QJYつうしん 166号 休日は山にいます
シハイスミレとヤマルリソウ
春の山歩きと花めぐり
本串山(573m)広島市安佐北区
わかりにくい登山口
久地冠山(573m)に登ったことがある人なら、太田川をはさんで向かいにある山が気になったことだろう。同じ高さの本串山(もとぐしやま)は舐めてかかると十分鍛えられてしまうきつい山である。
R191をまたぐ飯室の踏切から加計方面に太田川を左に見ながらのドライブは咲き始めたキシツツジに魅了される。
JR可部線の布駅に車を置き、線路を加計方面に50メートル、踏切の無い線路を越え、はじめて山道を見つけることが出来る。
標高差500メートルをクリアしなければならないだけでなく、たくさんのハイカーが訪れる人気の山ではないことで、この山はある程度「山歩きに自信のある人」向きの山と言えるだろう。
駅の周囲にはウマノアシガタが黄色い絨毯を広げていた。スミレ、カキドオシ、クサイチゴ、シロバナタンポポ、セイヨウタンポポなどが満開の春を楽しませてくれる。
<ウマノアシガタ群落とオニタビラコ、コウゾリナ>
竹林を抜け、中電の管理道をまっすぐ進み、鉄塔77号への道を選ぶ。ここが唯一の間違いやすい場所、右へ行ってはならない。なお、この番号は久地冠山に延びている中電の送電線の鉄塔の番号で、この山のポイントにもなっているので場所の確認に利用できる。もっとも鉄塔のどこにもこの番号は表示してないのだが。
曇り空だが雨の心配は無い。この山道で雨になると、崩れかけた危なっかしい所が結構あるので、降らないにこしたことはない。
77号鉄塔へ
左に太田川、久地冠山を見ながら歩く。
キクバヤマボクチの葉やコウヤボウキの枯れた枝が見られる。樹木はシロダモ、タブノキ、クロキ、アベマキなど、おや白い花のムベが咲いている。山道はヤブツバキの赤い花が点々と散らばり、コウゾ、ヤマコウバシなども花をつけている。
<ムベ>
ウグイスカグラは花を終えて、コガクウツギはつぼみを抱いている。
ただでさえせまい道をイノシシ君が掘り起こしているものだからちょっと歩きにくいなあ。アキチョウジの春の葉、ウマノアシガタやヤエムグラが確認できる。あれ、キシツツジがこんな山の中に咲いている。ヒラドツツジ並みの大型ツツジだ。
タチツボスミレ、コタチツボスミレが咲いている。おや、珍しいスミレが、アカネスミレだ。
<アカネスミレ>
北海道から九州まで分布域があるとはいえ、広島などでは滅多に見ない。この周辺にかぎり、いくつかの株を見たが、今来て良かった、来週ならもう咲き終わっていた事だろう。
良く似たコスミレとの見分けは、側弁の付け根に毛があること。
急に開けて、オレンジのペンキ塗装もみずみずしい77号鉄塔に出た。ここで休憩しよう。下には太田川に沿ってR191が走っている。太田川は緑の水の流れとピンクのキシツツジ、天下を取ったような優雅な気分。
車の音はするものの、シジュウカラのさえずりを聞きながら緑の中で休む。ああ、ここが広島市内だなんて。
この後もいくつか鉄塔を通るが、鉄塔のある場所は日当たりが良いせいか、ワラビがたくさん伸びていた。
コバノガマズミやサルトリイバラ、コナラが花をつけているぞ。ウリカエデも可愛い花を見せる。こうやって花の観察が主体になるからなかなか前に進まない。
<ウリカエデ・スノキ・ムラサキケマン・サルトリイバラ・ヒメハギ・キシツツジ>
76号〜75号鉄塔へ
続く道も結構急坂だ。
アカマツ林の坂を一生懸命登って行こう。チゴユリがもう咲いている、ササユリの葉も見つけた。
ネジキ、リョウブ、鳥の声が混じり、新緑の春山はさわやかだ。足元にシハイスミレが顔を出し始めた。かがんで香りを嗅ぐと、バイオレットの素晴らしい香り。
ニオイタチツボスミレに劣らない香り美人は斑入りの葉を持ったものも多い。花にも美人がいるのだなあ。
76号鉄塔も広い芝原となっていてワラビがちょうど摘み頃だよ。
アセビも赤い幼葉をきれいに見せてくれる。
<ナガバタチツボスミレ>
<シハイスミレ>
くりかえし現われるスギやヒノキの植林地、ミヤコアオイがきれいな葉の下に地味な花をたくさんつけていた。特にここの葉は姿がいい。
あいかわらずきつい坂道だ。それでも疲れを感じないのは、ほらシュンランが咲いているから。
アップダウンは2度目、時刻は気がつくとお昼になっている。ここでお弁当を食べてしまうと先がしんどくなりそうだ。この谷でお茶にしよう。
クロモジ、コナラ、サルトリイバラ、ナガバモミジイチゴは満開状態。足元に赤紫のスミレが・・・と思ったらコバノミツバツツジが花を落としていたもの。お茶をいただきながら周囲の樹木を見ると、おおこんなに咲いていたのか。
カラスザンショウ、ソヨゴ、コハウチワカエデ、イロハカエデと今日初お目見えの植物が出てくる。
そして登り道はスギ、ヒノキの植林。たどりついた75号鉄塔の周囲もワラビだらけだ。今夜は春の山菜の代表を味わえる。
74号鉄塔へのお花畑
道を下って右折すると、こんなに下がっていいものかとちょっと考えてしまう。しかし途中途中で「広島市青少年野外活動センター」が掲げた地図があり、また赤テープもあるので心配は無い。そんなところが、この山が初心者にはちょっと難しい山だと言える理由だ。
さて、シハイスミレがまた多く出てきた。固まって咲いているものもある。シハイスミレは花の色も濃く、葉の形も色もしっかりしているので山歩きには嬉しいスミレだ。
マルバスミレらしき葉、おや次の葉はエイザンスミレだ。残念ながらどちらも花はない。
ミヤコアオイ、マムシグサ。
ヒノキ林を進むと、山道に沿ってヤマルリソウが次々に現われた。大きな群生もあるぞ。今が最高の時。ジュウモンジシダやキバナアキギリの葉。
<ヤマルリソウ>
日陰の小さな沢、この後もいろんな花が出てくるに違いない。クサイチゴが群生している。
更に見頃のヤマルリソウが続く。あまり日の当たらない小さな谷で、明かりを灯したようだ。
木の橋を渡って、右の道を進み、赤テープさえ見失わなければ最後の尾根道に入る。
最後だ、がんばれ
ウラシマソウが元気良く伸び始めていた。いったい何種類の野草を見たのだろう。
74号鉄塔に向かって進むと、松葉が敷き詰められたヒザに優しい山道になる。谷からの涼しい風が気持ちいい。
木の階段を5分上がれば山頂はすぐそこ、チゴユリが咲き、ホチャクソウも立ち上がっている。ここでも素晴らしいシハイスミレの歓迎を受け、ミヤマシキミの花がにっこり微笑む。
誰が作ったか、木で組んだ山頂を示すやぐらが建ててあった。残念ながらこの山頂は見晴らしがきかないが、すぐ先に73号鉄塔があり、白木山方面を見渡せるので問題無い。
やっとゆっくり昼食をとれる。
<頂上にて>
この広場の周囲にはザイフリボクの白い花が咲いていた。近づくと空の色に溶け込んで見つからなくなる。
帰路は、このまま進んでJR安芸飯室駅方面に下ることも出来る。ただ、車を置いたJR布駅まで丁度列車が来れば良いが、歩道の無い国道を歩くのはちょっと辛い。やはりピストンで引き返そう。
<新緑の山道>
途中、掲示してあった地図どおり、野外活動センター(牛頭山)への縦走を試みるのは子供達にはちょっときつすぎるような気がする。こんなことさせてたら、山が嫌いになっちゃうよ。
雨に遭うこともなく、また他の登山者にもまったく逢わなかった。それだけ知られていない山なのだが、なかなか手ごわい山だった。
手付かずの自然が残っているわけだね。久しぶりの山歩きはこんなにたくさんの花に迎えられた。