今日は何日だったっけ。


今日は何曜日だったっけ。


旅に出てから一ヶ月以上が過ぎ、日にちの感覚が無くなった。




それでも、どうしても意識してしまう日がある。


9月11日。


あの日から2年が過ぎた。


未だ不条理と暴力は、この地上から無くなっていない。




昨夜までの雨が上がった。


朝陽が差し込む。


群青色の山々が緑に変わってゆく。


ひんやりした空気に温かさが混ざってゆく。


雨に洗われた木々がキラキラと輝く。


鳥が鳴き、川が流れ、稲穂が揺れ、雲が形を変える。


バイクを止めて、深呼吸。


なんて素晴らしい世界なんだ。




I see trees of green, red roses too

I see them bloom, for me and you

And I think to myself, what a wonderful world



The colors of the rainbow, so pretty in the sky

Are also on the faces of people goin' by

I see friends shaking hands, saying, "How do you do?"

They're really saying, "I love you."




ゆったりとしたリズム。


太く優しい、しゃがれ声。


「なんて素晴らしい世界なんだ」


サッチモが「what a wonderful world」を歌ったのは1967年。


ベトナム戦争の真っ只中のことである。


民主主義と自由を守るため。


民衆と平和を守るため。


アジアの小国で多くの命が失われていった。


サッチモは出兵する兵士達の前で、この歌を歌ったという。


彼はどんな気持ちで歌ったのだろう。


兵士達はどんな気持ちで聞いたのだろう。




ギアを2速に入れスロットルを全開にする。


ジェット(バイクのこと)がトコトコと日高の峠を上がる。


メーターが「23942」を示した。


旅を始めてからの走行距離が、5000キロを超えた。




たくさんの美しいものを見た。


ちょっとの醜いものを見た。


どちらも自分の内側にあった。


自分という世界に改めて問いかける。


世界は素晴らしいのだろうか。




北斎が描いた「箱根」を思わせる色彩の山々を抜けた。


水が流れ風が吹きぬけ、アイヌの聖地、二風谷を抜けた。


思っていたより早く進んだ。


今夜のねぐらを富川から千歳に変更する。


千歳の街には戦闘機の轟音が鳴り響いていた。


自衛隊の演習が2年振りに再開されたのだ。


陽が落ちると街は燃えるような夕陽に照らされた。




沖縄では停滞した台風が猛威を振るっている。


宮古島で記録的な風速を記録したらしい。


友人たちは大丈夫だろうか。


大きな台風があると、珊瑚礁はきれいになるのだそうだ。


海水が混ざり、海中のバランスが保たれるらしい。


幸い(さいわい)と災い(わざわい)は時々似てるように感じる。




世界は素晴らしいのだろうか。


あのカーブを曲がったらどんな風景があるのだろう。


あの峠を越えたらどんな風景があるのだろう。


そんな気持ちの連続で明日がやってくる。




旅を続ける。


「素晴らしい世界」を願う。


「素晴らしい世界」を感じたい。


「素晴らしい世界」を信じたい。


出会う全てに心からの「アイラブユー」を。













      2003年9月11日 千歳