LOVE LETTER 2

 

(1)  それから

 2人の再会があってから、数が月の月日が経とうとしていた。マサフミは決してユミのことを忘れたわけでは ないが、特別に何かをした訳でもなかった。いつものようにワイワイする、そんな、いつもと変わらない生活 をしていただけなのだ。
 平凡的な生活がマサフミ自身嫌いではなかった。しかし、時間が経てば経つほど、ユミとの再会のきっかけ が薄れていくのも事実であると、マサフミも分かっていた。
 そんなある日、いつものようにマサフミは、彼の街を歩いていると、彼を呼びとめる声が聞こえた。
「マサフミ!」
 マサフミは、聞こえているのだが、あえて振り返ることはなく、聞こえない振りをしていた。なぜならば、 その声は彼にとって、はっきりと聞き覚えのある声だからだった。
「ちょっと!」
 マサフミは走ってきたその声に、とうとう捕まってしまった。彼は観念したのか、その声の方に振り返る と彼の思っていた人物が、血相を変えて立っていた。そうクミである。
「どうして逃げるのよ」
 クミの声はさらに大きくなり、そして、マサフミの腕をしっかりと掴んだまま放そうとしなかった。
「そんな大きな声で人の名前を呼ぶなよ。恥ずかしいだろ」
 マサフミは、クミとは対照的に小声で話した。
「だってマサフミが気付いてくれないんもん」
 クミも自分のしたことが恥ずかしいことだと気付いたのか、急に威勢が弱くなってしまった。
「もう良いよ」
 マサフミもさほど気にしていないようなのか、帰宅の方向へと歩き始めた。
 クミもマサフミの後に付いて行った。
「付いてくるなよ!」
 マサフミは立ち止まって振り返り、クミに怒鳴りつけた。
「だってしょうがないないでしょ。帰る方向が一緒なんだから」
 マサフミとクミの家は、数件しか離れていないほどの近所である。当然帰る方向も一緒であった。 そして、2人は、たいした会話もなくただただ歩いていた。
「あっ!」
 クミが何かを思い出したかのように叫んだ。
「そう言えば、あんたユミちゃんと会ったんだって」
 マサフミの後ろを歩いていたクミが、彼の隣まで歩みよってきた。
「ど・どうしてそれを・・・」
「どうしてじゃないわよ。会う時は私も呼んでって言ったじゃないの」
 一気に形勢逆転してしまったようだった。
「なんで知ってんの?」
「なんでじゃないでしょ。どうして誘ってくれないの?電話番号教えたの誰だと思っているの?1回しか会って ないの?もう会わないの?」
「だって・・・」
 マサフミはクミの質問責めに戸惑いを隠せなかった。
「だってじゃないでしょ。どうなの。質問に答えなさいよ」
「分かったよ。今度会う時に誘うよ」
 マサフミには、そう答えるのが一杯一杯だった。
「今度っていつよ?もう約束しているの?」
「いや。ユミちゃんとはクミの知っている1回だけだよ。約束もしてないよ」
「なんだぁ〜」
 クミは、ガッカリしている反面、妙にホッとしている様にも見えた。
 そして、家の前まで着いた2人は、それぞれの家に入っていった。しかし、マサフミはどうしてクミが知って いるのか、気になってしょうがなかった。
 2人で行ったあの店にもクミらしき人物はいなかったし、送って行く途中にも駅にもいなかった。もし仮に いたとしたら、彼女の性格から言って声をかけない訳がないのである。
 そうなるとマサフミ自身思い当たる人物が1人いる。エイジである。エイジもユミやクミと同様に中学時代 からの同級生で、マサフミが好んでいるいつもと変わらないメンバーの1人であった。
 エイジには何でも話せる間柄であることから、ユミとの出来事も当然話をしていたのであった。そのエイジ が何かの拍子にクミに話したとしたら、そう考えると、いやそれしか思いつかなかった。
 その夜、マサフミはいてもたってもいられなくなり、エイジに電話をした。
「おい。おまえクミに喋ったろ!」
 マサフミは、電話に出たエイジに挨拶もなしに怒鳴りつけた。
「おいおい。何のことだよ」
 エイジは、マサフミも怒鳴り声にも冷静に答えていた。
 マサフミは、エイジにユミよ2人だけで会ったことをクミに喋ったのか、エイジに問い正した。
「あぁ。言ったよ。クミとこの間偶然会ってな、御前とユミちゃんの話しが出たから、マサフミがデート したって言ったよ」
 エイジは淡々と答えた。
「なんで言ったんだよ。本当は、クミも誘わなくちゃいけなかったんだよ」
「本当かよ。どうして言わなかったんだよ」
「そんな展開になるなんて想像するか普通?」
 怒っているようで、それでいてガッカリしているような口振りだった。
「そりゃ〜そうだ。でも、マサフミがデートしたって聞いて、かなり愚痴ってたぞ。苦労して電話番号手に入れた とか、2人だけで楽しんだとか、いろいろとな」
 エイジの言葉を聞いて、マサフミは無言になってしまった。確かにあの時、クミはどうやってユミの電話番号 を入手したのかは語らなかった。マサフミも次の日に電話してきたクミに、そんな苦労があったなんて、気付きもしなかった。
「御前からも何か言ってやれよ」
 エイジはそう言って電話を切ってしまった。
 マサフミはエイジがクミのことを中学の時から好きなのは知っていた。知っているからこそ、一方的に電話を 切っても何も言えなかった。そして、クミには誤らなければならないと感じていた。しかし、マサフミに何か と突っかかってくる彼女を彼は苦手としていた。その時、マサフミの携帯が鳴った。
「もしもし。あんたいつまで電話してんのよ」
 さっきは、エイジに怒鳴られ、今度はクミだ!
「エイジに電話していたんだよ〜」
 なんで、クミにこんなことまで言わなければならないのか疑問に思っていた」
「あっそ。なら良いんだけど」
 マサフミは、クミのその言葉を聞いて、電話の相手がエイジじゃなかったらどうなっていたのか、 不思議に思い無言だった。
「あのね。いまユミちゃんと電話して、今度会うことにしたから、エイジも呼んで4人で会うからそのつもりでね」
 クミの一方的な提案であった。マサフミは、何とも言えない思いを感じていた。確かにきっかけを失いかけ ていたのは事実である。そして、そのきっかけを作ってくれたのはクミだ。そのクミには感謝しているが、 それよりも2人っきりで会いたかったと言う思いが強かった。
「あぁ。そう」
 だからかマサフミは、そっけない返事を返すだけだった。
「今度の日曜日だから。エイジにもそう言っておいて」
「また急だなぁ」
「なにか用事でもあるの?」
「いや特にないけど」
 平凡が好きなマサフミに、特別な用事なんかある訳がなかった。
「じゃぁ。よろしくね。バイバイ」
 クミはそう言って電話を切ってしまった。
 マサフミもこのことをエイジにもう1回電話して伝え、今度の日曜日に無事再会することが決まった。
 




2000年作 SUGAR F