8月11日、午前2時。


北海道に上陸した。


東京を出発して11日目のことだ。




半端にフェリーで寝たためか、感覚が冴え渡っている。


とりあえず走れるだけ、走ることにする。


かなり冷え込んでいるので、ゴアテックスの雨合羽を防寒用に着込む。


ガソリンを入れる。




広く明るい3車線を過ぎると、すっぽりと闇に包まれた。


ヘッドライトの届く数メートルが世界の全てだ。


何も見えず、自分がどんな場所にいるのかも分からない。


濃厚な闇を切り裂きながら、時速60kmで進む。




闇。


寒さ。


スピード。


エンジン音。




前後左右の感覚が鈍くなってくる。


時々、自分が何をしているのか分からなくなる。


闇の中に溶けてしまうようで、自分をうまく認識できなくなってくる。


スロットルを緩め正気を取り戻す。




遠くに見える小さな光が、見る間に大きくなる。


トラックが悲鳴をあげて、すぐ横をすっ飛んでゆく。


風圧でグラリと車体が揺れる。




缶コーヒーで暖まりながら北上する。


午前4時。


鳥たちがさえずり始める。


底なしの闇が浅くなってきた。


だんだん風景が輪郭を取り戻す。


こんな所を走ってたのか。


まさに北海道の風景だ。



今日はどこまで行けるだろう。




白い光の領域が、少しずつ広がってゆく。


町が目覚めてゆく。









ひんやりした空気の中に、太陽の存在を感じる。


良い天気になりそうだ。




歩行者用の信号が点滅している。


スロットルを全開にする。


黄色に変わった交差点を走り抜ける。


バックミラーに映るトラックが小さくなってゆく。


「BORN TO BE WILD」のイントロが頭の中で鳴り始める。




ふとメーターを見る。


きれいにゼロが並んでいる。


「20000」


この瞬間をジェット(バイクのこと)の成人式としよう。


東京を発った時が「18942」


走行距離も1000キロを超えた。


まだまだ、遠くへ行こう。


行けるところまで走ろう。









                    2003年8月12日 苫小牧