休日は山にいます 990225

QJY123

幻の花 に逢うために カヌーツアーの浦内川 沖縄県西表島

真冬の広島から台湾より南の国へ

エアポートリムジンは志和のあたりで一面の雪を見た。真冬なのである。これから出かける先はいつもの沖縄。しかし今回はちょっと訳がある。

昨秋、運行が始まったばかりの石垣島への直行便が3月いっぱいで廃止されると言う。それなら早く、念願のあの花を見に行かなければ。

あの花とは聖紫花。セイシカと読む。

植物園ならともかく、自生するのは西表島しか無いと言う。それも道の無いジャングルの中の川の崖に。この「幻の花」の季節は丁度今、亜熱帯の西表島は今がツツジ類の花の時期なのだ。

前日、スコールの様な大雨の中を石垣島から高速艇でやってきた。本来、船浦港に着く予定の船は欠航し、急遽、大原港に到着したが、かばんの中まで濡れてしまうほどだった。

浦内川エコツアー

西表島は全体の90%以上が熱帯雨林で覆われたまさにジャングルの島で、信号機さえ島に二つしか無いくらい「ド田舎」、自然豊かな島だ。

県下最大の川「浦内川」の河口から軍艦岩まで、エンジン付きのボートで30分、これは通常の遊覧船で、乗客のほとんどは折り返して帰る。

この企画を知ったのは沖縄の情報誌で、全日空ツアーの企画にも組み入れてあった。

ならば、今しか機会は無いのだ。

船着き場の潮が引いた砂にはミナミトビハゼが愛敬良く、跳ね回っている。周囲はオヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギなどいわゆるマングローブの林で、オヒルギは別名アカバナヒルギのとおり、赤いがく。メヒルギは長い実(胎生根)をつけていた。

ヤエヤマヒルギ

遊覧船はそれらマングローブに囲まれた川岸に沿って、水面に糸を引くように真っ直ぐ登っていく。今回の客の中には環境庁のイリオモテヤマネコの痕跡調査をしている人もいたし、これからジャングルを縦走する若者もいた。

アダンはパイナップルのような大きな実をぶら下げ、大木のシダ、ヒカゲヘゴは恐竜の時代を想像させる姿で立っている。

ジャングルの中は板根(根が板のようになる)のギランイヌビワやイスノキ、オキナワウラジロガシなど。足元には今満開のエゴノキの花びらが地面を白く覆うほど。着生シダのシマオオタニワタリや木生シダのコミノクロツグには圧倒される。

サツマイナモリの白い花。ヤブレガサウラボシはまるでキク科のヤブレガサそっくりなシダ。

山道を一時間、マリユドゥの滝、さらに奥のカンピレーの滝まで歩いて、汗がだくだく。

空は完全に晴れ渡り、おまけに湿度100%かと思うくらいの蒸し暑さ。

早くセイシカのカヌーツアーをしたい。

いざ、カヌーで川下り

再び軍艦岩まで戻ると、本日のガイドをしてくれる島田青年が待っていてくれた。昼食の後、カヌーの取り扱いを説明してくれる。兵庫県から来たと言う彼は、若いのに植物に詳しいガイドだ。

今日の陽射しだと、相当陽に焼けるからと日焼け止めクリームを貸してくれた。そして腕、腰を中心に準備運動をする。

転覆や水をかぶる危険は当然ある。カメラはドライバッグ、足はマリンブーツ。少々の浸水は構わず漕ぎはじめる。そういうカヌーなのだ。

二人乗りカヤックで他に若い男女二組。

ヒルギ3種の見分け方、塩分の濃さによる植生域の違いや、シダ植物の種類など彼の豊富な知識は見事だ。今日、セイシカを見に来たと言うと、とても喜んでくれた。たぶん、今年ほど多く咲いた年は無いのでは、とこっそり教えてくれた。

カヌーは、島田青年の前で何度か演習を繰り返す、すぐに皆とても上手になった。

さっそく、案内してくれたのが、表題のセイシカのある場所。シャクナゲのような葉とうす紫の気品ある大型のツツジは4箇所で見事に咲いていた。

セイシカ

まるで恋人に逢ったような気分だ。そう、これを見にはるばる来たんだから。「幻の花」とどの本にも書いてある。ついに幻でなくなった。

島田青年はこのあと、カヌーをいろんな支流に案内して植物を見せてくれる。鏡の様な水面には決まってエゴノキの花が点々と浮かび、低い視線から見る光景は夢でも見ているようだ。

暑さをしのぐため、木陰に入っては涼を求める。水面に立って浮かぶのはオヒルギの実、いや、彼の説明では発芽して枝から落ちたものだそうで、植物の世界の「胎生」なのだそうだ。

本土のヤマツツジそっくりの、赤いサキシマツツジ、タイワンヤマツツジは区別しにくいが、沖縄でもこのあたりだけの植物。

白い毛玉が優雅なフトモモは今満開。ユウナの黄色い花も見られた。意外だったのは、夏の幻の花、サガリバナがもうつぼみを付けていたこと。これは知る人ぞ知る、沖縄だけの花。

ミフクラギ(オキナワキョウチクトウ)の丸い実の毒性も説明してくれた。時には陸地にあがって、巨大なサキシマスオウノキの板根やオキナワアナジャコの巣、オオタニワタリの葉の中で休むサキシマハブの話なども織り交ぜてくれる。

用意してくれた黒砂糖、冷えた麦茶もおいしい。彼の良いところは、西表に伝わる民話や歴史上の悲しい話も隠さず教えてくれる。

時々、川の水を舐めて塩分濃度も確認させられた。4時間にわたるカヌーツアーはこんなにも楽しくあっという間に無事完了した。

天然記念物「カンムリワシ」

何度来ても沖縄はいい。寒い地方の高山植物も嫌いではないが、こんな時期に道端のルリハコベやリュウキュウコスミレ、アワユキセンダングサの満開の群落に出合うと、沖縄の良さが分かる。

ホテルまでの数キロの道をわざわざ歩いていたら、島田青年が車で「乗って下さい。」と追いついて来た。「いやいや、歩いて帰りたいんだよ。」。

その訳はカンムリワシを見るためだ。

この鳥がここまでの道中、何度か電柱にいたのを知っていた。今日もいたぞ。すぐ近くでも逃げないのはこのワシの王者たる所以か。

実際、食物連鎖上の頂点に立つ。

カンムリワシ

帰路、途中にあった子午線記念館、「東経123度45分6.789秒」。うーん、でもこれ何進法?

この碑は真南の白浜でも見た。

西表島MAP

翌日はレンタカーで植物園や海岸を歩き回る。高さ20mのヤエヤマヤシの群落。一面星砂が散りばめられた星砂の浜、ここでは皆、泳いでいた。

水牛車で行く由布島はフイリソシンカが満開。

大原から水中観光船での遊覧など普通の観光旅行も一応しておこう。

船浦のピナイサーラの滝が見える河口では、片手が大きなカニ「ハクセンシオマネキ」の群れ。

古見のサキシマスオウノキ群落。

道路で側溝の工事をしていた。天然記念物のセマルハコガメが落ちないように傾斜型側溝に切り替えているそうだ。

沖縄や離島では、是非小学校に寄ってみることを薦める。島を代表する樹木が植えてあるからだ。そして、地方出版の本も勉強になる。スーパーで沖縄のみかん「タンカン」を買うついでに、こういう本を入手すれば植物の名前も覚えられる。


【クモガイ】

星砂の浜で拾った手のひら大の貝、きれいな形をしてみやげもの店でも売っている。

夕食後、ホテルに帰り、カバンから出して洗おうとしたら、中から足が出てきて動きはじめた。

まあ、驚いた。生きている貝だとは。

その夜、近くの浜に帰してやった。

見上げる満天の星空は見事だ。

皆が寝静まる頃、その貝が恩返しに現れる予定だったが、そうはいかなかった。恩知らずめ。