タイムスリップ

 

(3) 生還

私は、もしこのまま、元の世界に戻れなかったらどうしようか。など、用をたしながら考えていた。 そして、用を済ましドアをあけると。『ガチヤ』
「あれ?」
 ここは何処だ?
 そこには、何処かで見たような風景とネオンが広がっていた。
 今度は、何処に来たんだ。ホテルのロビーのようだが。私は360度キョロキョロ見渡した。
「つかぬことをお伺いしますが」
 私は、フロントのホテルマンに尋ねた。
「はい。何でしょう」
「ここは何処で、今日は何月何日ですか?」
「場所と日時ですか」
 ホテルマンはいきなりの質問に戸惑っている。
「ここは、広島グランドホテルです。今は、平成7年12月30日ですがなにか?」
「どうもすみません。有難うございました」
 戻った。タイムスリップした2日後に戻ってきたんだ。私は急いで、タヌキに電話をした。
「どうしたんだ。2日も電話しないで」
 私は、タイムスリップした話や彼の両親に会った話をしたが信じてもらえなかった。
 そして、新幹線に乗って帰路につく途中ずっと考えていた。今まであったことは夢だったのだろうか。 子の電車に乗っていることも夢ではないだろうか。そして、ふっとした時、足を椅子の角にぶつけてしまった。
「痛て!」
 そうか。確か足を捻挫して包帯が巻いてあるはずだ。もし、今まであったことが本当ならば。
 そう思った私は、右足のズボンをまくり上げ靴下を降ろした。
「やっぱり夢じゃない」
 私は、右足にしっかり巻いてある包帯を見て確信した。そして、包帯の中に何かあるのに気がついた。
「何だ?」
   私は、包帯をゆっくり解いてみると、中から綺麗な10円札が出てきた。
 そうか、私はあの時、ニセ札しか持っていない一文なしだと思って、婦人がこっそりいれておいたんだ。
「な・なんで」
 私は、自然と涙が出てきた。私自身こんなに人に親切にされたことはあっただろうか。そう思うと婦人の ことが気になり、もう1度、新幹線からタヌキに電話をした。
「オレのお袋?えーと。確かオレを産んだ次の日に死んだって育ての親から聞いたことがあるなぁ・・」
 そこから先のタヌキの言葉は何も聞こえなかった。
『死んだ』
 次の日に死んだのか!悲しすぎるよ。そんなこと知らなければ良かった。
 私の顔は涙でグシャグシャになっていた。
 神様お願いだ。もう1度タイムスリップさせてくれ、そうしたら彼女を死なせはしない。



お  わ  り 

1995年作 SUGAR F