同窓会

 

(5) 出発

 結局、チナツの家に来たのは、シンジ・マサフミ・ユウコのほかにカツ・ヒデ・ヒトシ・マサオ・アキヒロ だけだった。女のコは、全員家庭を持っているか、また次の日がバレインタインデーなので、帰ってしまった。
 そして、みんながチナツの家で落ち着いた時。
「わりーわりー」
 ケンイチがやってきた。
「おそーい」
 ユウコはケンイチの背中をたたいた。
「これでも急いできたんだぜ」
 ケンイチの言葉通り、ケンイチは作業服のままだった。
 それから、どれ位時間が経ったであろうか、話が尽きることなく続いたのだ。
「腹減った」
 ケンイチは急いできただけあって、何も食べてきてないようだった。
「じゃ。何か作ろうか」
 カツは台所の方に向かっていった。カツは、一流ホテルでシェフをしている。そのカツが腕をふるうのだ。 どんな料理ができるのか、9人は今から楽しみになっていた。
「たいした物ないよ」
 チナツの家の冷蔵庫を見ているカツにいった。
「大丈夫。これだけあれば」
「本当」
 チナツの家の冷蔵庫は、確かにそんなに材料はなかった。しかし、彼が自身を持っているのに、チナツは半信半疑 であったが、彼を信じることにした。
 チナツが部屋に戻ってくると、みんなは双子談義で盛り上がっていた。今日出席している、マサオとアキヒロ はともに双子の兄弟がいるのだ。
マサオにはヨシオという弟が、アキヒロにはタカヒロという弟がいたのだ。マサオの所は一卵性だが、 アキヒロの所は二卵性だとか、アキヒロとタカヒロが知らないうちに同じ女性を恋をした話や同じ場所を骨折 した話などをした。
「こんなこともあったな」
 マサオが思い出したかのようにいった。
「オレ達兄弟って、1年間離れて暮らしていた時期があったんだけど、良く同じ夢を見ていたんだ」
「それって同じ夢?」
「いや。内容は全く違うんだ。旅行行ったり、誰かと遊んだり、内容は様々なんだ。でも、次の日に ヨシオに電話してみると、見たって言うんだ」
「俺のところはないな」
 アキヒロもその話には感心していた。
「1年も離れていると、そうなるみたいだ」
「へぇー」
 みんなが、不思議体験を聞いて声をそろえた。そして、又もや不思議なことが起こるのである。
「できたぞ」
 台所にいたカツが、料理を運んできた。
「まだまだあるから、手伝って」
 そして、テーブルには、大皿にチャーハンが盛られ、サラダ・ニンニクチップ・カルパッチョの4品が 並べられた。
「どうして」
 1番驚いているのはチナツであった。それもそのはずである。チナツが1番冷蔵庫の中身を知っているからだ。
「やっぱりプロだよな」
 ケンイチは、既に小皿に自分の分を盛っていたのだ。そして、誰よりも早く食べてしまった。
「うまい」
 ケンイチが叫んだ。そして、それに続いて。
「うまい」「うまい」
 全員が口をそろえた。
 カツもみんなのその言葉を聞いて、ひと仕事を終えたという感じで、ソファーにドッシリと座り、足を組んで ワインの注がれたグラスを持ち、そのままグィっと一気に飲み干してしまった。
 そして、それからどれ位の時間が経ったであろうか、みんなが若干うとうととし始めた時。
「じゃ。明日仕事だから帰るわ」
 マサオが立ち上がり、帰り支度を始めた。それを機会に。
「おれも」「おれも」
 と時間の多少のずれはあったにせよ、朝日が昇る頃には、いつものメンバーしか残っていなかった。
「前にもこんなして寝たっけ」
 ケンイチが寝ぼけた声であった。
「キャンプの時な」
 シンジもそうだ。
「狭いテントでね」
 チナツもテーブルに顔を伏せたままだった。
 そして、段々と口数が少なくなり、いびきをかく者まで現れ始めてきた。そして、今まで1番おとなしかった ユウコが、この時を待っていたかのように起き始めた。そして、みんなが寝ているのを確認すると 自分も帰り支度、というより何処かへ出掛ける準備をはじめた。
 そして、ユウコがみんなに気を使いそっとドアを開けようとすると。
「何も言わないで出て行く気」
 チナツの言葉にユウコが振りかえった。
「そうだ何か言ってけ」
シンジも口を挟んだ。
「だって、みんな寝てたジャン」
「いや。今でも寝てるよ。これ寝言」
 さっきまでいびきをかいていたケンイチまで起きていたのだ。
「そうだ、寝言だぜ」
 マサフミも続いた。彼らは、ユウコが今日旅立つのを知っていたのだ。そして、ユウコが、いつそのことを 行ってくれるのかを待っていたのだ。
 確かに、まともに起きてユウコを見てしまったら、涙が溢れてしまう。そんな別れは、いつも陽気なユウコ には似合わない。だからこそ、4人はそれぞれが寝たフリをしているのだった。
「チナツね。みんなに喋ったの」
 実は、彼との約束を破ってまで、同窓会に出席させようとした喧嘩の時、ユウコはチナツにこのことを打ち明けていたのだ。
「私知らないよ」
 チナツはあくまでもシラを通している。
「ばか」
 ユウコは既に涙声になっていた。
「私、今日のこともみんなのことも忘れないから」
「あったりめーだ」
「そうだ。オレ達はどこにいても仲間だからな」
 シンジやケンイチの言葉に、ユウコは只うなずくだけだった。そして、4人とも彼女のその姿が、まぶた の裏側に映って見えたのだ。
「じゃあね」
 ユウコは絞り出した声で、みんなに別れを告げた。彼女自身これ以上いたら、別れがつらくなるからだ。そして、ユウコ は2度とこちらを振り返ることなく小さな旅行バックを持って部屋を後にした。
 辺りはもう朝日が昇り、小鳥のさえずりさえも、彼女の門出を祝っているかのようだった。
「寝ているフリも辛いぜ」
 ケンイチが起き出した。
「なかなか言わないんだもんな」
 マサフミも続いた。
「本当ね」
 チナツは自分の目にたまった涙をふきながら答えていた。さすがに、1番辛かったようだ。学校もクラス も一緒で、いつも隣にいた彼女が、ふと隣を見るといなくなっているのである。そんなことは、チナツ自身 いつかは来るものだと感じていても、いざその日が来るとは思っても見なかった。
「でも、最後まで問題を起こして、去っていったな」
 シンジも起き出した。
「あぁ」
 そして、しばらく沈黙が続いた。各々がユウコとの思い出をかみ締めているかのように・・・。
「じゃオレ達も帰るか」
「そうするか」
 彼らはチナツの家を後にした。
 そして、それぞれの道へと歩き始めたのである。

お  わ  り 

1999年作 SUGAR F