QJYつうしん 82号休日は山にいます平成9年12月5日

発行 QJY通信社

海抜0メートルからの挑戦 植生豊かな 山口県上関町 皇座山 (527m)

借りを返すぞ

今年1月のこと、冬でも暖かい上関町の瀬戸内海に突き出した皇座山に登ろうとして失敗したことがある。

失敗と言っても単に道を間違えて、登山をあきらめただけのことなのだが、一年の締めくくりにその時の借りを返さなくてはおさまらない。

あまりここを紹介した本が無くて、しかも山道にちゃんとした案内が無いものだから、道を間違えるのも当然、ただ、その時は瀬戸内海の展望や残っていたセトノジギクの優しさでちっとも悔しくはなかった。

そう、QJYの本質は山頂に登ることでは無く、楽しい山歩きをすること。

でも、その時は雨にたたられたので悔しい思いは無かったが、今日は最高の小春日和。

で、その借りを返すこととした。

南国上関

柳井市から県道72号を南に上関町方面へ走る。左に周防大島や白砂の海水浴場を見て快晴の空の下、相の浦漁港まで来れば、そこはもう白いセトノジギクと黄色いツワブキが終わり掛けだけど懸命に歓迎してくれる田舎の舗道。

相の浦小学校が見えれば適当な空き地又は道路沿いに車を置かせてもらう。(行政上は柳井市です)

入り口は報恩寺の看板。

みかんやビワの畑の間を登っていく。背後の海の風景がどんどん広がって、気分まで大きくなること請け合い。

沿岸地独特の生け垣で、マサキの木が多く植えられる。キヅタは褐色の実を鈴なりに付け、イヌマキには赤青のひょうたん型の実がなる。

実と言っても甘く食べられる赤い方は花托で、小さい頃に神社で見つけては食べたのを思い 出す。え?あなたも?

キレハノブドウやヒヨドリジョウゴが絡みその下には年中見られるシロバナタンポポがしっかり咲いている。

暖かいところだ。

裏庭が立派な報恩寺の前を50メートル過ぎると右手足元に石の祠に入った地蔵様が奉ってある。その次の石垣を左に曲がる。

小さく皇座山登山口と書いてあるのだが、1月の失敗はこれを見落としてしまったこと。

直進してしまったのだ。

みかん畑に沿って石垣があり(*) 、そこから白いセトノジギクが丁度顔の位置に可愛らしく咲く。「どうぞ、匂って下さい。」と、言わんばかり。

リュウノウギクの兄弟分らしく良い香りがする。

ビワ畑に井戸が見えたら登山口だ。由宇町の医師中島篤巳氏の手になると思われる案内プレートに助けられて山道を進む。

また間違えたよー

登山口はウバユリの実がすっくと立ち、ヤブランやオドリコソウの葉が確認できる。

ひどく荒れた山道は楽しいと言えば楽しいが危険極まる。下ばかり見ながら歩くから道を誤るわけで、「花屋さん」の私としてはこの確率ばかりは直しようが無い。

シュンランの花芽があったり大きなクリの実、ムベ、アケビも多い。

コクランやシュスランなど葉だけで分かるランもある。

間違えそうな場所は左に右に小さな札で教えてくれていたが、またひとつ標識を見過ごしてしまった。もちろんこれは後で気づくことで、今は知らぬまま進んでいる。

もっとも、中国山地の山と違って、道を誤っても結局安心して頂上へ進めるのが、島や半島の山のいいところ。

山道に落ちている赤い実はゴンズイ。紫色はヤブムラサキ、センブリが一本まだ咲いていた。

こんな場所でフユノハナワラビに出合う。足元のノグルミの実のそばにまた赤い実。何だろう、と周囲を見渡すとモッコクだ。沢沿いの道になったりスギ林になったり、変化が多い。

この時期良く目に付くのは、蔓性の植物だ。

キカラスウリの丸い実、ボタンヅルの白髭。タンキリマメやヘクソカヅラ、サルトリイバラは普通にある。

鳥の声などうるさいくらい。木の実が多いのだろう。

map

思いっきり直登

スギ林の中に入るとちっとも面白くない山道だ。坂も急で雨の日は相当苦労しそう。

道を間違えているのだから、ひどい上り坂になっても文句を言う訳にいかないのだが、それにしてもひどい道になる。道が無ければそれなりに間違いに気づくのだが、切り株の状態からまんざら山道で無いわけでは無い。

ちゃんと長さ1メートルの縦に割れた竹が突き刺してあり山道を示している。赤青のペンキで色までつけて、スキーの滑降のポールみたい。

そして植林が終わると、急激なヤブコギ坂となる。このあたりで誤りに気づくのが普通。

ごろごろと小石が崩れて、坂は更に急になり掴もうとする樹木がポキンと折れる。間違いなくすべって転ぶ。切り株には気をつけなければ大怪我のもと。

それにしてもこの山はどこかの山と似ている。それはいったい何なのか?

答えはすぐに出る。巨大な岩とその様子からここが火山であったことが理解できるのだ。だとしたら釣鐘型の相当急な山かもしれない。

方向感覚も怪しくなって、ふらふらになり稜線まで辿り着く。ここからは少なくとも上へ上へと登らばければ頂上へは行けない。

火山岩がごろごろと点在し、樹木の間から空が見え始める。頂上は近いぞ。

一等三角点の頂上

山口県の一等三角点は16箇所。本点5、補点11、皇座山は上関町と柳井市にかかり、当然のことながら展望・見晴らしの良さを誇る。

そしてここに一等三角点があるのだ。

尾根に出て50メートルも歩かないうちにススキの穂とタカサゴユリらしき実の立つ山頂に立つことが出来た。

快晴の空の下、とてつもなく展望の良い素晴らしい景観の瀬戸内海。

正面には周防大島の嘉納山文珠山が指呼の間。その左手には琴石の連峰。手前に柳井の町並みと背中には上関。

この景観があるからこそヤブコギを耐えてきたのだ。

マユミのピンク色の実とシロダモの赤い実。

丁度良い大きさの火山岩の上に腰を下ろし、いただく昼食とお茶は最高。

道を間違えないでちゃんと登っても近い場所に出ることが分かったが、そこは車で上がれる興ざめな舗装路の終点だった。

ノグルミが多い。クリやそれに絡まるツルウメモドキ。歩いてこそ得られるこの爽快感。

憂き世のイライラを忘れられる山だった。


(*)石垣とみかん

みかん畑に石垣をめぐらすことが瀬戸内のおいしいみかんの隠しわざなのだそうだ。明るい太陽と海からの照り返し、そして石垣が保つ暖かさで三つの太陽を取り込む。

島のみかんは先人の知恵で日本一の座を守ってきた。