休日は山にいます 発行 QJY通信社
ナベヅルの里でハイキング 山口県熊毛町 烏帽子岳(697m)
登山口が消えた?
熊毛町八代地区と言えば冬はナベヅルが飛来し、住民の暖かい配慮で保護されていることで有名。この話はQJYつうしん第51号で取り上げ紹介している。
そして、その八代地区から東にそびえるなだらかな山が本日の目的地「烏帽子岳」だ。
山口県の山案内を見ればハイキングの手頃な山として必ず載っているはず。
で私も、わりと新しい本を持って出かけて見た。八代のツル監視所から東へ1キロ、「魚切」バス停の先右手に登山口の案内看板がある。
行き過ぎると「烏帽子岳ウッドパーク」への車道が見つかるはずだ。そう、ここは車でかなり中に入れるのだ。
さてこの登山口の案内看板はすぐ見つかるのだが、どの本にも紹介してある大きな鳥居が見つからない。おかしいな、と思いながらも、ここに車を停め歩きはじめる。
しばらく行くと、草刈りをしているおじさんがいたので「鳥居」の場所を聞いて見た。
「ああ、あれは最近まであったが、ここの圃場整備でよそへ移したよ。」とのこと。
納得。道路に鎮座していては邪魔なのか。
スギ林の山道
しばらく行くとコンテリギ(コガクウツギ)やノイバラの目立つ山道となる。見上げるとここはスギの植林地。コアジサイがもう咲いている。
左の方からは沢の水音が聞こえる。
良く枝打ちされたスギの林の中は意外と明るい。サンヨウアオイが大きな花をつけてあちこちにある。ここはギフチョウがいるのだろうか。
ミズタビラコ、オニタビラコ、キランソウにタツナミソウがつぎつぎと現れてくれる。
あと1300mの標識が立っていて、草刈りのおじさんの言葉にもここの案内の充実ぶりは自慢のようであった。標識があちこちたくさんある。
ふと足元を見ると木の葉が小さく巻かれて落ちていた、オトシブミだ。踏みつけそうなくらいたくさんある。
うす紫のコアジサイが目立ち、植林のスギ林だけど何とか楽しめる。map
魚切の滝
左手、先程から聞こえてくる水の音が一段と大きくなる。白い水飛沫、気持ち良さそうな滝だ。バス停の名前でもあった「魚切」はこの滝の名。
渓流に沿ってミズヒキが多いぞ、でもまだまだ花は咲いていない。かわりにフタリシズカの可憐な花。面白くない植林の歩道だがエゴノキの白い花が落ちていたりする。目を遠くにやるとやや大きくなったウドが立っていた。こうして山道にあるのだからあまり人が来ないということか。
近づいてウドであることを確認していたら、そのそばにウラシマソウが咲いていた。先程から小さい葉がマムシグサにしては細いな、と思っていたがやはり釣り糸を長くのばしたウラシマソウだったのだ。花は雌花、時期的にちょっと遅くてナンゴクウラシマソウとの区別は無理。
オニタビラコ、キツネノボタン、ハナニガナが元気一杯。コアカソは梅雨明けを目指して準備中か。
あと1000m、やっとなだらかになってきた。
水音はずっと気持いい。大岩が見えるぞ、広場になっている。普通のニガナも多い。植栽のアジサイがある。カエルの手のような葉、シロモジがたくさん出てきた。平家ヶ岳で見たものが最も西かと思ったが、このあたりが最西端かな。
先に進むと赤松ヶ平展望広場へ向かう交差点に差し掛かる。
モリアオガエルの沼
山口県の手になる野鳥の絵入り説明看板が建ててあるので、内容を紹介しておこう。メモしている間にあちこちから鳥の声がする。
アオゲラ、エナガ、ヒヨドリ、アマサギ、ウグイス、カワセミ、ヤマガラ、ツグミ、セグロセキレイ、トビとある。
この交差点では左の烏帽子方面に向かおう。周囲のナナカマドはちょっと怪しい、つまり植栽らしいということ。コアジサイやシロモジは自生だろう。
前方に植栽らしいカキツバタが咲いている、ちょっとした沼地でヒルムシロが穂を出していた。周囲はオオバヤシャブシに囲まれている。おや、ヤシャブシの枝先に白い大きな袋が。モリアオガエルの卵だ。あちこちにある。緑の美しいモリアオガエルが棒の先に何匹かいるぞ。
山頂まで520m、ここに「大将軍」と書かれた鳥居があった。チゴユリが多いが全部花は終わっている。アマドコロは今花盛り。樹木はコガクウツギとコツクバネウツギ。コアジサイは切れめ無く続く。アカマツも出てきた、ミヤマシグレは蕾、コジイや植栽だろうかベニドウダンもある。
続く分岐路ではちょっと迷うが、左が二等三角点、烏帽子の山頂だ、見晴らしはまったく駄目。展望なら右手の石祠展望峰に尽きる。普通こちらを山頂としているようだ。
木にからまったサキソフォン
落葉樹の気分のいい山道を進む。樹木にからんだツル性植物もいろいろあるが、大きな葉の間に黄色いサキソフォンが並んでいるぞ。
これははじめて見る。
ウマノスズクサであることは間違い無いのだが、とても奇麗で花屋さんにでも来たようだ。
さっそく図鑑をリュックから出して調べて見る。
オオバウマノスズクサだ。
図鑑にもサキソフォンみたいと書いてあるとおり、ユニークな形。咲き始めでいい色。虫が中に入ると出られなくなると言う。先程のサンヨウアオイもウマノスズクサ科だが、花は丸くて放射相称。このオオバウマノスズクサは左右相称の形だから、良くこれが同じ仲間に入れてあるものだ。
花びらに見える大きな口は三個のがく片が合着して変化したもので、この形から馬につける鈴を想定したのだろう。里にあるウマノスズクサに比べてはるかに上品な花。
ともかく初めて見る花はいいものだ。これは特に木本だから来年も見られるはず。
イボタノキやウラジロノキもある。
展望の山頂
山頂はすぐにやってきた。ぱっと広がる南方面の山々。石灯籠や祠があり先程の鳥居はここを指していたのか。ベンチで汗をふき、一服。
暑い陽射しで、ここでの昼食を取りやめ、ログハウスまで戻る。見晴らしがきかないとは言え、烏帽子山頂に寄らない訳にはいかない。ほんの2〜300mだから。
ログハウスはトイレのある休憩所だが、立地場所がちょっと納得いかない。スギの植林の中の暗い場所だから。なお、ここは車で来られるし、もっと先の赤松ヶ平展望広場へも行ける。
帰路を車道にして車を置いた場所の先200mに出ることとしよう。
ツルウメモドキの小さな花が満開。
そばに面白い穂を出して咲くシラキもあった。
帰りに寄り道した黒岩峡にはキキョウソウやガンピ、ソヨゴが咲き、水の流れに足を入れてはしゃぐ女の子もいた。
田舎の町のハイキングの一日。
[天涯の花]
宮尾登美子著「天涯の花」を読んだ人は多い筈。中国新聞の夕刊に連載され、今は単行本にもなっている。天涯とは徳島県の剣山のこと。そこに咲く花は「キレンゲショウマ」。
山の花が好きな、そう貴女のような女性の物語。ともかく集英社\1、800、一度は読んでみて。