摺れた草色の服で係員がホームに現れる
片手でやっと持ち上がるくらいの青銅の鐘を振り回す
カランカランカラン
カランカランカラン
大きな音が澄んだ空気に響き渡る
汽車の到着が村中に知らされる
上りも1日1本
下りも1日1本
10分前に鳴らされた鐘
10分過ぎても着かない汽車
線路には雑草が生い茂る
ホーム向かいの斜面には小さな花
小指の先くらいの花が赤く揺れている
ちらちらと命
人さし指くらいの黒いハチドリ
羽ばたき静止し蜜を求め花を揺らす
待つ者たちがその刹那に気付いている様子は無い
ダンダンダン
ゴトゴトゴト
線路を鳴らし汽車が近づいてくる
やがて緑の旗が振られる
汽笛が鳴り響く
盛大に蒸気が吐きだされる
ダンダンダン
ゴトゴトゴト
車窓から綿帽子が入ってきた
沼地に咲く白は蓮
田圃に咲く白は鷺
ぽつんと見える人影は決まって案山子
キャンディまで162キロ
平均時速20キロの汽車枕
世界有数の紅茶の産地を通過する
列車が通り過ぎると線路は本来の道に戻る
沿線の生活に手が届く
手にした鍋をそのまま上げたおばさん
隣の娘がすとんと井戸にバケツを落とす
クラス総出で手を振る赤いズボンの園児たち
駅舎には洗濯物が干してある
牛の鼻先へバナナの皮を投げた
2007年2月22日 エッラからキャンディへ