走り終わってエンジンを切った時。


熱い湯船に浸かり体を伸ばした時。


電気を消して布団にもぐり込んだ時。




ああ、今日も生きていたと思う。




見通しの良い、まっすぐな道だった。


センターラインこそ書いてないが、車が余裕を持ってすれ違える、充分な広さもあった。


遥か後方からトラックが来るのを確認したので、端に寄ってスピードを落とした。




北海道では、車は100キロ近いスピードで走っている。


ジェット(バイクのこと)は、60キロくらいまでしか出ないので


後方に車を確認すると、端に寄って先に行ってもらっている。




近くまで来たかな。


再度、後ろのトラックを確認する。


ななななんで。


真後ろに来ていた。


バックミラーから、はみ出す大きさまで近づいている。




クラクションが激しく鳴る。


やばい。


ギリギリまで左により、スロットルを開ける。


これ以上避けようがない。


うおーぶつかる!


ガガガガガガガガ!




静かになった。




対向車線に車が止まっている。


無理にトラックを追い越してきたのだ。


物凄いセンスの改造を施した車体の低いベンツだった。


側面には、トラックと接触した、大きなキズがついている。





ふーっ、とにかく生きていた。


体がガクガクしていた。




「このヤロー!」


ベンツからサングラスにパンチパーマの男が降りてきた。


鬼の形相で、トラックのドライバーに掴みかかっていった。




やばかったなあ。


もう少しで巻き込まれるところだった。




安全運転を心がけている。


それでも道を走っていると、ヒヤッとすることが時々ある。


反対車線に向かう急ブレーキで付いたタイヤの跡は無数にある。


道端に花束を供えに訪れている、遺族らしき人を見かけた事もある。


他人事ではないなと思う。




ああ、今日も生きていた。


一日走りエンジンを切るとホッとする。





剥き出しの命として生きている。


それは全ての命に等しく与えられている条件だ。


大切に生きようと思う。













        2003年8月20日 美瑛