ベランダの日陰に入り過ごす午後


目の前には風景が広がる


踏み入ることの出来ない異国の風景


気候が良いのだろう


木々は眩しい緑に蔽われている


枝から枝へ鳥たちが行き交う


その下に人の生活がある


やわらかい陽射しが降り注ぐ


中には全ての葉を落としている木もある


空に向かった枯れ枝


良く見るとそれらは芽吹き始めている


点々とした幼い緑


ひとつひとつが生まれたての瑞々しさを湛えている


光に向かい


すくすくと育ち


すぐに見違えるほどに逞しく成長するだろう


北半球は春




巡ってゆく季節


巡ってゆく命


嬉しくもあり


切なくもあり




春になると毎年思い出すことがある


最近のことのように感じているが来月には4年生になるのだから


ちょっとした昔話になった


甥の誕生を知ったのは


友人の家で菜の花御飯を食べている時だった


良い機会なので友人に誕生祝を作ってもらうことにした


流木で作った足と背もたれ


コンクリートを固めた座板


異なる材質のコントラスト


大らかな温かい感じの椅子になった


数日後 甥に会いに行った


まだ猿の顔をした赤ちゃんがのびのびと寝ていた


その隙にそっと石膏で握りこぶしの型を取った


名前と誕生日と手形をプレートにして


座る所の裏側に埋め込んだ


自分では最高のプレゼントが出来たと思っている


菜の花御飯の鮮やかな緑と共によみがえる思い出


3月になった途端に咲き出す一本の桜があった


毎年会えるのを楽しみにしていた


ごちゃごちゃした東京の路地を曲がると咲いている


突然に現れる


まるく温かい桃色のひかり


心がふわーっと広がっていった


ある年残念ながら隣家の執拗な苦情で切られてしまった


桜の家のおばさんは随分と力を落とした


掛ける言葉も無く


おばさんの可愛がっているタロウ(猫)の話だけして帰った


触った切り株は生々しく生きていた


冬を越そうとしていたクワガタが死んだのもこの時期だ


亡くなった祖母が体調を崩し始めたのもこの時期だ




風が吹き


太陽が注ぎ


雨が降る


新しい命


ひと雨ごとに大きくなってゆく


太陽を浴びてすくすくと育つ


輝き


鮮やかな光


その影でひっそりと去ってゆく者達


季節が巡る


そのすべてを見つめ憶えていたい

















        2007年3月30日 ジャイガオン