QJYつうしん 休日は山にいます
トムソーヤになってみるかい ルイヨウボタンの谷とワサビ滝

吉和村・中津谷渓谷

2001・5・20

足掛け5年のサンカヨウ

吉和村にはたくさんの山や谷が存在する。多くは西山森林組合の所有する、言わば個人資産であるから植物伐採はもとより山菜の採取も控えなければならない場所だと言える。

私の趣味は山野草の写真を撮ることだから、この時期、多くの人達が山に入りこんでウドやフキを採っているのと一緒にされたくないのだが。

それでも5年前にはここの組合員に連れられてワサビやウドを採りに入ったことがある。

ウドは日本のセロリと言われる「味」はもちろん、植物そのものの希少価値があって見つけること自体が「楽しさ」でもある。

知らない谷に入りこんで、そこがウドの宝庫であったりワサビがたくさん自生していたりすると採らなくても嬉しいものだ。

これは男子なら誰でも持っている「冒険心」がその意欲を高めてくれるのだと思う。子供のころは日暮れまで山で遊びおなかがすいてから家に帰ったものだ。トムソーヤの冒険心を誰もが持っていた。秘密の場所を見つけたら親友を連れて教えてやったものだった。そしてその友が自分の秘密基地を教えてくれる。

今、私達が山に入っているのはその頃の気持ちと寸分違いが無い。

5年前の5月、その時は山菜が目的だったが、ここでたくさんの貴重な植物に出合い、写真を撮っては喜んだ。

最大の発見はサンカヨウだろう。
サンカヨウ

大山が南限と言われる植物が大万木山や猿政山などで見つかってはいるが、ここにあることは誰も知らないはず。サンカヨウはとても人気の高い花で私自身も大好きな植物のひとつでもある。

ルイヨウボタンの谷

中津谷渓谷は満開のキシツツジを見に来た人、山菜採りや釣り人で大変な賑わいを見せる。そうか、今日は日曜日なのだ。

車がやっとすれ違う狭い国道を早めに抜けて目的地を目指そう。

その谷に出かけるのは、今年だけでもう3度目になる。入り口には色の濃いオオヤマザクラが咲いていた。北日本を代表するヤマザクラだ。ここの植相が中部以北のものに近いことのひとつの表れ。

そしてこの近辺にサンカヨウがいくつか咲いていることに大きな驚きを感じていた。

それならばさらに上流には群落が存在し、もっと珍しい花も見られるかも知れない。そう考えるとトムソーヤとしては、居ても立ってもいられない。

今日はやはりこうした冒険が大好きな友人と三人で出かけることとした。

谷の名前はもちろんあるはずは無い。

しかしトムソーヤは何でも自分のものにしたがるので、この谷を「ルイヨウボタンの谷」と勝手に名付けて呼んでいる。それはルイヨウボタンをかつてここで見たこと、そして翌年土砂崩れで大好きな秘密基地を失ったことが心から離れないから。

2〜3年おきに川が氾濫し、山道が無くなる場所だからいつも心配だ。

今年は5月の初旬から花芽を付けたルイヨウボタンを確認している。そして今、花の時期にはあちこちに満開状態で我々を迎えてくれた。

ルイヨウボタン

イヌガンソク、リョウメンシダなど地味なものに混じって存在感があるのがヤマシャクヤク。テニスボール大の白い花を咲かせている。

最近雨が降らないことでこの谷の水量はとても少ない。多ければ沢登りを覚悟しなければならないが、今日は長靴でもはいていれば十分だ。

そしてサンカヨウの最初の群落に出合う。

花が咲いている時のサンカヨウはミス・フラワーの栄冠に輝く日本一の美人ではないか。これほどこの花が好きになったのはかつて大万木山で発見し翌年時期を外さないようにと何度も登りデートを申し込んだことが忘れられないから。

サンカヨウを漢字で書くと「山荷葉」、葉がハスの葉に似ているという意味になることを今日の同行者、府中町の漢方医・吉本氏が教えて下さった。ここのサンカヨウは中国地方のどれもがそうであるように、葉の切れこみが目立つ。ちっともハスらしくない葉である。

ルイヨウボタンとサンカヨウ、いずれもメギ科であることも偶然か?

支流の谷とサルメンエビネ

ゴロ石の沢をよろよろしながら登る。

コチャルメルソウ、チャルメルソウは定番の植物だ。ウワバミソウ、エンレイソウ、ワサビも並んでいる。ここで左の小さな谷を確認してみよう。

シコクスミレ、ワチガイソウは2週間前はきれいに咲いていたが今は葉が残るのみ。

クロタキカズラがスマートな花をつけていた。

もう一度気を取り直して、先に進もう。

クロタキカズラ

大きなエビネの葉はサルメンエビネだ。今月初め、花を見る前からサルメンに違いないと確信していたから、咲いているのを見ると感激。とても崩れそうな場所を選んで咲いている。「高嶺の花」と呼ぶべきか、何故か崖っぷちの好きな植物。

次回の土砂崩れでは消え去ってしまうだろう。

サルメンエビネ
猿の顔を意味するその名のとおり、赤みがかった大きな花はなかなか優雅だ。

ヤグルマソウはそろそろ咲くのかな。ニリンソウの群落にも出合う。ウドも多いがシシウドもある。ハスノハイチゴが多いのは冠山系らしい植相。

そして入り口から400メートルで「ワサビ滝」があり、ジ・エンド。右手にはサンカヨウ群落。左手はウドがたくさん。

この滝には以前だまされた思い出がある。滝のすぐ横にサンカヨウらしき花をつけた丸い葉があったから。実はそれはニシノヤマタイミンガサとワサビの白い花の組み合わせだったのだ。

それ以来この滝の名は「ワサビ滝」。ワサビおろしのような小さな壁のナメラ滝だ。

すべりそうになりながら滝を登りがっくり来たと言うわけ。でもウスギヨウラクがかわいい花を見せてくれたことで苦労が報われた。

見上げればウリハダカエデが花をつけて、晴天の青空がとてもきれいだ。

ところで元広島大学教授の関太郎氏もこの地にサンカヨウが存在することを評価されているそうだ。

吉和村の秘密基地

トムソーヤとしては余り多くの人にはここを知らせたくない。ここだけでは無く、吉和村一帯に秘密基地を隠し持つ私や友人にとって、自分自身が安らぐ場所でもあるのだから。

だからここに来るときには腕章をして、万が一、貴重な植物を持ち去る人がいれば、注意することとしている。

先日は午後3時から冠山に登った。

すれ違う人が心配して声をかけてくれる。「今から登るのですか?」「いえいえ、その辺から引き返しますよ。」

私は山頂を極めるために山に登るのでは無いから、3時でも大丈夫。この日はクロフネサイシンを見るのが目的だった。前年の夏、スミレサイシンの成長した大きな葉と並んで、そっくりなアオイの仲間の葉を見て、花の時期に確認しておかなければというのが今年の課題でもあった。

ウスバサイシンかクロフネサイシンかの判別をしたかったのだ。

結論はクロフネサイシンだった。

めしべの柱頭の数=3で区別出来る。

クロフネサイシン

エイザンスミレ、ヒメナベワリ、ヤマウツボ、タチカメバソウなど広島県の希少な植物がここではあたりまえにある。

カタクリやサラサドウダン、オオヤマレンゲを知っている人は多いことだろう。

細見谷のきれいな水も捨てがたい。

ウリノキ、マタタビ、トチノキの花、ミズメやキハダの幹が教えてくれた樹木のさまざまな様相。植物好きな私を育ててくれた土地でもある。

立野キャンプ場から戸河内町方面にかけても楽しいドライブができる。オニグルミの実を拾いながら瀬戸滝で遊ぶ。タニタデやミズタマソウなどを教えられた。

今日,帰りに寄った「もみのき森林公園」も好きな場所のひとつ。

昨年はさすがの友人もこれほどの群落とは思わなかったと舌を巻いたハルリンドウ。もっともハルリンドウは芝により持ちこまれている他県の産だ。そして全山を埋め尽くすオトコヨウゾメの花、公園のシンボル、モミノキの根元にユウシュンラン。
ハルリンドウ

ツタウルシを避けながら吉本氏が寝転んで写真を撮っている。その上をもうひとつの「春の妖精」ウスバシロチョウが優雅に舞っていた。

トムソーヤが遊びまくった一日。