QJYつうしん145号 平成12年4月28日
花を探して登ってみよう・花知ヶ仙(1248m) 岡山県上斎原村 ザゼンソウの岡山県立森林公園
山の名前につられて
花知ヶ仙(はなちがせん)、なんて魅力的な山の前だろう。人間が単純だからすぐ行きたくなった。春が待ちきれないぞ。
岡山県の県北では今がちょうど桜の花盛り。
同時にミツバツツジの鮮やかな赤紫とタムシバの白が芽吹きの遅い山々を飾っている。
タムシバ
広島を遅い朝の出発(8:00)で、昼食は下界で済ませて登ることとなった。
地元名産「遠藤杉」の植林地帯の林道には雪が残り、ツクシやフキノトウが道路端に並んでいることにちょっと戸惑いを感じてしまう。
つまりタムシバやキブシ、マンサクは咲いているものの沿道には咲いているはずのスミレサイシンすら姿を見せていない。まだまだ雑木林も枯れ木の状態だ。何とミツマタが咲いているのだから。
それより相当な悪路で、車高のある4WDなのでかろうじて進入が出来ているという状態だ。
向こうからやっとすれ違いの車がやって来た。窓越しに挨拶し、この道が正しいことを教えてもらってほっとしながら更に進んで行く。
おかしいのはここまでの道にひとつとして「花知ヶ仙」の名前の案内が無い。
やっと看板があったのが登山口で、登り始めるのが午後1時。上斎原村が作ったきれいな看板には山頂まで740mと書いてある。
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雪道とブナの尾根
登山口から雪の中を歩く。
沢沿いのなかなか楽しい山道だ。トリカブトらしき葉とコチャルメルソウの咲き始め。雪解け水の冷たいこと!
600mと書かれた看板のある尾根筋(鞍部)に出るまでは何も咲いているものは見つからない。見上げる青空の美しさは抜群だ。
実はこの親切な看板はこれっきりであとは山頂まで何も無い。
登山口
尾根筋は左に雪渓が続き、背丈ほどのチシマザサとブナの林の急坂を登る。背後にそびえるのは三ヶ上山(1062m)だ。
やっと見つけたミヤマシキミのつぼみと赤い実。
ウリハダカエデと時折、花をつけたタムシバが現れる。ナツツバキ、リョウブは雪のせいだろう、根元が湾曲している。
エンレイソウやツルリンドウの葉が見つかるが、ほとんど休眠状態だ。
雪渓の上で一服しよう。雪渓と言っても純白の雪を想像してもらっては困る、半年間積もった雪は落ち葉が積もりくすんだ灰色なのだ。
雪の山道
好天気なので汗が出る。その時にリュックを下ろしたのがまずかった。出発時の背中の冷たいこと。
急坂を黙々と登り、登山口から1時間。
イヌツゲに囲まれた山頂は聞いた話よりははるかに見晴らしが良いぞ。2等三角点のそばに山の高さ(1247.5m)をあらわした標識が立ててあった。ツノハシバミやツツジが見られる。
夏なら完璧に見通しがきかなくなるだろう。
葉が出ていないので何の木か自信が無いが、一本登りやすい木があったので、よじ登ってみる。南に泉山(いずみがせん)がはっきり分かる。いずれ登ってみたい山だ。ここよりはツツジなど花が見られるはず。
南に泉山
この山頂の座れる広さは10坪程度か。大勢の登山者が一気に来れば逃げ場も無い。やはりチシマザサに覆われていて動きが取れないのだ。
結局、花らしいものは見当たらず、一番目立ったのは登山口のフキノトウだった。
それにしてもチシマザサの量はすごいものだ。スズノコと呼ばれる、いわゆるネマガリダケの竹の子は美味なのだがちょっとまだ出ていない。
下りは立ち木につかまりながらの歩行となる。先ほどの鞍部から500mくらいの地図上の距離を一気に250m標高差で稼ぐのだから、出発前からきついことは承知の上だ。
下りは当然さっさと歩けるわけが無い。滑らないように気をつけながら時間をかけてフキノトウの待つ林道に戻った。
一転、花の県立森林公園(2日目)
昨年「三ヶ上山」で泊まった国民宿舎から森林公園までは30分もかからない。この日訪れた目的はQJY134号で見つけたイワウチワの花を見るのが目的だ。
早朝来れたので、正門に近い場所に車を停める事ができた。帰る頃にはものすごい車の量だったのだ、さすが連休初日。
入ってすぐに目に付いたのがザゼンソウ。
ザゼンソウ
広島県内で見るヒメザゼンソウは伸びきった葉の陰に小さな花をつけるが、このザゼンソウの花(仏炎苞)はまさに座禅を組んでいる姿で土から直接出て咲く。
大きいものは高さ15センチ以上だ。
歩道のそばでキクザキイチゲが花を付け、キンキエンゴサク(ヤマエンゴサクとの差異は不明)、ハシリドコロも優雅に咲く。
湿原の多いこの公園には植栽だろうミズバショウがちょうど良い頃合いで咲いている。
流れのそばではまたまたザゼンソウ。サンインシロカネソウのかわいい姿も愛らしい。
リュウキンカ
遠くツツドリが歌い、スミレサイシン、コチャルメルソウもいい。おやミヤマカタバミだけは強い日差しが無いので開いていない。まだ朝早いせいかな?
可愛い花たち
中央園路の最奥から県境三叉路に向かって急ごう、イワウチワが咲いているか楽しみだ。登山道入り口という案内看板があるが、ここに来る人たちのうち三方にある1100mクラスの山に登る人は少ない。ほとんどの人は山の格好をしていないし、子供連れは登って来ない。
これほど長い山歩きを強いられる公園も珍しいのだ。でもQJY134号でお伝えしたとおり、この公園の良いところは自然あふれる山歩きが安全に出来ること。季節に応じて咲く花の数の多いことはなによりだ。
ただ、山道の露出したブナなどの根を踏んづけて登る人が多いのが気になる。滑るのを避けるためわざと根の上を歩いている人もいる。気軽に歩けると言うことはマナーを知らない人でも気軽に登れると言う事だ。
特に目に付くのが犬のクサリをはずして散歩する人。自分の犬だけは安全と思っているに違いない。私は犬が嫌いではないが、山で出会う犬は大嫌い。
マナーと言えば、ここは県立公園、何もここのフキノトウを掘って帰らなくとも、道すがらたくさんあると思うのだが、先が摘まれたフキを見かける。
さて、グチばかり言ってもしょうがないので、植物に目を移そう。
花をつけたタムシバやウリハダカエデ、ブナ、ナツツバキの大木が立ち並ぶ山道を、昨年の場所を思い出しながら登り始める。
ブナの花
イワナシがピンクの花を咲かせている。
イワナシ
目的の場所は非難小屋の近くだ。
あったぞかなりの群落だ。残念ながらつぼみがたくさんあるが花を開いているのは2〜3株だった。でも、念願の花イワウチワが見られた。
イワウチワ
千軒平の前後にはたくさんのイワナシ群落が花を見せてくれた。これほどの量のイワナシを見るのは初めてだ。
例年なら満開のイワウチワはちょっと早かったが、その分イワナシは満開状態。ふもとに下りるとまたザゼンソウが次々と現れる。
イワウチワの遅れを詫びるかのように、イワナシとザゼンソウが時間を忘れるほど咲いていてくれた。ヒメモチ、アオキ、エゾユズリハ、タムシバ、マルバマンサクやブナ、ムロモジ・・・。
ここでは花知ヶ仙と違って遅い春の中にも確実に暖かい息吹を感じることが出来るのだ。