QJYつうしん 第102号

        休日は山にいます    1998/6/23

県民の森のササユリ  牛曳山(1144m)〜伊良谷山(1149m)〜毛無山(1144m)

牛曳山への登山口

毎回、花の山歩きをしていて、ここが本命と言う場所は特に無い。どこへ行っても盛りの花があり、心をリフレッシュできるおいしい空気があるからだ。それでも、皆さんに一度は行ってみたら?とお奨めの場所は十指に余るほどある。

県民の森はそのうちのひとつだろう。

梅雨の合間の晴れた日、時期的にはササユリなど初夏の代表花が揃う頃でもある。

新築なった公園センター前の木陰に車を停め、4〜500メートル今来た道路を後退すればその登山口はある。

人がたくさん来ても車で通り過ぎる場所は珍しい花が多くある。腐生ランのオニノヤガラとツチアケビが花をつけて並び、流れに沿ってアカシデや実をつけたウワミズザクラが立つ。

しばらく歩けばチェーンのかかった牛曳山の登山口だ。管理センターに山の様子を聞きに行ったら、おじさんが「最近はこの山から登る人が増えたよ。」と話してくれた。

山の様子を聞ける人がいれば当然一言話を伺っておくのが山の「常識」、ルートが途切れていたり、クマの出没、崖崩れも情報として入れておく方がいい。

歩きはじめるとウツボグサの紫色の穂が並びオニシモツケのうすいピンクの花が咲く。最近、吉和でこの群落を見たがここにも咲いていたのか。本来は北方の植物だ。広島県はこのように常識を覆す植生分布を見ることがあり、我々も図鑑などで本来の分布を知っておく必要がある。

植えられたものに違いないシラカバの林が続き、展示林としてトウヒやイチイ、コメツガなど素晴らしい針葉樹が植えてある。ベニマンサクが現れるがもう驚かない、何しろ展示林だから。でも赤いシモツケの群落は本物だ、丸い玉のような咲き方は大山では夏の代表花。

あたりはニョイスミレの葉が繁る。

静かな山道を歩いていると大きなヤマドリがドタドタと横断して行った。

人里の植物ヒメジョオンもあればヒルガオも咲く。チゴユリは実をつけ、ミヤマヨメナがまだ咲いている。ホウチャクソウ、ユキザサも静かに実りの季節を迎えているようだ。

伊良谷山へ2.3キロの標識があり、やっと本来の山道へ突入だ。

花また花の山歩き

右下に浅い谷があり、歩きやすい山道が続く。ミヤマヨメナは更に絶え間無く続き、最盛期にはすごい群落だったことが分かる。来年は花の最盛期に来てみたいものだ。

コアジサイが見事に咲きカッコーが私を「ブカッコー、ブカッコー」と呼んでくれる。ヒグラシやツツドリも騒がしいぞ。

ピンクのササユリが次々に現れるのは嬉しい限りだ。一本ずつ品位高く咲く姿は見事。

ツクバネソウやユキザサは実をつけ、コバノフユイチゴは今が盛りの白い花。

大小の名も無い滝は夏の山歩きにはうってつけの清涼剤だ。1時間も歩けば丁度休憩の頃、ここなら安心して戴けそうな清水だ。

さらに40分で急に明るい場所に出る。ミヤマカラスアゲハやキアゲハが飛び交い、ヤマツツジの濃いオレンジ色の花が歓迎してくれる。ここもササユリが多い、牛曳山の山頂だ。

オカトラノオは少し早いかな、ウラジロハナヒリノキは終わり、ホツツジはこれから。周囲の樹木はウリハダカエデとカシワ、花をつけているのはイヌツゲ、ミヤマイボタ、サワフタギそして見事なヤマボウシだ。それもピンクがかかったものが多い。この分だと秋はおいしい実の豊作だぞ。

10時半からの登山、丁度昼食どきである。

伊良谷山〜毛無山への散歩道

明るい尾根筋歩きになると、南に御陵の山並みがひときわ目立つ。イワカガミは終わりダイセンミツバツツジも葉のみとなるが、ホナガナツハゼ、ネバリノギランはこれからと言うところ。

普通のノギランもあるので、是非触ってその違いを知って欲しい。花の付き方や葉の厚みも差があるのが分かるかな。

map

公園センターや六ノ原スキー場も眼下に見える。夏本番なら生徒達の明るい声がこだまするはず。

キキョウやマツムシソウの葉が足元を飾るから今年の秋は早いのだろうか。気の早いツシマママコナはもう咲いているぞ。香りの良いリュウノウギクの葉がその存在感を示す。

ウラジロハナヒリノキがひょうきんな花穂を立てていた。展望の良さは定評のある伊良谷山、ここへは一度下ってまた登るが快適な山道は変わり無い。そしてそこから奥へ1400メートル離れた毛無山、標高表示が間違っている。

だんだんガスがかかってきて展望が怪しくなってきた。

しかし少しばかり変化もあり、適度な距離と併せて、胸をはって誇れる広島の代表的山歩きだ。

マイヅルソウの愛らしい葉と、相変わらず一本ずつ立つササユリは西日本の代表でもある。

コアジサイはうす紫の花、おっと足元にイチヤクソウの可愛いつぼみ。林間にはシライトソウも試験管を洗浄するブラシをつけていた。

ダイセンキスミレの艶やかな葉も確認できる。

ツルアリドオシ、ギンリョウソウがひっそりと咲く。

毛無山まで来ると吾妻山まで展望がきき、ここの山としての魅力が分かってもらえるはずだ。広い山頂はいつもなら多くの登山客で賑わう。が、梅雨の合間の平日となれば登りはじめてから一人もすれ違わない。

そこがこの山のいい所なのだろう。

ほとんどの人は池の段や御陵方面に向かうのかな。それはそれでいい場所だが、こうしてササユリの香りをかぎながら尾根筋を歩くのも悪くない。これから盛夏にはユウスゲやマツムシソウに彩られる場所だ。

下山路

今日の縦走路は非常に歩きやすい。時間に余裕が無ければ最初の牛曳山をやめて伊良谷山からのルートに変えれば良い。これをエスケープルートと言い烏帽子や池の段側の周遊コースもそれがある。年中いろんな花に逢えるルートだからじっくりそれを確かめながら歩いて欲しいものだ。

下山路は時間さえあれば出雲峠経由がオススメ。「ききょうが丘」など私の好きな場所もある。

吾妻山から県民の森まで一泊コースの山歩きもいいぞ。

「第三キャンプ場」、「若人の家」経由で下山すると、まさにこれは森林浴、夏でも涼しい。相変わらずミヤマヨメナが続きシライトソウの白い穂がとてもいい。

今、頭をよぎるは5年前の秋、ここを走って下りた「第4回比婆山スカイラン」。たった7キロのクロスカントリーだったが50分かかってしまった。あんな苦しい思いは二度としたくない。

キャンプ場では意外にも多くの若人とすれ違った。キャンプだけでは無く正しい山歩きを指導してやって欲しいものだ。団体登山で痛む山道のことをちゃんと教えてやれる指導者がいるのだろうか。毛無山はかつてのたたら製鉄の木材を切り出した名残の呼び名であることなども説明してやって欲しいものだが…。


[編集後記]

大阪から先輩が仕事を手伝いに来てくれた。先週に続いてである。今回おみやげがあるという。差し出されたのは野口悠紀雄著「365日の超知的生活」、いわゆる超整理法の本だ。メモの仕方、片づけ、連絡などの本だ。

いつか荷崩れを起こしそうな、書類山積みの私の机の上を見かねて買ってきたと言う。

お陰で、しばらく立ち直れそうも無い。