はこれが石鎚だと思ったが、土小屋の先の鶴の子の頭と呼ばれる前衛峰である事に気づくのは翌日地図を確認した時のことだ。

青空と澄んだ空気が嬉しい。遠方まで見通しがきく秋の一日、高い場所ではまさに紅葉の秋だ。面河渓との高度差に今更ながら驚く。

石鎚スカイラインは土小屋まで来れば大駐車場があり、平日の今日もバスやマイカーがたくさん。ロータリーに石碑が立ててあってここの標高を示している。

「1492m伊予の国」なるほど、覚えやすい。

瓶ガ森へ

土小屋を抜けてさらにスカイラインの延長が続く。道は細くなるが支障は無い。

瓶ガ森への歩行ルートもあるが片道4時間くらいはかかりそうで、今日のところは紅葉ドライブを続けよう。

先程から前方に聳える高い山と青空、白い雲。久しぶりの山歩きにわくわくしてしまう。1710mの子持権現山のひときわ目立つ姿が印象的だ。鎖が用意してあって登る人もあるようだ。

広い駐車場に車を置いて靴を履き替えていると、同様に登山準備をしているご夫婦がおられた。

 

 

 

東京から八十八箇所のお遍路で立ち寄ったと言う田中さんご夫婦は、山が好きでここに登りたくて来られたと言う。

三鷹市で「植物を知る会」を主宰され、都の緑の推進委員もされているそうで、植物を興味深そうに眺めておられる。山道は残花のリンドウとアザミ類、私達の歩く背には傾きかけた陽光が当たり、ササ原の山道を照らす。

ここのササはイブキザサで昭和39〜41年にかけて一斉に開花、枯れ死したと言われる。

ベニドウダンらしい真紅の紅葉、ダイセンミツバらしい濃い秋の色、文献ではアカイシミツバあるいはツルギミツバなどミツバ系の変種の名があげてある。もうそう言う話になると図鑑に載っていないし、引っこ抜いて持帰っても分からないので、あまり深入りはよそう。

足元のアキノキリンソウ(背丈が異常に低いのでミヤマアキノキリンソウと思われる)は枯れてはいるが、ふと後ろを振り返ると低いササ原が銀色に反射して美しい。

緑のトウヒのような樹木は何だろう、田中さんも初めて見る木と言われる。

あとで分かったのだがこれがシラベてみるとシラベであった。シラビソの仲間でシコクシラベと言う。マツでは庭木に喜ばれるゴヨウマツが一本だけ立っていた。

30分、坂を上り切ると男山の頂上だ。

祠がふたつあって酒が奉納してある。避雷針が設置してありここの高さが尋常でないことをあらためて知る。

山道はさらに奥の女山へと続く。え、女のほうが高いの?

イブキザサのハイキング道は気持ち良い。左に氷見二千石原の雄大な草原を見て歩く。瓶ガ森ヒュッテ、瓶ガ森白石小屋の二つの建物。

15分で1896.5mの二等三角点の頂上だ。

東側にガスが濃くかかって、先日富士山で体験した自分の影に後光が差す、ブロッケン現象に出合う。

イヨフウロの草モミジ、とアキノキリンソウの枯れ草が季節の終わりを示していた。

夜は寒いぞ

土小屋の国民宿舎に着くと夕食の用意が3組あった。何と隣室は先程の田中さんご夫婦、それにしても夜の寒いこと、部屋には炬燵が入れてあり、それが無いと寒くてかなわない。おや、部屋に空調が無いぞ。11月末には閉鎖してしまうからだ。暖房を使う必要は無い。

田中さんご夫婦は明朝6時にここを発って石鎚に登られると言う。夕食時に明日の弁当を宿で用意してくれていた。

私達は7時の朝食を済ませたあと昼食用の弁当を用意してもらい8時に出発する。


{編集後記} 
四国へのフェリーは柳井、広島、呉、竹原などあるが、近いほど高い。遠いと高速を使うから車の料金は片道で1万円かかる。魅力のある山の多い四国だが、これだけ費用の追加があってはそう頻繁に出かけられない。

  あ、そうか四国はやはり海外なんだ。