8月13日。
朝、4時半に起きる。
羽幌から焼尻島に渡る船に乗るためだ。
出迎えの人達で賑わう港に着く。
お盆で帰郷する家族を迎える人もいるのだろう。
まずは、今日のねぐらを探す。
焼尻島にある民宿は全て満室だった。
しょうがない。
今日は天売島に渡って泊まることにしよう。
この時期は旅行者が多いのかなあ。
「この時期は、お客さんが多いんですか」
港で働くおじさんに聞いてみた。
「いやーほとんどが帰省。あと2、3日したら誰もいなくなっちゃうよ」
時間に制約が出来たので、自転車を借りて島を廻ることにする。
荷物をロッカーに預け、帽子をかぶり出発。
木漏れ日の森を走る。
ミズナラやイチイが低く横に枝を広げている。
厳しい環境なのだろう。
原生林を抜けると牧草地が広がる。
めん羊がのんびりと草を食む。
ちいさな花が短い夏に、たくましく咲く。
島の北に行き着くと、360度のパノラマ。
すぐ近くに天売島が見える。
足元にはハマナスが咲いている。
海に面した西側の丘陵地帯を抜けると集落に行き着く。
港は賑わっていたのに、ここには人影が無い。
ゆっくりしたつもりだったが、2時間で島を廻ってしまった。
船に乗るまでには、かなり時間がある。
ビールを買って、港のベンチでパソコンを広げる。
キーボードも思考も動かない。
あくびして、海を見ていた。
やがて船が港に入ってきた。
乗客が賑やかに降りると、港で待っていた人々が乗り込む。
大陸に帰る船。
演歌が流れ始めた。
似合いすぎる。
「体に気をつけてね」
「また、来いよ」
海から、島から。
大声で交される温かい言葉。
汽笛が鳴る。
この瞬間から、同じ時を過ごした人たちが、また別の時間を過ごす。
美しい別れのシーンだった。
「あと2、3日したら誰もいなくなっちゃうよ」
おじさんの言葉を思い出した。
2003年8月13日 焼尻島