なまし君とは、最南端の島、波照間島で出会った。


同じ宿で同じ部屋だったのだ。


その時、彼は大学生。


卒業旅行で北海道から沖縄を訪れた一人旅だった。




たった一泊の付き合いではあったが


その後、彼は丁寧な手紙を書いてくれたり


彼の住む町の名産物を送ってくれたりした。




北海道に着いた日、とにかく北へ向かおうと思い


なまし君の住む名寄は、ちょうど良い目標となった。


夜中の2時から、そのまま12時間走って名寄に着いた。




驚かせようと、連絡も入れず、いきなり職場を訪ねた。


彼の職場は役場の介護保険課だ。


30分ほど待ったが彼のデスクらしい机は空席のまま。


聞いてみると今日は休暇を取っているのだそうだ。




なまし君の携帯に電話をしてみる。


なんと彼は札幌にいた。


彼の好きな阪神タイガースの試合が札幌ドームであるのだそうだ。


そんなこんなで、もう一度、名寄を訪れることになった。









彼は、広い一軒家にひとりで暮らしている。


以前、祖父母が住んでいた家だそうだ。


北国らしく大きな石油ストーブが、ドンと家の真ん中に置かれていた。




「このネタは紋別から取り寄せているんですよ」


彼は特上寿司の出前で歓迎してくれた。


ビールは「SAPPORO CLASSIC」


お酒は北海道産「大雪の蔵」


以前送ってくれた名寄名物「くんせい卵」もテーブルにある。


「BGMは、これです」


♪あーあーあああああーあー


「北の国から」のテーマが鳴り響いた。




話題は波照間島でのことに自然と移った。


「いやー俺、カッコイイなーと思ってたんですよ。自分のことを。


俺って旅人だなあって。こんな遠くまで来て。


そしたら、そこを自分の庭のようにしている人がいるじゃないですか。


しかも、もっと遠くにバンバン行って。


でも、あの旅は俺の宝物です。一生の宝です」


なまし君は、沖縄ひとり旅のアルバムを見せてくれた。


そこには自分がシャッターを押した写真も何枚かあった。




「いやーでも切なかったですよ。千歳空港に着いた時は」


なまし君は波照間の宿に上着を忘れて行った。


あれは2月だった。


上着を持たず、30度以上いっきに気温が下がった地元へ戻っていった。


なまし君は、真面目で、誠実で、ちょっと抜けていて最高だ。


切なかったんだね。




「いやーおいしいっすねー。へへへへ」


名寄の夜が更けていった。


さだまさしが、歌い続けている。


うん、最高だ。












         2003年8月18日 名寄