未だ梅雨の明けない東北。


今年は海に入れないんじゃないか。


ほとんどの人が、そう思っていたらしい。


そんなある日、台風が通り過ぎ、一瞬の夏が訪れた。




小川さんが船を出してくれて、オランダ島に渡った。


穏やかな入り江に浮かぶ、小さな島。


海水浴に、釣りに、夏を待ちわびた多くの人が訪れていた。









朝から水着を着てスタンバっていた、ミーちゃんが海に駆け出す。


小川さんも少しずつ海に入ってゆく。


生後一ヶ月、海初体験のコーちゃんは、日陰で気持ち良さそうにお昼寝。


奥さんが優しく見守る。




波の音。


ひぐらしの声。


おだやかに吹き抜ける風。









さて。


「まずは」のビールを飲み干し、海に向かう。


足の先を、そっと入れる。


なんじゃこりゃ!


想像を絶する水の冷たさ。


思わず浜に後ずさる。


この水温は、絶対に15度以下だ。


マジかー


周囲で繰り広げられている当たり前の海水浴の光景が、驚きに変わった。




少し前進しては後ずさり。


しばし立ち止まり、また少しだけ前進。


結局、膝が浸かる程度しか進めなかった。




浜から1メートルほどの海に、腕を組み震えながら立ちすくむ。


思い切り海に遊ぶ周囲の人々を見回す。


鳥肌がたっていた。


すごいなあ。


やっぱ気合が違う。



東北の夏は短い。











                2003年8月10日 宮古