QJYつうしん92号 平成10年4月3日


春は都会の雑踏を抜けて   出雲市 立久恵峡〜王院山(554m)

立久恵峡へのドライブ

天気予報では一日快晴の春。しかし三次方面は相変わらず濃い霧がかかって何となく不安。

尾関山の桜は今が満開。ただ外気は冷たく先日までの温暖な日々が懐かしい。気温も最低0℃で琴引山、大万木山には昨日の雪が見えるほどだ。朝は霜注意報が出ていたぞ。

R54の晴雲トンネルを抜けると佐田町経由の県道は満開のミツマタとキブシがドライブする者を歓迎してくれる。

出雲に住んでいた頃の春一番の活動はここ立久恵峡からだった。岩の上に座ってぼんやりひなたぼっこをしているだけで幸せ。

今日も春の日溜まりに数え切れないほど花が咲く。図鑑にある植物がここには数え切れないほどあるのだ。

「不老橋」近くの駐車場にはコンロンソウが咲き始めていた。和名は白い花を崑崙の雪の山脈にたとえた。中国新聞に掲載した時のコメントには、「花の名前は雄大だ、子供の名前も大きくつけよう。」と書いたものだ。

赤い実と花を付けたアオキ。タチツボスミレが可愛く咲く。少し歩けばナガバノタチツボスミレだ。白いイカリソウと黄色のヤマブキは意外な春の足の速さを感じる。

神戸川(かんどがわ)の流れは昨日の雨を集めてやや多い。水の大好きな花はハマダイコン、山陰地方には多い花だ。

霊光寺のユキワリイチゲ

春まだ浅いこの時期には当然咲いているはずのユキワリイチゲだったが何故か見つからない。独特のミツバ風の葉が見つからないのだからどうしようもない。

いったい何があったのだろう。

場所は霊光寺の上がり口、何やら胸騒ぎを感じる。盗掘だろうか。

キジョランの大きな葉が樹木に絡み付き、ウバユリの去年の実が枯れて立つ。

ムラサキケマンは日陰でもたくさん花を付け、この時期には不釣り合いな濃い紫色で春を歌う。ムラサキケマンには悪いが、ヤマエンゴサクの上品な紫色とはどこか違うのだ。

更に歩くとマムシグサやシュンランの花もあり、山陰の春は決して遅くないことが分かる。

サワハコベ、カキドオシ、ツルカノコソウがあちこちで咲き始めていた。

森の中はミツマタやヤブツバキが彩りを添え、足元にはイチリンソウ、ミヤマカタバミも咲きそろう。昨年のノグルミの実が川面に揺れていた。

イブキジャコウソウやヒオウギの咲いていた秘密の場所はまだまだコタチツボスミレ以外咲く花は無いが、イワヒバの合間のツメレンゲも少し伸びて新シーズンが始まった感がある。

山陰の耶馬溪

神戸川に沿って歩きながら、そそり立つ大岩群を見ていると、大町桂月の名付けた「山陰の耶馬溪」の独特な風景に飲み込まれてしまいそうだ。

山水画の落ち着いた風景、中国は桂林の悠久の風を受けているよう。

オオメノマンネングサは青々と繁り、カテンソウやヤマネコノメソウまでが満開状態。

ちょっと珍しいシロバナネコノメソウも咲いていた。ちょっとした群落だ。

本当はここだけで十分時間を食ってしまうのだが、年中定期的に足を運んでいれば、適当な寄り道場所になる。

さて今日は近くの王院山に登って見よう。

日本のシンデレラ

「王院山」、この高貴な名の由来を知るには「吉祥姫」の伝説を紐解かなければならない。

日本にもシンデレラの話があったのか、と不思議に思うが、昔、光仁帝が妃を募集していて、使者は靴と美女の絵姿を持って全国を回ったと言う。

出雲を訪れた使者が見つけたのは上塩冶で田植えをしていた娘であった。靴のサイズと似顔絵が合ったのでさっそく都へ召された。

が、後に訳あって戻って来た時には、お供の方達も大勢連れて来ていたので、没後は高貴な方達の合同墓地として「王院ヶ墓」が建てられたと言う。

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島根半島が一望

立久恵峡から北へ少し移動すると神戸川に沿って桜並木の素晴らしい殿森地区がある。まっすぐ進めば出雲市だが、「殿森電子工業」から右折し「富能加神社」を経由してさらに道なりに進むと美しい田舎の山道だ。

イチリンソウの満開の群落や珍しいムラサキケマンのシロバナ群落を見つけた。

ここまでにヤマザクラやミツマタの風景を楽しめるぞ。高度も増して空気が爽やか。

一箇所ある分岐点では右の「王院ヶ墓」方向に進むと、一本道で登山口駐車場広場に着く。

善意の杖が置いてあり、道の険しさを想像するが、ゆっくり登れば危なくは無い。

真新しいあずまやが植林の中にありそこから急登が始まる。

しばらくはスギ、ヒノキの植林が鬱陶しいがサンシュユ、キブシ、クロモジが花を付けたあたりにはヒサカキの悩ましき香りが漂う。

途中にもベンチが置いてあるが山頂近くの稜線に出るまではあまり展望はきかない。

ウグイスカグラの花とウグイスの鳴き声。

滑らないようしっかりと踏みつける道にはチゴユリの芽立ち。

明るい山頂は間も無くやってくる。径5メートルの中に10個ばかりの石が並べてあり、雨乞い祈願をしたらしい説明も彫られてあった。

ここから更に奥にヤブコギ道が続くが展望は山頂が一番いいようだ。

先程の石群の中に三角点の指標もある。

振り返ると左に日本海、右に宍道湖。

山は左から出雲大社の弥山(みせん)、島根半島の鼻高山(はなたかせん)、平田の旅伏山(たぶしさん)と続く。無線施設のある斐川の仏教山も手が届きそう。

たかだか554mの標高だが海抜0mの出雲平野に比べると相当高地になる。

ここから下界を眺めていると、太古の昔は日本海と宍道湖がつながっていて島根半島は島だったことが理解できる。

斐伊川はその頃は大社の浜へ流れていた。「川戸」の地名はその名残。

いや、もっと昔の国引き伝説の世界を見下ろしているようで、ただの展望とは訳が違うぞ、と妙な気分だ。ここは高天が原か?

それにしても白く丸い出雲ドームは異様だ。


[誕生日]今日から始まったセントラルリーグの野球中継を見ていたら、巨人のルーキー高橋選手は今日が誕生日だそうだ。我が広島カープでは金本選手。

何を隠そうこの私もそう。年男というおまけもあり、頑張らなければならない年。

節夫という名前は4月3日が昔は一月遅れの節句であったから。今では余りそれは言わなくなった、が、昔から花見はこの日だったようにも思う。

それにしても桜の花は気持を高揚させてくれる。

入学式もしかり。新年度の始まりにふさわしい花はやはり満開のさくら。

ソメイヨシノは手入れが良いと花付きも良くなる。今年一番きれいだったのは高陽岩の上のゴルフ練習場、「山本建設社長宅」の庭のサクラ。駐車場にガードマンを置いてまで案内してくれ、一般に無料開放している。これぞ男。