QJYつうしん 77号
休日は山にいます 発行 QJY通信社
紅葉の山歩き その2 愛媛県面河村 石鎚山(1982m)
西日本最高峰へ
そもそも石鎚山へ登ろうと思ったのは、昨年の10月27日(QJY27号)で恐羅漢に登り、澄んだ空気に石鎚の鋭峰が見えたから。
それは既に雪をかぶり、この日を少しでも遅れると人を寄せ付けないぞ、と言うがごとく山の厳しさを表わしていた。
一年前に決めた登山計画をこうして実行出来る喜び、平和な一年だったんだなあ。
予定通り7時の食事で割と豪華な弁当を受け取り、8時に宿を出ると、快晴の空と澄み切った冷たい空気で気持が引き締まる。
現在1492mの標高だから、今日は天狗岳頂上までおよそ500m上がらなければならない。
この1982mという数字について、1982年当時松山市に住んでいた同僚は標高と数字が同じの年に大キャンペーンが行われ、ドライブで来たことがある、と面白い話をしてくれた。15年前の話、その時生まれた子が15歳だそうだ。
山道にそのことを書いたプレートが貼ってあった。
ノリウツギやリョウブの山道を、秋の名残の花探しでゆっくり歩いていると、たくさんのパーティーに抜かされてしまう。
ウリハダカエデは色付き、赤の濃いコミネカエデやオレンジ色のナンゴクミネカエデ(春には花がとてもかわいいぞ)が趣を添える。
赤く細い葉のオトギリソウはタカネオトギリだろう、花の終わった(ミヤマ)アキノキリンソウ、何故か実の無いナナカマド。
特有種のイシヅチミズキか、実が落ちている。オオカメノキはもうバルタン星人の花芽を準備している。
晴天の空を見上げると「ツツピー」×3回のシジュウカラが騒がしい。
枯れ草を踏みながら歩きやすい山道を進む。谷を見下ろす稜線では高さのそろった樹冠が錦秋の衣を着て、赤・黄・緑のパッチワーク。
圧倒される美しさだ。
そして遠く向こうには昨日の瓶ガ森がかなり高く聳え立つ。何より青空が嬉しい。
植生を見る
山道で今を盛りに咲いている花は皆無。
花期の終わった枯れ草からこの地の草花を想像するのはそれなりに楽しいこと。別の季節に来てみようと意欲が湧くから、今日はゆっくり登りたい。
先程からカエデの仲間が気になっていたが、ベンチのある場所には親切な案内が立ててあった。石鎚山のカエデの一覧だ。もっともウリハダカエデさえ抜けているから、これらがすべてでは無い。アサノハカエデ・コハウチワカエデ・ヒナウチワカエデ・チドリノキ・コミネカエデ・ナンゴクミネカエデ・イタヤカエデ
これらの案内があるということは、ここが紅葉の名所として名高いことの裏付けでもある。
全行程4.6キロは急げばそれなりにいい汗を、ゆっくり歩けばササ原に隠れた紫のリンドウが挨拶を、ひとりひとりに提供してくれる。
カエデ科の紅葉だけでなく、ツツジ科の紅葉もすごいぞ。ベニドウダンらしい真赤な葉は目に鮮やか。などと感心していると4〜5人のグループが次から次へとやってくる。ブームの中高年の山歩きだ。
人のこと言えないか。
平日でこれだけの人出、今日が日曜でなくて良かった。
ちなみに文献ではここのツツジは、ツルギミツバツツジ、アケボノツツジ、ヒカゲツツジ、ナツハゼ、ツクシシャクナゲ、カクミノスノキ、ベニドウダンなどがあがっている。
2.6キロ地点で見る石鎚はまだまだはるか上、左に南からの陽光を浴びた樹冠の錦衣は、今まで経験の無い風景かも知れない。
尾根筋でも北側には豊かな植生が見られる。特筆すべきはテンニンソウか。アザミ類と高さ
を競っていた背の高い枯れ草は見事な群落を作っている。そばにはトリカブト(ちょっと実が小さい様だ)やヤマハッカ。
樹木では山陽地方では見られないダケカンバにも驚く。薄くきれいな樹皮はサクラよりサクラらしい。ちょっと樹皮が赤すぎるが。
そして落ち葉はブナ、これは樹形からすると大万木山など豪雪地帯のブナのように太い幹がくねくねと曲がっている。実は全然見かけない。黄葉はそれなりに奇麗。
アキチョウジが一輪だけ残っていたり、アキノキリンソウが少しだけ花を見せてくれたりする。
少しでも水のある所ではメタカラコウが多い。オタカラコウならともかく、これは広島では見ることがほとんど無いから不思議だ。フウロソウは三瓶で草モミジとして大きな葉が紅葉するイヨフウロに違いないと思う。
一番難しかったのがシコクシラベとウラジロモミ。同じマツ科でモミ属。遠くから見た木の形が違うようだ。葉の裏はどちらも白い、先の形状がちょっと違う。今回答えを出さずに皆さんも木にかけてあるネームプレートで同定の仕方を考えてみて欲しい。
イシヅチザクラやイシヅチウスバアザミなどの特有種がガイドブックで紹介してある。やはり花の時期にゆっくりしたい場所だ。
胸突き八丁
左上方に山頂を見て、ロープウェイからの道と合流する二ノ鎖小屋に辿り着いた。石の鳥居があってここが修験の山であることを思い出す。
余り乗り気はしないが鎖を伝って登ることとした。夫婦とも10メートルは上がっただろうか、すると不覚にもベルトに付けていた双眼鏡が下に落ちてしまった。
それを拾いに下りたらもう上がる気力を失い、結局大半の人がそうするように、巻き道を歩く事とした。これだって手すりに鎖があり結構急だ。
ここで今朝6時に宿を発たれた田中さんご夫婦とすれ違う。
「最後がきついですね。」と言うと、「いえいえ、天狗岳は這って行かなければなりませんよ。」とにこやかに話される。アザミの類は同定できなかったことを話され、途中で拾ったシロモジの葉を渡した時の嬉しそうなお顔に、山の仲間としてこれでお別れするのはとても残念な気がした。
もっと三鷹での観察会や山のお話を伺いたかったのに。
さて当然、最後の三ノ鎖小屋でも巻き道を登る。今日、車を運転して帰らなければならないのだから、無理をしてくたびれてはいけない。腕の筋肉を疲れさせると眠くなりやすいのだ。
そしてやっとのことで左に山頂白石小屋の地点に来た。初めて面河方面を見る。この見下ろす紅葉も最高だ。
さて山頂・弥山の先にここの最高峰「天狗岳」がある。1982mはどうしても到達したかった。もし高所の苦手な人は、勇気を持ってあきらめること。雨天でもやめたほうがいい。
鋭い稜線伝いの道はどちらに揺れても救いようが無い。イワカガミの葉を見ながら心を落ち着け、迷った気持を奮い立たせた。
当然「岩にしがみついて、這いつくばって」山頂の祠の頂きを撫でることができた。
幸いガスが出てきて余り良く下が見えなかったので良かったのかも知れない。
昼食後、下山に2時間を費やす。帰りのフェリーでTVのニュースを見ていると、西条のだんじり祭りの模様を中継していた。新居浜の祭りも始まった、あの田中さんは帰りに寄るという話だったが。
フェリーから見る満月の夜の海はカモメが飛び不思議な世界だった。