QJYつうしん第99号

     休日は山にいます     発行 QJY通信社
平成10年5月30日

♪ミヤマキリシマ咲き誇り、山紅に大船の・・   大分県   坊ガツル〜大船山(1787m)

長者原〜坊ガツル                             


いつもの読売旅行のパック(\12,000-)である。この時期の久重山はミヤマキリシマ。そう芹洋子の歌う「坊ガツル賛歌」を想像して欲しい。

  ♪人みな花に酔う時も、残雪恋し 山に入り…

深夜出発したバスは早朝5:00、温泉のある長者原(ちょうじゃばる)に到着。これから坊ガツルに向けて九州自然歩道をゆっくり歩く。

バスは2台、80人の大団体である。もちろんこれはこの時期のミヤマキリシマがお目当て、乗り込む人達の装備も、雨具、杖など山の経験豊富な雰囲気を感じた。

まだ薄暗い駐車場だが、多くの車と出発準備の登山者が動きはじめている。店の人達も早朝から大変だ。

今日の天気は晴れることにはなっているが、広島を出た時は雨、ここの路面も濡れている。それより濃い霧がかかって噴火中の硫黄山の姿さえ見えない。東西南北がさっぱり。

朝食など準備を済ませて6時前には出発。地元のガイドさんもひとり付くので安心だ。

やっと明るくなった周囲では白い穂を立てたイブキトラノオも見られる。これから坊ガツルまで三俣山(みまたやま)を巻いて2時間半の行程、濃いガスで衣服がじっとり濡れてくる。雨具は必須。

木道があって黒く焦げた潅木の具合から、ここは春に山焼きをするようだ。

平坦な木道はすぐに終わり、森の中の山道の歩行となる。

コガクウツギやオオバアサガラが咲いている。コゴメウツギはまだつぼみ、ところどころにマイヅルソウの葉やヤブレガサが見られる。

雨具がうっとうしいが冷んやりした空気で暑くは無い。それより山道は薄暗く、早く明るい場所へ出たいものだ。雨は問題無いが足元のぬかるみはヘビー級、靴がどろどろで粘土の上を歩いているようだ。

山道は広く、また二本くらい平行しているところもあり、登山者が多くすれ違う山であることが想像できる。

7:00をまわった頃、やっと明るい場所に出る、雨が池越だ。ガスがかかっていなければ本日の主役「大船山(だいせんざん)」の山容を見ることも出来たはず。そして目指す「坊ガツル」まであと1時間だ。ごろごろ石の歩きにくい道、石が無ければ滑りそうなどろんこ道、秋にはサワフタギが青い実を見せてくれることだろう。

広島でも多いタニウツギがピンクの花を付けていた。シロドウダンも見られる。ベニドウダンの白花品種だろう、赤い葉柄は同じだ。

やっと姿を見せたミヤマキリシマもこのあたりでは既に終わっている。アセビやリョウブも多い。

さあ、もう一度森の中の足場の悪い道を我慢すれば坊ガツルの野営場だ。そもそも坊とは寺院の坊跡。ツルは川のある平坦地をさす。

♪四面山なる坊ガツル、夏はキャンプの 火を囲み、 夜空を仰ぐ 山男、 無我を悟るは この時ぞ

広島高等師範の山岳部の歌とも言われる。

四面の山とは、西から三俣山(1745)、平治岳ひじだけ(1643)、大船山(1787)、立中山(1468)。

ハルリンドウが道に沿って咲く。可愛いコケモモも珍しい。実をつけたクサボケやネバリノギランのつぼみがガスの引いてきた林道を飾る。

坊ガツルから段原

私がコケモモの写真を撮っていても、バスツアーの皆さんはあまり植物には感心が無いようだ。登山の愛好者ばかりなのだろう。

それよりどんどん晴れて来て、見上げる大船山や段原(だんばる)の赤い景色が気になる。ミヤマキリシマだ、赤いじゅうたんが北大船山の山頂を飾っている。山渓の「日本の樹木」の本でこのミヤマキリシマの項は大船山の見事な風景が出ている。昔からあこがれた風景だ。

時刻はまだ8時、多くの登山者が山に向かっていた。近くの法華院温泉に泊まっていた人も多いのだろう。

坊ガツルは完全な盆地で、大船山の登山口だ。山頂まで2時間、さあ青空が広がってきたぞ。ベニドウダンやシロドウダンが多い。ベニは広島のものほど赤くは無い。むしろピンクドウダン。シロとの区別もあいまいだ。

約2キロの山道らしい山道を登るが、道の自然度も不満は無い。あたりはカッコーの鳴き声、時折ジューイチの「11、11」と鳴く声も、さすが九州、早いなと思う。

結構、森の中の道が続き、五合目まで来てやっと視界が広がった。振り返ると白い煙をもくもくと吐く硫黄山がすごい。三俣山はもう終わっているのか、赤いじゅうたんが見えないのに、これから目指す大船山は一面に広がる。嬉しい光景に心がうきうきとしてくる。安いバスツアーで一晩うつらうつらしていたら、翌朝はこうして連れてきて貰えるのだからシアワセ。

イワカガミはほとんど終わっていたが、マイヅルソウがたくさん咲いている。

段原から大船山

急にミヤマキリシマが視界に入って来た。段原は北大船山と大船山のラクダの背の部分、特に東側の展望、尾根筋のキリシマじゅうたんが素晴らしい。ツアー四分の一の20人は後続を待つ時間がもったいないのですぐに大船山へと向かった。段原から20分だ。

結局その残りの人は段原止まりで、山頂には登っていない。せっかくここまで来たのになあ。

サラサドウダンの近縁種、ツクシドウダンツツジが赤い釣鐘をぶら下げていた。九州の固有種だ。図鑑で見るより赤い。

足元には驚くほどのマイヅルソウ群落、花もたくさん。花は無いが、オオヤマレンゲの木も見つかる。

そしてよじ登る感じで辿り着いた岩ばかりの裸地の山頂には、二等三角点。360度の展望だ。

多くの登山客がここにいる。そして奥の風景には思わず唸ってしまった。

涸れることの無い、御池と呼ばれる火口湖があり、周囲も赤いじゅうたん。ああ、ツアーでなければもっとゆっくりしたい。

下界の段原ではもう昼食をとっている頃だ。予定では下山の時刻。

急いで引き返すと第一陣は下山を開始、我々はこれから昼食だが坊ガツルまでには追いついてしまう。

下山中にすれ違う人達の多いこと。まだ12時前だから無理もない。挨拶が途切れないほど。こちらは大勢だから、必然的にすれ違い時に待たせることとなる。申し訳ない。でも個人的には団体登山は大嫌い。

広島からのグループにも会った。

「広島には山が無いけんねー。」

「そうじゃね、都会じゃけんね。」

今日だけで何百人の登山者があるのだろうか?いや、もっとか。昼で下山していると皆が「早いですね。」と声をかけてくれる。

6時前から登りはじめたのだから早いはず。

長者原では温泉にも浸かって、待っていたバスに乗り込み、定番「寅さん」のビデオを見ながら帰広の途についた。