QJYつうしん 163 休日は山にいます
2002年1月5日
新年初めの山歩き
鳥の気持ちで木の実を探す
広島市西区・宗箇山(356m)
三滝寺
もうお昼前、驚くほどのいい天気だ。寒い時期だが日当たりのよい山ならさぞ気持ちよい山歩きができることだろう。市内の山ならこんな時刻からでも登れるからうれしい。
多宝塔
三滝に行こうと決めたのはどこかお参りをしておかなければという正月らしい素直な気持ちからだった。中心部の護国神社はさぞかし人が多いだろうから、近場では三滝の観音さんが手頃だ。
お寺の前に車を置いて、奥へ奥へと歩いて行く。何度も歩きなれた山だ。境内の案内図では三滝山と表示されているがこれは山塊の総称で、山頂としては「宗箇山」。
今年最初の山歩きはこうして宗箇山になった。
道の途中に鐘楼が道を塞いでいる。正月の記念にひとつ撞いてみるか、ゴ〜ンとNISSANの社長みたいな名前の鐘の響きが心地よい。
マンリョウ、センリョウとおめでたい植物が真っ赤な実をつけていた。ジンチョウゲとミツマタはまだまだ遠い春の花、ナワシログミは市内の山ならどこでも見かける。
おみくじを引いてみたら「大吉」、今年は幸先いいぞ。
奥の滝からの流れに沿って歩いている。だんだん山道らしくなってきたぞ。薄暗い竹林があり、続いてウラジロの群落、やっと陽が差し込んできた。
尾根筋へ
ネジキやリョウブの林を進むと赤い実が目に入ってくる。サルトリイバラとソヨゴだ。
出発
山道の両側にコシダが現れた。こんな冬でも明るい緑のコシダは美しい。反対にドライフラワー状態の植物はコウヤボウキ、枝の先端にピンクがかった毛玉をつける。
鉄塔を通り過ぎ、広島市内を見下ろせる小さな展望地に出た。荒地だが日当たりは良い。さっそく周辺の植物を調べてみよう。
5〜8センチの長さの豆をぶら下げている高木はハリエンジュのようだ。別名ニセアカシヤ、初夏には芳香のある白い花をつける。
ハリエンジュ
ホオノキまであるぞ、オオバヤシャブシは昨年の実と春の雄花のつぼみをつけている。
シャシャンボにも実がついている。どうやら今シーズンの実のなり具合はとても良かったようだ。
左・三滝少年自然の家、右・宗箇山山頂(900m)とある分岐点の手前に瀬戸内海沿岸らしいつる性植物があった。花をつけたツルグミだ。
他の植物に巻きつくのはつる性植物だから当然だが、あまり絡まり方は上手なほうではなく、枝の途中にところどころ返しの小枝があって、他の樹木に寄り添いひっかかって伸びている。
そんな観察の仕方をしていると植物も面白いよ。面白いといえば、グミは離弁花の仲間であること、形からすれば信じられないが、花びらのように見えるのは「がく」で、花弁は存在しない。図鑑で合弁花として探していても見つからないのだ。
分岐点を右にとり、木漏れ陽の中を楽しく歩く。冬山でも雪に足をとられるわけでもなく、時折吹く風さえしのげば、これほど楽な山歩きはない。
ヤブツバキ、アラカシ、カクレミノ。
アベマキに「クヌギ」と間違った表示をしているのは気になるが、樹木名板を親切につけてくれている。
おやクスノキがあるぞ、鳥が運ぶのだろうね。そっくりだが葉のつき方が微妙に違うヤブニッケイもあった。そうか、鳥の気持ちで実を探してみるか。
高いところに小さな赤い実をたくさんつけているのは何だろう。落ちている実の先端にはバラ科風のヘソがあり、常緑の細い葉には非常に細かい鋸歯もある。
幼葉の色がやや赤っぽい、そうかカナメモチだ。一本だけあると名前が出てこないものだね。
ネズ、クヌギ、タマミズキも赤い実をつけている。暖かい日差しに歩きやすい山道、クロキ、ムベ。
ちょっと奥の山なら多いはずのクロモジがやっと出てきた。
そう言えばこの山には春にシュンランが咲いていたのを思い出した。子供のころはもっとアカマツが多くて松茸もたくさん取れた山だ。
山頂の松
宗箇山は別名を植松山といい、浅野藩の家老で上田重安という人が和風堂(茶屋)からの借景としてこの山の山頂に赤松を植えたことから名がついたといわれる。
重安は号を宗箇としたことから、のちにこの山を宗箇山と呼ぶようになった。
この松は良く育ち、高さ12mに達したというからそれは市内からも見られたのであろう。しかし、落雷で折れ、2代目は戦争中に伐採され、3代目は昭和に枯れ死した。
現在あるのは4代目。平成10年11月29日に植えられたもので竹で囲ってある。さらに近辺にはもしもの時のスペア松も植えられていて、万全の体勢のようだ。
ちなみに4代目は成長点を切られ、むやみに伸びないようにしてある。
ゆっくり登っても1時間でこの山頂に立つことができる。何人かのグループとすれ違い、声を掛け合った。優雅な山歩きだ。
頂上の自然観察もしてみるかな。
実をつけているのはクロキ、花も咲いているぞ。ヒサカキ、コバノミツバツツジ、ソヨゴ。アセビはまだまだつぼみの状態。ツルグミ、ネジキ、ヤマハギ、タブノキなど。
山頂
市内を見下ろす楽しい山、おっと我が家も見えるではないか。ちょっと急だが下山路はそのまま進んで、三滝寺の入り口、多宝塔に向かう。
下山
ナツハゼ、ネジキの山道、ウリカエデが意外に多い。この下山路で目立つのはコバノミツバツツジとヤブツバキ、ヤダケ。
特に木肌の白いヤブツバキはつぼみをたくさんつけている。
途中の大岩によじ登ると市内がもっと良く見える。呉娑々宇山や黄金山。ビルの町並みに隠れた比治山の低いこと。
アオハダの木に赤い実が。エナガらしき野鳥も飛び交う。足元にはフユイチゴの赤い実。
さらにヤダケが多い。クロバイ風の木肌の大木。歩く道には枯れ葉が積もっているから、一緒に滑らないように気をつけなければ。
タマミズキ
しかし、枯葉を踏んでの山歩きは大好きだ。静かな山にさくさくと足音。
山道が谷あいに入り込む場所、最後の分かれ道だ。反対側には変電所が見える、その先は長束方面で、春にはヤマザクラが咲く。
テイカカズラの綿毛が落ちていた。
水のある場所にはアケボノソウの一年目のロゼットがある。
50年前に和歌山県の広八幡神社から移設されたという、県重要文化財の多宝塔に向かい歩き始めると、先ほど撞いた鐘の音が聞こえてきた。昔からお寺の鐘がなる頃には家路についたものだ。
かまえなくとも山歩きが楽しめる、正月ならではの陽だまりの山「宗箇山」は今がシーズンなのかも知れない。
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【編集後記】
平和大通りの一部分を観察会で歩いてみた。日本中から贈られた樹木は50年近くたってどれも大木になっている。
実をつけたユリノキ、ヒマラヤスギ、ハリエンジュ、シマトネリコなど。アメリカサイカチの包丁のような大きな豆、どんぐりや冬芽も観察できる。
自然観察は身近な場所で、を実践する観察会はこんなにも楽しいものか。芝生には春の七草の一部も見られた。樹木をあらためて見直すことができる自然観察会にあなたもどうぞ。