QJYつうしん 96号

     休日は山にいます     発行 QJY通信社 平成10年5月15日

   光の町の おすすめ山 キンランの咲く 島根県津和野町 青野山(907m)

笹山登山口          


広島を7時に出発すれば、その山は9時には登山口から登りはじめる事が出来る。

六日市ICから柿木村を経由して道は自然に唐人屋トンネルを抜けて津和野の町に入る。目の前に丸いお椀を伏せたような、愛着の湧く山、青野山はトロイデ型の典型的火山の山だ。

ここには二つの登山ルートがあり、JR津和野駅からの中央コースとここ笹山の南側コースがある。笹山登山口は大きな駐車場もあり、コウゾリナの黄色い花が満開だ。

例によって登山口近辺の多彩な植物群も時間をかけてゆっくり楽しみたいが、天気のいい内に山頂を目指したい。

「ファイト一発 1400M」と書いた看板に元気付けられて、登りはじめる。

イボタノキに白いつぼみがついて、足元のウラジロイカリソウは終わろうとしている。スギの林を通らなければならないが、南の斜面だから明るく、花も期待できそう。

マユミが花をつけていた、その下にギンリョウソウの白いキセルの様な花。意外と日陰が続く。今日は風も無く少し暑いくらいだ。当然水筒の冷茶はどんどん軽くなる。

花の終わったヒトリシズカ、これから咲くフタリシズカ。

あと1000mの看板のあたりでは山道一面に白い花が落ちていた。自分勝手な木、エゴノキだ。え?いや、だからエゴは自分勝手。

ただこの木は下から見上げると空の色に溶け込んで気が付かない。

ベンチがあったので休もうとしたらその上に大木がお先に横になっていた。

コナスビ(サクラソウ科)の山道

「疲れたかな? あと900M ファイト!」の看板にちょっぴり元気を取り戻した。「津小」とあるから、恐らく津和野小学校の児童の手になるものだろう。山頂まで100m間隔で優しく登山者を元気付けてくれる。

アオマムシグサが気持ち良さそうにすっくと伸びていた。ヤブムラサキがつぼみを付け、チゴユリが大歓迎してくれる。

見上げるとカエデやクヌギ、コナラの新緑がみずみずしい色で輝いている。山はどこでもいいのだ。この、心からリフレッシュする感動があるから山を歩いている。このおいしい空気で生き返る。

休日は山に来なければ。

ふと丸木段の山道を見ると、黄色いコナスビがずっと続いていた。これほどのコナスビは初めてだ。小群落が切れ目無く続く。

白く大きな花はノイバラ。黄色いイチゴの赤ちゃんはナガバノモミジイチゴ、来月には収穫出来るぞ。ヤブレガサやオカトラノオ、カラマツソウが夏を待っている。

あと800mで急に右手の南斜面が開けた。先程通った「唐人屋トンネル」が見える。

水田には水が入り、誰でも日本の美しい風景に心が和むはずだ。
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それにしてもお椀を伏せたような青野山の行程半ばまでは「きつい」。そろそろ、なだらかになってもらわないと。

クサイチゴに赤い実がなっている。

ハルゼミのギーギーとネジを巻くような鳴き声は苦しい登山道にはもうたくさん。このセミは一匹が鳴くと近所のセミも合わせて鳴くのが特徴。

相変わらずコナスビちゃんが多い。コガクウツギが咲くあたりで山道沿いに紫色のツクシタツナミソウが咲いていた。これより20mくらい続く。

「がんば! あと500M」

西側の展望が開けた。ベンチもあって休憩だ。目に入るのは十種ヶ峰の美しい姿。そう言えば先日向こうからこの山を確認したっけ。見える範囲の山々を見てもこの青野山の高いことは良く分かる。

花を見ながら登るのでもう一時間かかってしまった。あと500mの地点。

サワフタギも多いぞ。
さ、元気一杯、歩きはじめる。ツピーツピーとシジュウカラがうるさく鳴く。丸木階段が無くなる頃は空が近くに迫ってきた。

クロモジ、イヌシデ、リョウブ、コシアブラとそれほど特殊な樹木は無いが、ウグイスの声で開けた頂上が近いことを確信する。

ここのウグイスは正確にホーホケキョと鳴くから、よほど早春から鳴いているのだろう。

「がんばれ! ゴールまであと100M」とくればほとんど平坦な道のりだ。ミツバツチグリが現れて「ゴール、よくきたネ」と看板が終結したのは登山一時間半のこと。山のガイドブックでは一時間の山と書いてあったが、私のように「道草山歩き派」はどうしても時間がかかる。

ここもハルゼミがうるさいが、上がってきたからにはもう何とも無い、耳にも心地よい。マムシグサやチゴユリがたくさん咲く。二等三角点の周囲はスミレとヒメハギだ。山のガイドブックには三等三角点の山となっていたが石に刻まれた文字はどう見ても「二」のようだぞ。

その近くに植栽らしいアヤメのつぼみ。

古くは妹山(いもやま)と呼ばれたこの山は当然昔は城塞があったのだろう、北西方面に長い山頂はあまり荒れていない。訪れる人が少ないらしく、裸地化していないのが嬉しい。山頂の岩も火山のなごりか、安山岩のようだ。

東西に名峰「安蔵寺山」「十種ヶ峰」とあり、山頂にはクロマツが一本姿良く立っていて、昔の人もこれを眺めたのだろうか、と感慨にふける。

キンランが満開

石祠がある場所からは国道9号線を見下ろすことができる。この祠は「山王権現」、ずっと昔から津和野の町を見守ってきた。遠くに日本海が見通せるはずだが、ちょっと本日は霞んでいる。

クロマツの木の枝にとまって鳴いていたセミが目視出来た。やはりハルゼミだった。そう言えばこのセミ、松の木で鳴いているのを良く見るなあ。

黄色の花、ミツバツチグリ、ニガナやノゲシが多いのでちょっと気が付きにくいがキンランを一株見つけた。

今日の山歩きでは先程のツクシタツナミソウとキンランが思い出となりそうだ。それならもっと探して見よう。

もっと北の斜面に何本かあるぞ。群生しないから貴重なのかも知れない。

結局きれいに咲いている株は五株あった。ランの仲間はどうしてこれほど心ときめくのだろう。広島県内でも良く見るが、山頂に咲くのは嬉しいものだ。

(午後の部、QJY97・地倉沼へと続く)


[スズメの子]

  会社帰りのたそがれ時、交差点で女の子が騒いでいる。うちの会社のOLだ。スズメの子がうずくまって鳴いている、と言う。車の下に入ったり、タクシーのボンネットに乗ったり。「見ていられない、何とかして!」と、言うが捕まえられないし、捕まえても巣に戻せない。

さっそく携帯電話で会社にいる「野鳥の会」の同僚に電話してやったが、「高い所に置いてやれ。」と、つれない返事。そのうち、どこへ行ったか分からなくなった。

都会のスズメが生き抜くためには、様々な難関が待っている。

常に二羽の親スズメがピーピーと大きな声で周囲を飛び回っていたのが、悲しかった。