下駄を鳴らして奴がくる
腰に手拭いぶら下げて
同じ町に3日もいると、温泉に向かうのも、そんな気分だ。

観光客の少ない朝早くに、景勝地は廻った。
それから、海を見て、コーヒーを飲んで、猫と遊んで。
あとは、温泉と、夕陽と、ビール。
毎日通う岩尾別温泉までは約12キロ。
ジェット(バイクのこと)でトコトコ行っても30分ほどで着く。
カゴに手拭いを入れてエンジンを始動。
原生林をトコトコ、シャーッとアップアップダウン。
知床の大自然、風をきって走る。
ユースの近くには、悠然とした牡が3頭。
開けた草原には、数頭の群れ。
川の近くには、人懐っこい親子。
鹿たちのテリトリーも、だいたい憶えた。

白樺の林を抜ける。
たんだん苔むしたトドマツの大木が増えてくる。
川のせせらぎ。
鳥のさえずり。
ジージー鳴くエゾゼミ。
テネシーワルツをシャッフル気味に鼻歌。
最後の坂は2速で上がる。

「ホテル地の涯」の奥にある露天風呂は無料で入れる。
脱衣所も何もない。
自然の中で裸になり服を岩の上に置く。
湯が滝のように落ち、湯船は三つの連なった滝壷。
今日は真ん中だな。
日によって湯加減は違うが、上に行くほど熱い。
「どちらからですか」
此処は羅臼岳への登山口にもなっていて
逆側から登った人が、帰りにひと風呂浴びてゆく。
全身浸かったり、岩に腰掛け足だけ浸かったり。
にじんだ汗が肌の上に玉になる。
一時間ほど、ゆっくり温まる。
そろそろ太陽が沈み始める。
蝉の声が岩に染み入る。
テネシーワルツ鼻歌で峠をトコトコくだる。
あのカーブを曲がれば、海が見える。
2003年8月25日 ウトロ
