QJYつうしん 109 号
休日は山にいます 1998−8−6
秋の七草が咲き誇る キキョウが丘の 広島県山県郡戸河内町
深入山(1153m)
早い秋をみつけた
深入山を紹介するのは二回目だ。前回は10月、第43号、ウメバチソウとムラサキセンブリに酔った山歩きだった。
先日、芸北町千町原のトモエソウを撮影に出かけた際、ちょっと寄ってみた深入山で膨大な量のキキョウに大いに喜んだので、日をあらためた今日、秋の七草を中心に咲いているものを探して見よう。
いつも「QJYつうしんで紹介してもらっても、読んで出かけるのは一年後。」と言われるので、早い紹介をしてみようと思う。
8月に入ったばかりの秋の七草は早すぎるかも知れないが、今年の異常なばかりの季節の足の速さに、ある程度自信があって、きっとかなりの確率で秋が感じられると思うのだ。
夏が早い年は秋の到来も早いと信じている。
深入山は知る人ぞ知る花の名所。
広島からの距離といい、山の高さ、山頂までのアプローチの難易度、どれを取っても適度で申し分無い。今はおまけとして「いこいの村ひろしま」の温泉(¥500)まで付いていて、三段峡のハイキングまで出来る西の横綱格である。
山屋さんが白木山を薦めるなら、花屋さんの私は絶対この深入山がオススメだ。困った時の「八幡湿原」、何かがあるのは「深入山」、構えて行くなら「帝釈峡」。一日遊べる吾妻山。
秋の七草
登山口は今回「いこいの村」からとし、下りをグランド側、つまり「かも八」側としよう。その場合帰りか、行きにどうしても横道を歩く事になるがそれも10分程度、この横道歩きは意外と多くの花を見る。
秋を告げるメドハギ、ヒキヨモギの多い場所、もう咲いているかな。
最初に目に入るのは何と言ってもキキョウ。その数の多さにはあきれるほど。普通は七草のうちキキョウだけは数が少ないものだが。
もう実になっているもの、はじけそうに膨らんだキキョウの玉はちょうど折り紙のツルの腹の様。
スキー場のリフト下あたりでもかなり咲く。
そして間違いなくこのあたりはススキの原であり、花はまだでも地面を這うクズを目にすることが出来る。
登り始めるとオミナエシの黄色い頼りない姿が目に入った。ふむふむ、マルバハギももう赤い花を付けているぞ。全体の量こそ少ないが気の早い一群は咲き始めていた。
ツシマママコナが一本ずつ優雅に咲く。風にそよぐ感じで、ミヤマママコナに比べると意外と力強い。シコクママコナよりははるかに明るい。
滑りやすい木の階段を、注意しながら上がって行くと、すぐにカワラナデシコにも出合えた。
秋の七草をおさらいする。
ハギ、オバナ(ススキ)、ナデシコ、キキョウ、オミナエシ、クズ、フジバカマこれぞ七草。
このうちフジバカマは大田川で見つかった情報もあるが深入山では見られないはずだから、そっくりさんのヒヨドリバナを代用させてもらおう。
ユウスゲがぽつんと立つ。ノカンゾウとコオニユリ、ハバヤマボクチと大型の花が壮観だ。
水のある場所には毎年ゴマナが咲く、今年ももう咲いているぞ。ヤマシロギクも早い。ここ深入山ではもう秋だ。山菜のウドが実をつけた。
松の木のポイントではオオバギボウシだらけ。ただし、下の方はほとんど実になっている。
注意して見るとススキが穂をつけているではないか。すぐそばでヒヨドリバナも見つかった、これで七草すべてが見つかっていることになる。
まだ四分の一程度しか登っていないのに七草が見られたのだから深入山はやはり抜群の花の山と言える。
多く見られるのが、ツリガネニンジン、ユウスゲ、オトギリソウやノギラン。色鮮やかに秋を飾る。秋と言えばマツムシソウが一本優美に咲いていた。ムラサキセンブリやウメバチソウ、フシグロも蕾だけならきっと見つかる。
ブナが二本立つポイントではホソバシュロソウが出てきた。そしてギボウシの根元にオオナンバンギセルが束になって咲く。これは花束だ。ヤマボクチもハバとキクバがあり楽しい限り。ただし、県内はほとんどキクバだからハバヤマボクチの見られるこの山は貴重。
大岩の鞍部
カワラナデシコが抜群の量を誇る。コオニユリの季節に入って、なおもオオナンバンギセルが花束になって咲いていた。見事!高さ20センチ、花の筒の長さが5センチ以上と大型美人。
良くある腐生植物の隠花的な暗さは微塵も無い。大きく分かれた合弁花の先は優しいウエーブ、素晴らしく目立つピンク色。
「かも八」からの山道との合流点は、更に見事なお花畑だ。ムカゴソウやトンボソウの咲く丘、一月前ならオオバギボウシが天高く咲く場所。今はユウスゲやハバヤマボクチが高さでは飛びぬけて咲いている。風の強い所なので背丈の高い植物が生えないようだ。
大岩のあるユートピア風のお花畑にはそれらの花の総集編が見られる。
ここでも一番目に付くのがカワラナデシコ。早い秋を見つけて、早めに紹介しようとしたが、結局、深入山ではもう秋が来ていたことになった。
合流点鞍部はノダケがこれから咲く、おちょぼ口のこの花は咲きはじめが可愛らしい。
お!ササユリがまだ咲いている。
コウゾリナとオオナンバンギセルが交互に見られ、ホソバシュロソウとユウスゲが咲く。
もうこれはちょっとした植物園。
加えて、コオニユリ、ヤマシロギクの楽園だ。
山頂は知らない間にやってくるほど。相変わらずの花の園だ。ヤマラッキョウの蕾や奥のカシワの木の根元にはにはフシグロセンノウの一群がいい色を出している。キンミズヒキも。
ヤマジノホトトギスが申し分けなさそうに咲く。
ヒーヒーと鳴くのは恐らくセッカか。風に煽られながら飛んでいた。
下りもキキョウが丘
「かも八」側下りで驚いたのがまたもキキョウ。登りよりも量は多いぞ。オミナエシは見られなかったがカワラナデシコもどんどん増えるでは無いか。ホクチアザミは蕾、タンナサワフタギの実が付きはじめ。涼しい風が心地よい。
キリギリスの声も聞こえ、ネ?ここはもう秋だろ?
下り道で見られる、今までのおさらいの花達。
キアゲハは飛び交い、アカトンボも多い。
ハバヤマボクチ、ユウスゲ、コオニユリ、オオバギボウシと少しでも大型の部類は天を突くように存在感を見せつけるのだ。
振り返ると花達の「また来てね。」の声がするようだ。いや、本当に私には聞こえるのだから。
もしあなたに聞こえなかったら私は謝るつもり。
花の声が聞こえる人はこの山では普通の人。
{編集後記}
料理記者歴43年、岸朝子さんは単に「おいしい」とは絶対に言わない。駆け出しの頃から上司にそう言われて来たと言う。
あっさりしてすがすがしいとか、しゃりしゃりとして歯触りが良いとか、舌を焦がしそうにあつあつだとか表現したあとで、一呼吸おいて「おいしゅうございます。」と締めくくる。
花の表現もそうありたい。
美しいのは当たり前、どこが心を動かしたのか表現した上で、「うつくしゅうございます。」と書き表わしたい。