QJYつうしん 第95号

平成10年4月20日 

 スミレの図鑑を持ち込もう 360度展望の 山口県阿東町 十種ヶ峰(989m)

十種ヶ峰の登山口                             

R9とR315の交差点、山口県徳佐の周囲はりんご園が多くある。折りしもその花が満開。そして交差点から見上げる十種ヶ峰はマッターホルンにも似て名峰「長門富士」の呼び名もそのままに美しい姿を見せていた。

この徳佐地区からの登山ルートもあるのだが、今日は「青少年野外活動センター」のあるスキー場ルートをとる。其の訳はこの季節はスミレ類が多いため。

スキー場のように陽の当たる開けた場所はスミレの仲間が多く咲く。

R315を走ると嘉年市場地区に野外活動センターを示す大きな看板があり、入り口を間違えることは無い。

この方面から見る十種ヶ峰は徳佐からの尖峰と違い、どーんと鈍く大きな塊の山だ。

道路すぐの樋ノ本橋を渡り、2キロくらいで野外活動センターがある。公共機関であるここは通過し、さらに進むと左カーブの地点で右の林間に案内標識があり、その前の空き地に車を停めたくなる。

しかし、本日の登山口はさらに先のリフトの上端、スキー場内に車を置き、登りはじめる。ルートはゲレンデ、どうしてもいやなら車道を登山口広場までドライブも可能。

ゲレンデのスミレ

歩きはじめてすぐにフデリンドウが咲いていた。そのそばの白いスミレはツボスミレ(ニョイスミレ)だ。群生好きのスミレで花茎の緑色が明るい。ニョイは「如意」で仏教用語、「匂い」ではない。

すると花がそっくりなのだが花茎が赤く、斑入りの気品ある葉をしたフモトスミレが現れた。

葉の裏は紫色で、花が無いとシハイスミレと間違えそうだ。

うす紫色のタチツボスミレが出てきた。

ゲレンデをさらに進むと車道を横断する。ギボウシ、ノブキ、フキ、セイヨウタンポポが目立つぞ。右手に濃いピンクのスミレが群れていた。アケボノスミレだ。個人的にはスミレの横綱と呼んでいる。葉が出る前に咲くスミレサイシンの仲間と思うが、大好きなスミレだ。

ワラビ、ゼンマイのゲレンデ道は二度目の車道横断箇所に来る。

左の林の中に「十種ヶ峰登山Cコース」と看板が隠れているが、野外活動センターを利用しない人には不案内な表示。ナガバノモミジイチゴが満開なのはいいが、日陰を求めて端を歩くと小枝の刺がうっとうしい。

紫色のとても濃い、中央部が白くてそのコントラストが美しいニオイタチツボスミレが咲いていた。鼻を近づけるとバイオレットの香りをたっぷり嗅ぐことができる。普通のタチツボスミレや先程のアケボノスミレでは全然匂わないのだから、とても不思議だ。

ゲレンデの西側は雑木林のうす緑色が美しい。東側は植林がありちょっと淋しいが、その林床にマムシグサがぽつんと立つ。ヤマヤナギらしき小木に花が見られる。

五合目、登山口広場

MAP
登りはじめて30分、ゲレンデの踏み跡は西側の雑木林に導いてくれる。ちょっと快晴の直射に参っていたところだから助かった。

それにしてもこのスキー場は、車を置いた場所がリフトの最上部だから、この辺には歩いて登り、滑り降りるのか?

振り返り東側の樹木を越して津和野の青野山の丸いトロイデ型(釣鐘型)の山容が目に入る。

林の中に入って15mくらいで左折、周囲はリョウブばかりの明るい山道だ。若葉が気持ちいい。葉が繁ってこないうちに、とタチツボスミレが多く咲いていた。花も葉も大きいので良く観察してみるとオオタチツボスミレだ、距が白いのも見分けるポイント。花が終わると背を伸ばし大きな葉になる、もっとも日陰に咲くから、樹林の中では光が欲しいのかも知れない。

ニワトコ、クロモジも花満開。相変わらずヤマヤナギやナガバノモミジイチゴも咲いている。

ハナアブがブンブン羽音をたてて吸蜜している。オオバヤシャブシも雌花をつけていた。春先は雄花が目立った木だ。

アセビの白い釣鐘状の花が見られると、そこは登山口広場だ。一面チマキザサに覆われている。車道はこの近くまでついていて、スミレに興味無い人は車でここまで来られる。

夏にはササユリなど高原植物を楽しめることだろう。しかし、ササ原は成長して相当歩きにくいかも知れない。左側のササ原ルートを登れるのは今だけか?

チマキザサは北方系植物だ。この雄大なササ原は一級品の景観。

山はいいなあ

山頂まで一気に登れる。周囲にそれほど高い山が無いのでとにかく遠望のきく山だ。中にクロマツが点在し、向こうに青野山、ウグイスの声と春風で「山はいいなあ」の独り言が出る。

このウグイス、まだ鳴き声がへたで、ホーホケキョケキョとずっこける。

山頂は訪れる人の多さを物語るのか、地面が露出し緑がはげている。南北に長い山頂からの見晴らしには誰もが感嘆の声をあげるようだ。

ちなみにここは一等三角点があり島根県との県境。四方の山名を説明した案内板がきちんと立ててあり、南の長野山(1015m)、平家ヶ岳(1066m)がひときわ目立つ。

世に360度展望の山は多いがこれほどの独立峰も珍しい。しばし周囲を回るように展望してみよう。小さなアブやキアゲハが飛び回る。

夏はまったく陰が無いので辛いぞ。

ここから下山は奥の丸木階段方面だが、南の稜線沿いに徳佐方面への下山ルートがある。

白くお花畑が広がっているのでちょっと下りてみよう。

一面白く咲いていたのはアブラナ科ハクサンハタザオ。夏はやめといたほうがいいくらいのヤブコギ道だ。

足元に葉が裂けているスミレ、エイザンスミレがあった。

次に出てきたのがアカネスミレ、距が長細くとがる。花柄の色と花の色が同じだ。茜色、と言うほどではないが鮮やかな紅紫色。

それにしても多くのスミレを見ることの出来る山だ。ここの呼び物はホソバシロスミレと言うこと、図鑑によると5月下旬の花だから、また来なければ。

昼食後は丸木階段の道を下りる。ヒトリシズカが一人咲く。相変わらずフモトスミレとツボスミレのオンパレード。

熊野神社の周囲にはカキドオシ、ノミノツヅリなど平地で見られる草、相変わらず延々と続くチマキザサの草原。

ショウジョウバカマもピンクの花を咲かせていた。それにしても調子の悪い階段道だ。だから皆が段をそれて脇道を歩く、大きく裸地が広がっている。残念なことだ。ここに可愛い花が咲いていたに違いないのに。

団体登山の指導者は道を外れないで歩くことの原則と理由を正しく教えてやって欲しいものだ。