QJYつうしん 第148号 休日は山にいます 平成12年9月2日

私にとっては魅惑の名山

ミヤマウズラが涼しく咲き乱れる

石城山(360m)山口県田布施町











大好きなラン

この時期に出かける石城山(いわきさん)をどれほど楽しみにしていたことだろう。

ここに来ることこれで三度目。

過去二度の調査をムダにしないためにも、9月が来ることがどれほど待ち遠しかったことか。今まではふもとの柳井市余田にある名勝「臥龍梅」を見るために2月にここへ来るのが常だった。

その余田から西へ4キロ、石城山はちょっとしたハイキングとお弁当を食べる山でしか無かったのだが、山道にあるすさまじい数のミヤマウズラの独特の斑入りの葉を見るに付け、いつかは花の時期に来なくては・・・と密かに思っていたものだ。

そもそも私の花の写真の撮り方は、前年見つけた群落の予感を実現することで満足する。それは15年以上も前のこと、大万木山で見つけた大きな葉の丸い実を見て、サンカヨウに違いないと確信し、大山が南限と図鑑に出ているサンカヨウの花を翌年見つけた時から始まる。

日程を定め、目的の花に出会った時ほど嬉しいことは無いのだ。

で、本日の目的の花はミヤマウズラ(ラン科)。

葉っぱの模様だけでも美しいこの花は、早秋の白い花が咲くととても涼しげで、同時に聞くツクツクボウシの声とともに、秋の代名詞となる。

ミヤマウズラ

シュスランの仲間らしく見事な花の構造と、ネジバナにも似た八方美人的な咲き方、何よりウズラの模様に似ていると言う斑入りの葉っぱの美しさ、なかなか群生しない気品の高さは数ある小型和製ランのトップレベルにあると言って過言で無い。

ちなみにランの群生は、最近見つけたものでは「もみのき森林公園」のユウシュンラン、「大万木山」のアケボノシュスランなどがある。ミヤマウズラはこれらと並ぶ中国地方を代表する小型ランの代表格だ。

歴史の山

この山の特徴は「日本書紀」にも出ている大和朝廷の城跡だ。

白村江で大敗した日本は新羅・唐連合軍からの侵攻に対して、国を守らなければならなかった。

長門城(ながとのき)と呼ばれる幻の城はこの山城であると言われる。しかし、実際にはこの言い伝えの他、石城山城は見つかった土器などから平安時代よりあとのものであると言う説もある。第一、福岡県ならともかく、山口県のこのあたりに朝鮮からの侵攻を食い止める城があったなんて見当違いもはなはだしい。

平坦なこの山塊には車で上がれるため、登山者の人気は今ひとつで、特に山頂三角点などはどこにあるのか今もって関心が無い。

厳密には同じような高さの峰が5つ集まっていて、4等三角点は最高峰より10メートル低い、というあまり自己主張の無い山である。

しかし石垣が組まれ、水門の跡など歴史的価値は相当なもので、大内氏以降明治維新の歴史などの豊富な山口県にこれほど太古の遺物があることに感心させられる。

ともかくも、歴史的遺産でもあるこの神籠石式山城を一度は訪れて欲しいものだ。

ミヤマウズラの群落

この山がたった360メートルの標高しか無いのに深山に咲くミヤマウズラがあることはちょっと意外である。それも大量に。

トイレのある広場に車を置き、楽しみの散策を始める。山道にはヤブタバコ、キンミズヒキなどが点々と咲いている。コバノミツバツツジ、ヤブニッケイ、タカノツメなどごく普通の植物。こんなところにミヤマウズラが?と誰もが思うだろう。

山道を歩く人はいないらしく、ちょっと歩けば顔にひっかかるジョロウグモの巣がちょっと鬱陶しい。木陰をずっと歩けるのがこの季節には嬉しいが。

雨に降られるかと思ったこの日だが、青空が見えている。だから暑さは強烈だ。県北の山と違って沿岸部の低山。ガイドブックを読んでも「夏以外ならいつでもいい。」と登山シーズンの説明が書いてある。

すると歩き始めて、ものの5分と経っていないのに本日の大スター、ミヤマウズラがたくさん並んでいた。照葉樹林から落ちる枯葉がじゅうたんのように山道を覆いつくし、この花の重要な栄養源になっているようだ。


map

 

リンゴのような実をつけたヤブツバキ。ユズリハやアラカシ、ハイノキなど。おや、コシアブラの実がなっている。

山道に沿ってたくさんの神社が並ぶ。

若宮社を過ぎ舟石まで165メートルの看板。

物部神社、五十猛神社など島根県大田市を想像させる名前も並ぶ。石城山最高峰・高日神社への分岐道など小道も多く、案内看板の地図は出発時にメモしておくべきだ。

相変わらずクモの巣を杖で払いながら歩かなくてはならない。道の両側に点々と続くミヤマウズラの清楚な白い花。頭上から降り注ぐツクツクボウシとアブラゼミの声。

土の中にはオオスズメバチの巣があるぞ、危険な季節がやって来た。刺激を与えないように早めに遠のくこととする。

それにしても開いた口がふさがらないとはこのことか、どうして?と思うくらい大量のミヤマウズラ。今までこの花は一本ずつしか咲いているのを見たことが無い。それがここでは群落だ。

他の花が全然無いのにこの花だけが咲く。高さはどれも20センチ以上あり、栄養状態がいい。ルーペで確認すると細かい毛に覆われた花びらや花茎。終わった花よりつぼみのほうが多いか、つまり今日は一番の見頃だ。

東水門までは30分もかからないで到着。水気があるせいか沢ガニまでいる。

ここから北門まで250メートル。早秋の姫君、ミヤマウズラはまだまだ続く。見えなくなったな、と思っても10メートルも歩けばまた現れる。10株くらい固まった群落も。花茎をつけていない葉だけでも多い。

ハイノキやツワブキの葉を見る。

「夜泣き石」という何やら言い伝えを聞いてみたい石、アキノタムラソウが多くなった。

コウヤボウキやシロダモも。

ぐるり一周、もとの場所へ

北門から北水門へ回ろうかと思ったが、昼食時間を過ぎてしまったのでここから南に上がり、車を置いた場所へ戻ろう。

ジャノヒゲ、フユイチゴ、シュンランの葉、ヤブランの紫色の花も目立つ。

もうこの辺には無いだろうと思っていると、ブッシュの中に白い花の穂が立っている。今日は何と嬉しい一日だろう。求めていた花に出会えるのは最高に気持ちがいい。それも日程を予想し、出かけて来たのだから。

ここの土壌の何がミヤマウズラを育てやすくしているのだろうか。落ち葉はしっかり山道を埋めている。適当な日陰、湿り気が良いのかな。

まだまだブラジャーを干していないヌスビトハギも見つかった。黄色い花はブタナ、白い花はヒヨドリバナ、クズの赤紫も彩りを添える。

トイレのある出発地点が見えて来た。

周囲は桜の名所になっているのだろう、数多くのソメイヨシノが植えられている。残念なのはテングス病が蔓延していること、これは昔初めてここへ来た時から知っていた。

田布施の町並みを見下ろせるお堂で一服し、秋風にあたるのもいいだろう。今回は回らなかった西水門、北水門、三角点なども見所である。

JRなら岩田駅からの登山ルートもあるが、これだけ簡単に車で上がれる山は、登山はあきらめて周囲をめぐる山道を散策するのがいいのではないか。

古くから信仰の山であり聖域としての石城山は、そのお陰で豊かな自然を残し、植生を誇っていることを中島篤己氏は「山口県百名山」で述べられている。

これ以上便利にならないでここのミヤマウズラがいつまでも見られるように保護して欲しいものだ。

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QJY通信社   休日は山にいます     真鍋節夫