ひかりの中に腰かけて。
海を見ていた。
風を感じていた。
ときどき、あくびをしながら文庫本に視線を落とす。
タヒチに渡ったゴーギャンの生活が綴られている。
2001年の暮れのことだ。
クアラルンプールから小さな飛行機で東に飛んだ。
プロペラが太陽を反射しながら廻っていた。
ちょうどモンスーンの時期で島は閑散としていた。
日が暮れると潮が満ちてくる。
海に面したバンガローで波音と月光に抱かれて眠る。
朝には新しい砂浜がひろがる。
波打ち際に椅子を出し一日を過ごす。
ひねもすのたりのたりかな。
くぷくぷが飛んできた。
この国では蝶々のことを、そう呼ぶらしい。
昨日会ったオーストラリア人のエステルが教えてくれた。
くぷくぷは、海からの風に向かって、しばらく飛んでいた。
やがてきびすを返すと、山の方に風と共に舞い流れていった。
3人の女の子が、やってきた。
「アパ・カバー」
「ナマ・アンダ・シアパ?」
エマ、ミサ、ミラ。
自分の名前も教える。
砂浜に日本の形と国旗を描く。
ちいさなミラが、いきなり砂だらけの手で足元のカメラを拾い上げる。
「待て、待て、待て」
タオルで手を拭いてあげて、再度カメラを渡す。
3人はしばらくカメラで遊ぶと集落の方へ帰っていった。
ひかりの中に腰かけて。
海を見ていた。
ある決心をした。
2002年が明けて東京に戻った。
その時、書いた文章は何やら決意表明のようだ。
削ぎ落とします。
ふくらみます。
準備であり目的であり過程であり完結であり。
全てが繋がってゆきます。
寄り道や隙間も楽しみます。
うつらうつらと居眠りをしながら、瞬間を楽しんでいた季節。
LONG VACATIONが終わりました。
自分の中で自分の在り方が変わりました。
そして同じように自分自身で在り続けます。
これからの長い旅が、あの日のような光と祝福に包まれますように。
2003年6月12日 東京